SFラブストーリー【海色の未来】2章(前編・下)−1
過去にある
わたしの未来がはじまる──
穏やかに癒されるSFラブストーリー
☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。
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「ルミ子さん! 」
気がつけば、わたしは椅子から立ちあがっていた。
「ちょっと電話、代わってください!」
ルミ子さんのそばへ行き、返事も待たずに受話器を取る。
「お電話代わりました。わっ、わたし、ここの従業員ですがっ──」
そう言ったとたん、電話は切れてしまった。
──やっぱり……詐欺だったんだ。
ぞっとして、冷たい汗が流れる。
「電話、切れちゃった?」
戸惑った目で、ルミ子さんがわたしを見あげる。
「ルミ子さん、たぶん今のは振り込め詐欺です」
「え……!」
「息子さんに確かめた方がいいですよ」
「……わかったわ。メールしてみる」
ルミ子さんはコクリとうなずき、スカートのポケットからスマホを取り出した。
それからすぐに、息子さんからの返信があり……
「ルミ子さん、メール見せてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
スマホを受け取り、文面に目を走らせる。
息子さんからのメールには、電話もしていないし、まだ海外にいると書かれていた。
──やっぱり詐欺だったんだ。でも、なにごともなくてよかった……。
ホッと胸をなでおろしていると、ルミ子さんが店の奥に行く。
「あの……ルミ子さん?」
──どうしたんだろう?
やがてもどってきたルミ子さんは机に画用紙を広げた。
「ルミ子さん、これは……?」
「世の中に、こんな悪いことを思いつく人がいるなんてね。
あなたのアドバイスどおり、店に誰か来てもらうことにするわ」
ルミ子さんが真剣な顔で言う。
「あ……画用紙で張り紙を?」
「そう。善は急げでしょ?」
横一文字に口を結び、ルミ子さんは油性ペンのキャップを外す。
「えーっと……まず、『アルバイト募集中』……っと」
つぶやく声とともにペンがキュッキュッと画用紙の上をすべり、文字をつらねる。
──ルミ子さん、おっとりしてるのに意外な行動力……。
驚き、感心しながら、ルミ子さんの様子を見ていると……
「時給はどうしようかな……。とりあえず、『相談の上で決定』にしとこう。それから……」
あっという間にアルバイト募集の張り紙ができあがる。
「これでよし!」
とても満足げなルミ子さんだったけれど……
張り紙のいちばん下には『運命線の長い方、お待ちしています』と大きな文字で書かれている。
──ほ、ホントに書くんだ……。
「今日はありがとう。これで息子の留守中もなんとかなりそう」
「い、いえ……」
──なんとか……なるんだろうか……。
ルミ子さんの天真爛漫さに、どうしても不安がぬぐいきれない。
「あら、ハーブティーが冷めてる。
今、入れ直しましょうね」
「あ、わたし、そろそろ……」
「もう帰っちゃうの? あら……いつの間にか、こんな時間。
長いことお引きとめしてごめんなさい」
「とんでもないです。……どうも、ごちそうさまでした」
頭を下げ、立ちあがる。
「またいつでも遊びにきてね」
ルミ子さんは、とても人なつっこい笑顔でそう言った。
店の前まで見送りに出てくれたルミ子さんと別れ、路地を歩いている。
──あのお店、大丈夫なのかな。
そっと振りかえると、店の戸にルミ子さんが張り紙をしているのが見えた。
人通りのない細い道。
運命線云々と書いてある張り紙……。
──どんな人がバイトに来るんだろう。っていうか、誰も来ないかも……。
ルミ子さんが張り紙を引き戸に押しつけるたび、戸の木枠にはめ込まれたガラスのガタガタいう音が響いてくる。
ひとりぼっち、という言葉がふと思い浮かぶ。
どことなく、今の自分とも重なってしまう。
──どうしよう……なんか見てられない。
迷った。
またあの店にもどるかどうか、真剣に迷った。
だけど──
「ルミ子さん……!」
結局、わたしは来た道を走ってもどる。
──こんなふうに決めていいの? 本気?
頭の中がぐるぐるしたまま店の前まで来ると、ルミ子さんが振り向く。
「あらっ? 忘れ物?」
「いえ……その……」
びっくりしているルミ子さんの顔を見ても、実のところまだ迷っていた。
「ルミ子さん……あの……」
「はい……?」
「えっと……」
それでも、わたしを見あげるキョトンとした目に気持ちが決まる。
──もうっ、この際だ……!
腹をくくり、すうっと息を吸いこむ。
そして……
「わたしの運命線、長いかどうかはわからないんですけど……」
と切りだした──。
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