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SFラブストーリー【海色の未来】2章(前編・下)−1

過去にある

わたしの未来がはじまる──

穏やかに癒されるSFラブストーリー


☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。

ぜひ動画再生していただき、BGMつきでお読みください♪

(Youtubeの方が内容先行しておりますので、再生を続けてnote数話分を先読みすることも可能です。)


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「ルミ子さん! 」


気がつけば、わたしは椅子から立ちあがっていた。


「ちょっと電話、代わってください!」


ルミ子さんのそばへ行き、返事も待たずに受話器を取る。


「お電話代わりました。わっ、わたし、ここの従業員ですがっ──」


そう言ったとたん、電話は切れてしまった。


──やっぱり……詐欺だったんだ。


ぞっとして、冷たい汗が流れる。


「電話、切れちゃった?」


戸惑った目で、ルミ子さんがわたしを見あげる。


「ルミ子さん、たぶん今のは振り込め詐欺です」

「え……!」

「息子さんに確かめた方がいいですよ」

「……わかったわ。メールしてみる」


ルミ子さんはコクリとうなずき、スカートのポケットからスマホを取り出した。

それからすぐに、息子さんからの返信があり……


「ルミ子さん、メール見せてもらってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」


スマホを受け取り、文面に目を走らせる。

息子さんからのメールには、電話もしていないし、まだ海外にいると書かれていた。


──やっぱり詐欺だったんだ。でも、なにごともなくてよかった……。


ホッと胸をなでおろしていると、ルミ子さんが店の奥に行く。


「あの……ルミ子さん?」

──どうしたんだろう?


やがてもどってきたルミ子さんは机に画用紙を広げた。


「ルミ子さん、これは……?」

「世の中に、こんな悪いことを思いつく人がいるなんてね。

あなたのアドバイスどおり、店に誰か来てもらうことにするわ」


ルミ子さんが真剣な顔で言う。


「あ……画用紙で張り紙を?」

「そう。善は急げでしょ?」


横一文字に口を結び、ルミ子さんは油性ペンのキャップを外す。


「えーっと……まず、『アルバイト募集中』……っと」


つぶやく声とともにペンがキュッキュッと画用紙の上をすべり、文字をつらねる。


──ルミ子さん、おっとりしてるのに意外な行動力……。


驚き、感心しながら、ルミ子さんの様子を見ていると……


「時給はどうしようかな……。とりあえず、『相談の上で決定』にしとこう。それから……」


あっという間にアルバイト募集の張り紙ができあがる。


「これでよし!」


とても満足げなルミ子さんだったけれど……

張り紙のいちばん下には『運命線の長い方、お待ちしています』と大きな文字で書かれている。


──ほ、ホントに書くんだ……。


「今日はありがとう。これで息子の留守中もなんとかなりそう」

「い、いえ……」

──なんとか……なるんだろうか……。


ルミ子さんの天真爛漫さに、どうしても不安がぬぐいきれない。


「あら、ハーブティーが冷めてる。

今、入れ直しましょうね」

「あ、わたし、そろそろ……」

「もう帰っちゃうの? あら……いつの間にか、こんな時間。

長いことお引きとめしてごめんなさい」

「とんでもないです。……どうも、ごちそうさまでした」


頭を下げ、立ちあがる。


「またいつでも遊びにきてね」


ルミ子さんは、とても人なつっこい笑顔でそう言った。


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店の前まで見送りに出てくれたルミ子さんと別れ、路地を歩いている。


──あのお店、大丈夫なのかな。


そっと振りかえると、店の戸にルミ子さんが張り紙をしているのが見えた。

人通りのない細い道。

運命線云々と書いてある張り紙……。


──どんな人がバイトに来るんだろう。っていうか、誰も来ないかも……。


ルミ子さんが張り紙を引き戸に押しつけるたび、戸の木枠にはめ込まれたガラスのガタガタいう音が響いてくる。

ひとりぼっち、という言葉がふと思い浮かぶ。

どことなく、今の自分とも重なってしまう。


──どうしよう……なんか見てられない。


迷った。

またあの店にもどるかどうか、真剣に迷った。

だけど──


「ルミ子さん……!」


結局、わたしは来た道を走ってもどる。


──こんなふうに決めていいの? 本気?


頭の中がぐるぐるしたまま店の前まで来ると、ルミ子さんが振り向く。


「あらっ? 忘れ物?」

「いえ……その……」


びっくりしているルミ子さんの顔を見ても、実のところまだ迷っていた。


「ルミ子さん……あの……」

「はい……?」

「えっと……」


それでも、わたしを見あげるキョトンとした目に気持ちが決まる。


──もうっ、この際だ……!


腹をくくり、すうっと息を吸いこむ。


そして……


「わたしの運命線、長いかどうかはわからないんですけど……」


と切りだした──。





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