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争うのではなく、共に生きる――共存共栄の精神が息づく城崎の魅力【旅行記その1】

毎年、必ず城崎温泉へ行く。妻と初めて旅行したのが城崎で、それ以来、ふたりで年1回以上のペースで行くようになった。城崎は本当に素晴らしい。温泉街ならではの雰囲気――旅行客の浴衣姿や、下駄の「からんころん」という音、そして印象的な柳並木が情緒的で、日々の忙しなさから切り離された“非日常感”を楽しむことができる。

城崎には、「街全体がひとつの旅館」というコンセプトがある。それぞれの旅館は「客室」、駅は「玄関」、道は「廊下」、土産物屋は「売店」、外湯は「大浴場」といった位置づけだ。有名温泉地の大ホテルによくある、スナックやカラオケ、ラーメン屋までが館内に揃っているようなスタイルとはまったく逆で、温泉街全体が豊かになり、街として活気にあふれることで、みんなが潤う――そんな「共存共栄」の精神が基本になっている。

このコンセプトは、昨日今日に始まったものではない。1925年(大正14年)5月に発生した北但大震災により、城崎の温泉街は完全に破壊され、発生した大火によって、ことごとく焼失した。その時、当時の旅館の主たちは、街路を整備し、元の木造建ての旅館を再建するとともに、「共存共栄」のルールを決めたという。争うのではなく、共に生きる。競争社会に身を置く我々現代人が忘れてしまいがちなマインドが、城崎には息づいているのだ。

今年の城崎旅行記(1日目)

今年の城崎旅行は両親の還暦祝いのため、ぼくと妻と父母の4人で行くことになった。母が「とにかくお腹いっぱいカニが食べたい!」と言うので、じゃらんで香住ガニづくしのプランがある旅館を予約した。今回泊まった旅館は過去にも一度利用したことがあって、夕食は徹頭徹尾カニ三昧。ぼくと妻がいつも利用するお気に入りの旅館は別にあったのだけど、カニをたくさん食べるならこの旅館が正解だと判断した。

城崎までは、自宅から片道約3時間かかる。車一台で乗り合わせて、朝の10時頃に出発し、13時くらいには現地に着いた。これは城崎旅行あるあるなのだが、いざ到着して昼食をたくさん食べてしまうと、旅館の豪勢な夕食がお腹に入らなくなってしまう。前回、ぼくと妻はせっかく「Go To トラベル」を利用していつもよりも贅沢なプランを予約したのに、そのせいで夕食を食べ切ることができなかった。なので、過去の反省を活かして、今回のお昼は少し軽めに「キノサキバーガー」を食べることにした。

画像引用:きのさき温泉観光協会公式サイト

ぼくが注文したのは、粗挽き但馬牛肉100%のパティを使用した看板メニュー「但馬牛チーズバーガー」。夕食はカニづくしのため但馬牛が食べられないので、両親に但馬牛を食べてほしかったという思いもあった。ぼくも城崎には何度となく訪れているが、キノサキバーガーを食べたのは初めてだった旨味たっぷりの肉汁が溢れ出るハンバーガーで、食べ応えも抜群だった。

昼食を終え、旅館にチェックインを済ませると、ぼくらは手持ち無沙汰になった。それもそのはず、城崎はばたばたと動きまわるところではなく、忙しない日々を忘れ、ゆったりとリラックスするところだとぼくは思っている。そもそも夕方に旅館から歩いて出かけられる場所なんて、外湯か温泉街の店くらいのもので、綿密なタイムスケジュールを組むには無理がある。なので、ぼくらは夕食の時間まで、浴衣に着替えて外湯に行くことにした。

画像引用:豊岡市フォトライブラリー

ぼくと妻が入ったのは、城崎七つの外湯のひとつ、「御所の湯」。火伏防災、良縁成就、 美人の湯といわれており、南北朝時代の歴史物語『増鏡』に、1267年(文永4年)に後堀河天皇の御姉安嘉門院が入湯したという記事があることから、「御所の湯」と名付けられている。

画像引用:豊岡市フォトライブラリー

館内は但馬の山をイメージしたキンキマメザクラやミツバツツジ等の植栽が施され、裏山を借景にした開放感溢れる露天風呂となっている。両親とは別々に行動していたのだが、偶然にもなかでばったり父と遭遇してしまった。ぼくは実の親なのでなんともないけれど、女湯で母と邂逅した妻は、義母との突然の裸の付き合いにさぞかし気まずかったことだろう(笑)。

画像引用:きのさき温泉観光協会公式サイト

旅館へ帰ると、ちょうど夕食の時間だった。夕食は母の希望通り、前菜から〆の雑炊まで、とにかく終始カニまみれ。ぼくたちが食べた香住ガニというのは、香住漁港でのみ水揚げされる紅ズワイガニのことで、有名な松葉ガニなどと比べて、瑞々しく上品な甘みが特徴となっている。今年の香住ガニは11月6日に漁が解禁されたばかりなので、贅沢ながらたらふく食べさせてもらった。父も母も、次々と運ばれてくるカニ料理に大喜びしていた。

カニの刺し身、カニ味噌、茹でガニ、カニ鍋など、本当にこれでもかというほどカニを食べ尽くした。あと、お酒もたくさん飲んだ。「香住鶴」という地酒があるのだが、その熱燗がこれまた美味しく、カニに合う。飲んで、食べて、話して、笑ってをひたすらに繰り返した。

画像引用:豊岡市フォトライブラリー

食事のあとは、温泉街をぶらつくことにした。ぼくと妻は城崎に来たら、いつも立ち寄る射的場がある。早口で聞き取りにくく、ほとんどなにを喋っているのかわからないことで有名な(?)おじさんがいるお店だ。ここで射的をしなければ、城崎の夜は越せないといっても過言ではない。それくらい大好きな射的場なのだ。

写真は、お酒と温泉街の雰囲気にあてられて陽気なぼく。テレビ画面に大好きな「いないいないばあっ!」のワンワンが映っていたこともあり、テンションはかなり高め。余談だが、ぼくは本当にワンワンが大好き。教育番組のキャラなのに時折おじさん感が出てしまうところがいい。妻にはなぜか「ちょっと似てる」と言われる。面長なところと犬っぽいところかな。

射的では、父とどちらが多く的を落とせるかを競っていたのだが、惜しいところで敗けてしまった。おじさんからは景品として、なんかよくわからない、ムギュッと押すとキラキラ光るスライム状の指輪をもらった。まったく要らなかったが、まあ今夜くらいはつけてやるかと、旅館に帰るまで指に嵌めてキラキラ光らせてみた。

射的のあとは、旅館近くのバルでまた飲んで、ついでにピザとか食べて、内湯に入ってぐっすり寝た。とても楽しく、にぎやかな夜だった。やっぱり城崎は最高だ。楽しすぎて、時間があっという間に過ぎていく。まだ行ったことがない人は、ぜひ一度旅行することをおすすめしたい。

(旅行記その2に続く)

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