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LSPにおける問いの投げ方

私たちLSPファシリテータが実践しておりますLSP* ワークショップでは、参加者はファシリテータが投げかける「問い」に応じて専用のレゴ®ブロック教材で作品を作ります。その「問い」は、参加者が普段あまり意識していないような、でもその人にとって重要な関心事について、考えたり、思い出したりしてもらえるようなものが投げかけられます。それによって、参加者は自分の意識下にある思いや信念や価値観について内省し、表出させることが可能となります。なので、LSPにおいて、この「問い」をどのように投げかけるか、ということは非常に大切になります。

*LSP:「レゴ®シリアスプレイ®(LEGO® SERIOUS PLAY®)メソッドと教材を活用したワークショップ」の略称。詳細はこちらをご参照ください。http://www.seriousplay.jp/

一方で、「問いかけ」や「質問力」の重要性自体は、教育界でもビジネス界でも注目が高まって久しいと思います。試しにAmazonの書籍検索で「質問」と入力すると4,000件以上もの書籍がヒットします。また、世の中には「問い」を効果的に活用するための手法、ワークショップ、カードゲームなどがたくさん存在しています。いずれも根底にあるのは、「答え」自体よりも「問いを立てる力」、「問いについて深く内省すること」、「自分の中から答えをつくること」が重要、というスタンスではないかと思います。それには私も大いに共感します。

ただ、LSPファシリテータとして思うことは、「問い」を考えることも非常に大切ですが、それをどう投げかけるか、という「投げかけ方」も非常に重要ではないかということです。せっかくいい「問い」を見出しても、「投げかけ方」を誤るとその問いの効果をうまく発揮できなくなることを多くの実践経験から感じています。

これは、「問いに対してイマジネーションを働かせて作品をつくる」という、LSPのプロセス特有のことかもしれませんが、ワークショップにおいて「問い」を投げかける時、私はおおまかに以下の3つの投げかけ方があると思っています。

①クイズの問題のようにバン!と出す
②会話の流れの中で語りかけるように問う
③謙虚に教えを乞うように質問する

もちろん、これ以外にも投げかけ方は多種多様にあると思います。ここであげた3つはあくまで私個人の例です。しかも、常にどれかひとつが正しいということではなく、状況に応じて、相手に応じて、どれが最も相手が前向きに気持ちよく取り組んでもらえるかを意識して、問いかける側が選択すべきことだと思います。

私がそれぞれを使い分ける目的を端的に示せば、以下のようになります。

①クイズの問題のようにバン!と出す =インパクト、興味を喚起する
②会話の流れの中で語りかけるように問う =親近感、自分事感を抱かせる
③謙虚に教えを乞うように質問する =尊敬を示し、開示しやすくする

なので、若い参加者が対象で、安全にPlayfulに自己開示をして相互理解を深めよう、といった内容であれば、①の出し方を多くしますし、自分の年齢に近い企業の中堅クラスの方々が対象であれば、ほとんどが②のような出し方になります。一方で、年配の方々や企業のマネジメント層が対象の場合は、③を基本としつつ、時に①を敢えて使う、といった感じです。「問い」の中身自体は同じでも、問いの「投げかけ方」を変えることで相手への印象は大きく変わってきます。

具体的な例でお話しましょう。例えば、「あなたにとって“悪夢のようなチーム”とはどんなチームですか?」という問いを投げかける場合、私であれば以下のように変えていきます。


例①(クイズの問題のようにバン!と出す =インパクト、興味を喚起する)

「これから皆さんにあるお題を出します。それは、皆さんに「チーム」について考えてもらう為のお題です。お題を見たら、それがどんな「チーム」なのか、あまり頭で深く考えず、作品で表現してみてください。それでは行きますよー。お題はこれです!(バン!「悪夢のようなチーム」!)
さあ、作品で表現してみましょう!」


例②(会話の流れの中で語りかけるように問う =親近感、自分事感を抱かせる)

「今日お集まりの皆さんは、今までの仕事の中で、あるいは学生時代を振り返っても、様々なチームでの活動をご経験されていると思います。会社で言えば、10名単位ぐらいの課や係、あるいはプロジェクトチーム。学生時代でしたら部活やサークルなどもチームに該当すると思います。そして、それらのチームには、いい成果を出せたチームもあれば、そうでなかったチーム、好きだったチームもあれば、何となく居心地が悪かったチーム、いろいろあったと思います。さらに、皆さん自身がうまくパフォーマンスを発揮できたチームとそうでなかったチームもあったんじゃないかと思います。もしかしたら、今まさにチームづくりに悩まれている方もいらっしゃるかもしれませんね。我々は普段「チーム」ということを割と簡単に言いますけど、本当にいろいろですよね。で、そんな皆さんの過去の経験も踏まえながら、ひとつ聞きたいんですが、あなたにとって“悪夢のようなチーム”ってどんなチームですか?ちょっと作品で表現してみていただけますか?ご自身の経験からでもいいですし、一般論としてのイメージでも構いません。皆さんそれぞれがどんなチームを“悪夢のようなチーム”だと思っているのか共有してみたいと思います。」


例③(謙虚に教えを乞うように質問する =尊敬を示し、開示しやすくする)

(企業のマネジメントクラスを想定)
「皆様は長年のビジネス経験の中で、多くのチームを率いてこられたと思います。その規模も数人程度から、人によっては100人規模の大きなものまで様々だと思います。皆様は、リーダー、あるいはマネジメントとして、最良の結果を出すチームづくりに奮闘され、成果を出され、そして今があられると思います。その豊富なご経験の中では、うまくいくチームとそうでないチームの違いなども感覚的にお持ちになられていることと思います。今日はその中でも、特に、“悪夢のようなチーム”とはどんなチームか、皆様それぞれの経験も踏まえてお考えをお伺いしたいと思います。そのようなチームは経験がないという方は、一般論としてお考えください。ただ、いきなり口頭でお話しいただく前に、今日は特別な道具を用意しておりますので、それを使ってまず考えを作品にしていただき、その作品を通じておひと方ずつ、お伺いしていきたいと思います。それによって、皆様がご経験の中で培われてきた暗黙知を具現化して、この場にいる全員でじっくり共有していきたいと思います。それでは、まず各自でお考えを形にしてみてください。よろしくお願いします。」


いかがですか?大分印象が違ってきますよね?
少し極端な「問い」の例でしたが、投げかけ方の違いは伝わったかと思います。決してこれが模範ということではなく、「投げかけ方」によって受け取る側の印象が変わってくる例としてご理解ください。

ひとつの問いを投げかけるには随分長い前置きだとお感じになった方も多いかもしれません。特に例②と例③は長いですよね。この前置きのことをLSPでは「フレーミング」と呼んでいますが、実は非常に重要な部分です。

少し話がそれますが、日本人はそもそも問われることが苦手な特性があるのではないかと私は思っています。これは日本人の民族性や教育スタイルからきていることかもしれませんが、同一性やしきたりが重視される村社会であったり、先生が生徒に一方的に答えを伝える教育において、「何かを問う」ということはむしろ御法度に近い行為で、「黙って受け入れる」ことが良しとされる風土が少なからずあると感じています。なので、「何かを問う」ことにも「何かを問われる」ことにも我々は慣れていないのではないかと。

企業の現場においても、特に上司からの問いに対しては、じっくり考えて、根拠もデータもしっかり用意して、理路整然と間違いのない正解を答える、という習慣が染みついている方が多いと思います。むしろ優秀な方であれはあるほど、そのような思考回路が強固にできあがっていると感じます。
「できれば問いは事前に教えてもらっておいて、じっくり考えて、バッチリと準備をした上で答えたい」。多くの方にそんな傾向があると感じます。

なので、そのような傾向にある大人の方々(特にビジネスマン)に対して、「何かを問いかける」ということは非常にセンシティブで注意が必要な行為だと私は常々考えています。

一方、LSPの大きな目的のひとつが「習慣的な思考方法を壊す」という点にあります。故に、いつもの思考法を脱してもらうことも重要なミッションです。さて、習慣的な思考方法を脱することに不安を覚える方々にどう一歩踏み出してもらうか。その為にこそ、先ほどの「フレーミング」が不可欠だと私は思っています。

「フレーミング」は、参加者と「問い」の距離を近づける為のもので、「あ、そのテーマは自分のテーマだ!」、「あ、それなら自分も答えられる!」、「その問いに答えることは自分にとって意味がありそうだ!」。そんな風に思ってもらう為のアプローチです。それによって、「作れるかどうかは分からないけど、とにかくやってみるか!」という状態に参加者を一歩進めることが可能になります。そして、参加者が手を動かして作品を作り始めれば、もう大丈夫!飛行機は離陸したも同然です。そこからは参加者の想像力と創造力がエンジンとなって飛行機は飛んでいきます。

以上のように、私たち、LSPを実践するファシリテータは、ひとつの「問い」を投げかけるにも細心の注意とデリカシーをもって取り組んでいます。
それらはすべて、「全員が100%参加できる安全なミーティングの場」を実現し、「個人と組織の可能性を解放する」という目的のためです。

LSPというとレゴ®ブロックの印象がどうしても強くなってしまいますが、その裏にある一面を少しでも感じてもらえたら幸いです。

ローレンス佐藤

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