超ショートショート「クリップ」

　100均で買った、木製の小さなクリップ。110円で30個も入っている。非常にコスパが良い。

　このクリップ、用途も多彩で、日常のあらゆるシーンで活躍する。例えば、お菓子の袋を開けてしまって食べきれなかった時、これを使って留めておく。冷蔵庫の中でも使えるので、残ったちくわの袋を留めておくとか、ソーセージの袋を留めておくとか、あらゆる袋が守備範囲となる。

　ただただ袋を留めておくのがクリップの仕事ではない。カーテンのタッセルにクリップを引っ掛けて、カーテンの端に留めて吊るしてしまえば、タッセルを掛ける壁のフックなどは不要となる。カーテンをまとめるときもタッセルをカーテンに巻き付けた後、端と端をクリップで留めてしまえば良い。見た目もシンプル。

　他にも紙コップや牛乳パックの底を用意して、淵に沿ってクリップを挟めば、ペン立てを作ることもできる。ペンとクリップの相性は良く、文房具のフィールドでも活躍の場は広がっている。それ以外にも、コースター、TODO管理ボード、冷蔵庫のマグネット、写真立て、子供の工作、スマホの充電ケーブルまとめ、と、とにかくなんでも作ることができるのだ。

　この木製のクリップにすっかりハマってしまって、最近は家中どこでもクリップが視界に入るようになった。壁、棚、引き出し、ありとあらゆる場所で自作したクリップの作品が置かれている。木の香りがしっかりするので、リラックス効果も抜群。家の中でいつでもリラックスできるように、着ているシャツの襟にクリップを挟んでおいて、たまに匂いを嗅いだり舐めたりしている。（たまにクリップを襟につけているのを忘れて外出してしまい、ちょっと恥ずかしい思いをすることがあるがご愛嬌。）

　加えて、ストックとして30個入りのクリップを100袋ほど、クリップで作ったカゴの中にしまってある。家中で使われているクリップをかき集めたら10000個は余裕で超えるんじゃないか？このカゴだって400個くらい使っているし。

　ただ、ストック100袋程度では心許ない。今製作中のクリップを使った作品は、ソファーなのだ。まだ足と土台の少ししかできていなくて、もう1000個は使ってしまった。今までで最大の作品となるのは間違いなく、5000個でも足りないくらいクリップを使う事になりそうだ。トータルで6000個のクリップを使ったソファーが完成すれば、原価は30個で110円なので、22000円にもなる。それだけあれば、ちょっとした一人用のソファーは買えるかもしれないが、これはあくまで趣味であり、作る過程を楽しむ代物でもある。22000円で有意義な時間100時間あまりと、お気に入りのソファーが手に入るのだから安いものだ。

　ソファーが完成したらもっと作りたいものがある。ベッドも作りたいし、ダイニングテーブルや椅子も必要だ。壁の一面にクリップを貼ってアクセントクロスみたいにもしてみたい。いっそ、田舎に土地を買ってクリップで家を作ってしまえば、究極のクリップハウスが完成する。夢は膨らむばかりである。

　そんなことを皮算用しながら、僕はカップに注いだクリップの煮込みスープを啜った。