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協同主義の立ち位置

 第一回は協同主義のカテゴリーについてです。

 このカテゴリー分けは、比較や情報整理により特定の思想や文化への理解促進の足がかりになるので非常に有意義です。

昭和研究会

 最初に主だって協同主義が唱えられたのは、近衛文麿の同級生や友人が集った昭和研究会(1936年設立)でした。会員の三木清を中心に昭和研究会から1939年4月に新日本の思想原理・協同主義の哲学的基礎・協同主義の経済倫理、1940年9月に協同主義の経済倫理が発表されます。1940年に近衛文麿内閣により新体制運動が開始され、昭和研究会は内紛(?)の末に解散しました。この運動は、以下のようなものです

 独占資本、すなわち財閥の市場支配力によって国民の貧富の格差が拡大した、という右翼と左翼の認識があった。財界は自由主義的な資本家が活躍していた時代である。独占資本主義を修正しなければならない、という認識が官僚を含めて広がっていた。

 近衛文麿自身も近衛文麿の周囲の多くもアジア主義的思考を持っていたのは、近衛内閣の東亜新秩序(1938年声明発表)の下地を昭和研究会の蝋山政道東亜協同体論と名付けて改造に投稿していることからわかります。

 本題に戻りましょう。協同主義を実践しようとした近衛文麿、昭和研究会のイデオローグ哲学者・三木清、経済学者・加田哲二、行政学者・蝋山政道などの殆どの会員は、マルクス主義及び社会主義の影響を強く受けています。先に引用した文章からも、資本主義を擁護する立場とは考えられません。しかし、彼らはマルクス主義者ではないのです。

協同主義とマルクス主義の相違

 協同主義を掲げた彼らのもう一つの顔であるアジア主義は、地域に根ざした民族主義を前提とする普遍的国際主義です。大和民族(琉球人を分けてカウントできないのは薩摩が影響しているのかな?)、朝鮮民族(ゴリゴリの植民地支配を行なっているんだけど、一応重視している体裁)、満州民族、中華民族と民族ごとの自決と、それを共に栄させていく枠組みを日本がリードする形を理想にしていました。

諸国民の民族的な差異と対立とは、ブルジョワジーの発展につれて、商業の自由や、世界市場や、工業生産とこれに対応する生活の諸関係の一様化につれて、次第に消滅しつつある。プロレタリアートの支配は、ますますこれを消滅させるだろう。                         『マルクス=エンゲルス全集』(大月書店)四巻四九三頁

 上記の通り、明らかにマルクスと民族への姿勢は異なります。

 協同主義は資本主義への統制します。現段階でこの事は明らかです。では、どのように統制していくのでしょうか?

産業組合

 昭和研究会の会員である有馬頼寧が要職を務めていた産業組合(現農協)は、産業組合的経済組織論を指導者の千石興太郎が発表していました。産業組合青年連盟(地主階級の優遇をした本部に対して反抗的姿勢を取ったことでも知られる)をはじめとして、農民の組織化、組合で決めた均衡価格を破壊しようとする外部業者の追放など世界でも稀に見る巨大な協同組合組織を築いた基礎土台はここにあります。その時、反産業組合運動も大きくなっていました。以下はそれに対しての千石興太郎含めての反論になります。

産業組合が生産者と実需者との間に存在する中間利潤の排除に成功すれば、資本主義でも社会主義でもない理想的な経済社会が生まれるというユートピアを描いた。

 協同組合による価格の均衡、それと中央政府による法的規制が鍵となります。これらの運動は同時並行的に行われ、会員同士が重なっていることもあり、交流を伺えます。

コーポラティズム

 昭和研究会はファシズムに反対すると宣言してます。そして、その後のナチズムも批判対象としています。協同主義は協同組合のような中間団体による経済参画を下地に全体の経済方針を決めていくことが明らかです。これ自体は、コーポラティズムに含まれる考え方です。コーポラティズムそのものは、ムッソリーニが主導したファシズムやスウェーデン社会民主労働党が主導した北欧型社会民主主義も含まれます。

 (1)義務的・資格制限的加入ないし高い組織率、(2)組織内セクター間の非競争性、(3)的・設計的秩序、(4)指導者の自選、(5)独占的に利益を代表し協議することの認可、(6)利益団体の集中と統合(単一性)、および、(7)協調的で圧力や闘争のない政策決定過程 
井上達夫(責任編集)『岩波 新哲学講義7――自由・権力・ユートピア』岩波書店1998、所収.

 と北大大学院経済学研究科の教授・橋本努のサイトで公開された『岩波 新哲学講義7――自由・権力・ユートピア』でも記述されています。概ね、コーポラティズムの範囲に協同主義が存在することがわかります。

 三木清の協同主義は、文字通りに受け取ればcooperationismになります。このツイート通り、やはり、実情は完全に後者のcooperationismでしょう。

 




数年前にトルコに渡航していました。現在はオルタナティブ系スペースを運営しています。夢はお腹いっぱいになることです。