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『売上を、減らそう。』皆が幸せになれる企業の教科書

「そんな生ぬるいやり方ではやっていけない」中村さんが未経験で飲食業界に参入した当時、経営を危ぶむひとは多かっただろう。ランチ営業だけの
国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」は、1日100食限定の売り切りスタイルをとっており、お店の営業時間は3時間半、従業員の残業ゼロという超ホワイト企業だ。

 不確実な来客を見込んでの仕入れと異なり、フードロスはほとんどでず、メニューを3つに絞ることで、厨房とホール担当者の負担は軽くなる。業界未経験の新人も仕事を覚えやすい仕組みに加えて、余分な人員を含めたゆとり採用により、従業員には仕事以外の時間を有意義に過ごすパワーが温存される。やりたくないけれども仕方がない、という諦めとは無縁の働きかたは何とも清々しい。負のオーラが漂わないお店の雰囲気に、好感を持つお客も多いのではなかろうか。

メリットを挙げるとキリがないので割愛するけれど、「こんな会社で働きたい」と誰もが願う働き方を叶えたのが、佰食屋のビジネスモデルだった。
過去形なのは本書が出版された2019年6月には予想もつかない方向に、世界が変わってしまったから。

2015年に「佰食屋 すき焼き専科」2017年には「佰食屋 肉寿司専科」、
そして2019年には「佰食屋1/2」の出店を成し遂げた「頑張りではなく仕組みで人を幸せにするビジネス」は、コロナにより失墜する。中村さんは2020年6月に、「佰食屋 すき焼き専科」と「佰食屋 肉寿司専科」の閉店を断行する。
2018年の大阪北部地震と西日本豪雨で閉店の危機に襲われたときには、夫と2人、役員賞与を返上してお店と従業員を守ったという。けれども今回は、
同じようにはいかなかったようだ。

本文中には社員の声がいくつも載せられているのだが、読んでいると皆さんのお人柄が伝わってくる。いわゆる世間的なエリートの印象とは真逆の、良い意味で真面目で実直な、普通の暮らしを体現しているかのような方たち。
働く喜びをぽつぽつ語ったNさんやYさんは、会社に残れただろうか。
解雇を言い渡すしかなかった中村さんの気持ちを思うと、胸が塞いだ。

「ほらみたことか(失敗すると思っていた)」と、もしかしたらこれまでのビジネスで優位だったルール━━長時間労働・業績至上主義・効率重視・拡大志向を肯定したい人間のなかには、せせら笑う人もいるかもしれない。

でもそれはフェアではない、と私は思う。

つまづいた企業や人を、よく事情も知らない第三者が批判をするのは誰でもできる。確かに2店舗閉鎖に追い込まれたものの、ステーキ丼に使用する交雑牛のようにビジネスは生ものだ。素早い損キリは、撤退できる資金力を備えているからこそなしえる早業でもある。テレビのサッカー中継を眺めながら、監督気分で選手にげきを飛ばす輩のような方々には、どうか引っ込んでいただきたい。

こんな風に部外者の私が熱くなるのは、本に込められた情熱が飛び火したからだろう。

ビジネス書を読むひとつの醍醐味は、「主人公のその後」をリアルタイムで見続けられることだ。
中村さんは現在、講演活動に励んでいる。我慢のない働き方とそれを可能にする経営、フードロスを減らす仕組みなど、佰食屋で培った知恵とスキルは、ヴァージョンアップを重ねながら人々に伝えられている。

1人の女性の夢が、読む人の夢となり、日本中に散らばった。
本書の発する、永遠に古くて新しくて不変なメッセージ。
ここからどんな芽が出るのか、一読者として追い続けたい。

#『売り上げを、減らそう。』






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ライター/インタビュアー。 書籍やWEBの取材とライティングをしています。人生の折り返し地点を過ぎたいま、もっと軽やかに自由でありたい。日常で触れる、かそけき気配や声にならない想いを綴ります。♦2人と1羽暮らし/血中武士度が高め/調味料フェチ/HSP(特別に敏感で繊細な気質)