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setaの日々煩い

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エッセイ、読書感想 etc.
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記事一覧

妄想日記「あなたへ」

妄想日記「あなたへ」

「本ばかり読んでいるから、まともな恋愛ができないんだ」
あなたはそういって私をからかうのが好きだった。
私がそれに対して噛み付くのに備えて、どこかワクワクしているようでもあった。
まるで、小動物をからかう時のように。
鼻先に餌をちらつかせて、近づくとそれをまた少し離して小さく揺らすのだ。

「どうしてだと思う」
あなたが、戸惑うのがわかった。
それじゃないだろういつものは、という顔をしている。

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妄想日記「きみが人間だったころ」

妄想日記「きみが人間だったころ」

きみが人間だったころ、きみの目線の高さにはよく死が転がっていた。

2年前の夏、夜の街をきみと歩いていた。
「ほら、若いカマキリだ」
きみは立ち止まり下を向いて潰れたカマキリを指さしていた。
サッと目を走らせて、確かにその体が少し透明な瑞々しい黄緑色であることを確認した私は、適当な感じでこう言った。
「そう。そんなことよりレストランに間に合わない。急いで」
私はきみの手を強い力で引っ張って歩かせた

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短編小説「夏の脳」

短編小説「夏の脳」

夏は、脳もバテるようだ。最近の私の抜け落ち具合と言ったら恐ろしい。このままの状態が続いたらどうなるんだろう。そんな不安な日々を生きている。

「最近ね私、星野くんのことだけが覚えられないの」

そう話し始めた。カフェで向かいの席に座る奈々が神妙な面持ちで頷く。
「それ以外の人の話は覚えてるの。約束も。星野くんの情報だけが追加できない」
「たとえば?」
「例えば、新しくできた友達の話とか。その友達が

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短編小説「こどもの森」

短編小説「こどもの森」

そこは、どこだ。ここは、どこなのだろう。

私は、一軒のありきたりに古く、それなりに整備された一軒家にいた。ガラス戸は、少しばかりの庭と雨よけの屋根がついた駐車場に向けて開け放たれていた。私の家ではない。それだけは、私の表面を覆う薄い緊張からわかる。子供の声がする。自分のいる廊下から、声がする広い和室に入る。すると、そこには大きな一枚板のローテーブルが中心に置かれており、その周りを子供達が囲んでい

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妄想日記「裸族のきみ」

妄想日記「裸族のきみ」

八代奈々 30歳 会社員

「裸族って本当にこの世界のどこかにいるんだよね」
「裸族って、性癖の方?部族の方?」
「部族の方に決まってんでしょ。」
会社の休み時間、いつもの面々はそんな話題で盛り上がっている。
対するわたしは、不意に降ってきた痛点にどきりとする。
集中がうまくできず、フォークを落としてしまった。
「もう、奈々。なに動揺してんの。」
みんなが、優しく笑ってくれる。そのことに、安堵した

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楽描き「まったく、一体、どうして。」

楽描き「まったく、一体、どうして。」

なんべん繰り返しても目的地までの辿りつき方を忘れてしまう。そんなものが、私にとっての「もの作り」だ。曲は14歳から、たくさん作ってきたし、数年前にはnoteで「東京地下2階」という長編小説を書いたり、短い物語を書いたりしてきた。それでも、毎回作り終えた直後こう思う。「あれ、これってどうやって作ったんだっけ」と。

この感覚をわかりやすく例えると、あなたが何度か通ったことのある料理屋があるとする。そ

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楽描き「散歩道」

楽描き「散歩道」

一日に一度は、かならず散歩をする。

Spotifyに作った「好きなもの」フォルダから洋楽を選んで自作自演の散歩DJ。歌詞がわからないことが、重要。英語がわからないことが、前提。今日は、Sigridの「Bad Life」から始まってMaroon5の「Lost」で終わった。( うーん、なんとなくどちらも題名が暗い(笑))

そういえば、先日買ったチェキも持って出かけてみた。昨日たまたま見た写真展がと

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「最近読んで面白かった本」

「最近読んで面白かった本」

こんにちは。12月に入り、2022年も残すところわずか。みなさんは「やり残したこと」ありませんか?わたしは「読書」です。あれもこれも読みたいのに、まだ読めていない本達に気づき怒涛の追い上げのなか、素敵な本と出会えたので紹介します。

「おいしいごはんが食べられますように」高瀬隼子

第167回、芥川賞受賞作。タイトルと、表紙デザインに騙されてはいけません。心の底からざわざわとする物語です。職場でそ

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妄想日記「三軒茶屋の一室から」

妄想日記「三軒茶屋の一室から」

遠藤文香 20歳 大学生

最後の一本だった。三軒茶屋の黄色いアパートの一室、ベランダに置かれた灰皿の前で私は最後のタバコを指の間で持て余している。反対の手で、ポケットの中に手を突っ込むとくしゃくしゃになったレシートが出てきた。ハイライト、レッドブル、さけるチーズ、いつも同じものばかり買うのでいつのレシートだとしても大差ない。私は、再びそのレシートをポケットに戻し室内に視線を移した。カーテンは薄く

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妄想日記「恋」

妄想日記「恋」

星月なみ 16歳 高校生

「恋」と辞典を引くと、「ある人にあこがれ、慕う気持ち」と書いてあった。私は、国語の授業のことなど忘れて先輩のことを想う。強烈な憧れと、恨めしさ。私はこれを、恋だと認めてはいけない。

「なみ、授業終わったよ。次、移動」

友人のゆうきの声で、ハッとした。私は、黒板の上に掛けられた時計に視線を移し、ため息をついた。

「最近、ぼーとしすぎじゃない?しっかりして」

「うん

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ちいさな小説「地蔵の耳」

ちいさな小説「地蔵の耳」

地蔵ゆかは未だに、あの猫は自分が殺したのだと思っている。小学二年の夏、野良猫にしては珍しく毛の長い白い子猫を見つけた時、「これは自分だけの秘密にしよう」と決めたはずだった。子猫に「鈴」と名前を付け、毎日放課後に餌を運んで可愛がった。しかし、そんな日々にも慣れ、「一人だけなら…」と仲の良かった雪ちゃんにこの秘密を明かしたのである。すると、数日後に子猫はいなくなった。雪ちゃんが、子猫のことを両親に話し

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妄想日記「あの子のリュック」

妄想日記「あの子のリュック」

賀谷なつみ 24歳 会社員

大学時代の出来事を思い浮かべると、あの子のリュックのことを思い出す。彼女は目立つ生徒ではなかったし、性格も特に変わっていたわけじゃない。ただ、彼女のリュックが問題だった。可愛らしいトートバックを肩から掛けて登校する生徒の中で、彼女はひとり、登山用の大きなリュックを背負って登校してくるのだ。その姿は、なかなかのインパクトで、彼女のことを話すとき「あのリュックの子」と言え

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最近読んで面白かった本(旅編)

最近読んで面白かった本(旅編)

みなさん、こんにちは。
今年のGWはいかがお過ごしでしたか?いよいよ旅行へ行く方も増えてきて、東京はなかなかの活気でございました。そんな私も、先日金沢に旅行に行きました。やはり違う土地に行くというのはいい刺激を受けるものですね。さて、ということで、今回はこれから旅行へ行く計画を立てている方にぴったりな「旅に出たくなる本」を紹介します。

「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」若林正恭

お笑

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妄想日記「狼少女と隠れ非行少女」

妄想日記「狼少女と隠れ非行少女」

箱田むぎ 36歳 小説家

私の中学時代のあだ名は「狼少女」だった。転勤族の親の都合で、都会から田舎の中学へ転校することになった私は、周りから求められる「都会の子」を演じ、その延長線上に「あの読モと友達だ」とか、「おばあちゃんはイギリスで不動産屋を営むセレブである」とか…そんな小さな嘘がいくつも生まれた。正直、こんなに嘘を重ねてしまったのは、私の話を信じてしまう同級生たちが面白かったというのもある

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