東大前刺傷事件について

先日、大きなニュースにもなっているのでご存知の方も多いと思いますが、「2022年 (令和4年)1月15日に、大学入学共通テストの試験会場である東京都文京区の東京大学のキャンパスで、17歳の男子高校生が、3人を刃物で切りつけて負傷させた殺人未遂事件」が発生しました。

こういった事件が起きますと、マスコミなどが「特異」な事件として取り上げ、ワイドショーには専門家なる人物や出演者(コメンテーター)が犯人像について私見を述べます。
よく「心の闇」などと呼ばれたりもしますが、犯罪心理学の観点から言えば、このような大量殺人系・無差別殺人系の事件では犯人の動機や犯行に至る経緯はほとんど同じです。つまり共通点が決まっています。
特別他の人と違うかというと、そんなことはありません。
逆に言えば、誰だってこのような事件を起こしてしまう恐れがあるということをマスコミはもっと伝えていく必要があるでしょう。

犯行に至る経緯・共通点

・犯人の私生活は上手くいっていない
・挫折や絶望をしている(特に事件直前に大きな体験をしている)
・その原因を他人のせいにし、自分は悪くないと考えている
・むしろ善良な自分がなぜこんな目に・・・と思っている
・他人というのは個人ではなくカテゴリーとしてとらえている
・学校や会社、社会や国、人種や職業のメンバー全体が悪いと考える
・犯人は事前に犯行を計画しており、その計画を誰かに話したり、日記に書いておいたり、ネット上に公開したりする
・犯行前に手紙や遺書を書く場合がある
・犯人はペットや家族を殺してから犯行に臨むこともある
・犯人は殺傷能力の高い武器を用意する
・犯人は自分を隠そうとしない(むしろアピールする)
・よって犯人は逃走することはない
・犯人は最終的に自殺するか、自殺を望む
・犯人はカテゴリーさえ合致していれば老若男女問わず殺害する
・基本的に反省することはない

まず大前提として、犯人は私生活(人生)がうまくいってません。
厳密にいえば本人がそう思っていません。
そして、大量殺人や無差別殺人を実行するまでに何らかの悪い出来事を経験しています。離婚したとか、受験に落ちたとか、そういうこともありますし、リストラされたとか就職活動が上手くいっていない場合もあります。
他にも交通事故に遭った、火事で家を失ったなど不運な経験もしていることが多いです。加えて助けてくれる人がいないなどの事柄が重なっています。
それどころか弱り目に祟り目状態のときにトドメを刺すのがたいていの場合人間関係であることも気を付けなくてはいけません。

サンディエゴ・マクドナルド銃乱射事件

かなり有名な事件なのでご存知の方も多いと思います。
犯人はジェームズ・ユベルティという人物ですが、サンディエゴ市にあるマクドナルド店で銃を乱射して老若男女(赤ちゃんも含めて)21名を殺害し、20名に重傷を負わせ、最後は狙撃隊に撃たれて死亡しました。

ユベルティは人と接するのが苦手なほうでした。
溶接の仕事をしていて、人と接することがあまりないためこちらのほうは比較的にうまくいっていたようです。
しかし、一時期に重ねて不幸に見舞われることになります。

ひとつ目は自宅が火事になり全焼してしまったことです。
次に不況のあおりを受けて溶接の仕事を解雇されたことです。
不幸はまだ続きます。
ユベルティはそれでも再就職をすることができたのですが、その会社もすぐに閉鎖されてしまいまた失業してしまいます。そこに追い打ちをかけるかのように追突事故に遭いもともと具合の良くなかった首の痛みが悪化します。

それでも人生をやり直そうとしてメキシコに移住します。
しかし、スペイン語がわからずストレスも高まり、ユベルティ自身が外国人を軽蔑していたために周囲との付き合いもうまくいかず、結局またアメリカに戻ってきます。
サンディエゴに住み、警備員の職につきますが精神的に不安定になっていたこともありすぐに解雇されてしまいました。
そして悩みを相談しようと電話をかけた精神衛生サービスセンターは折り返し電話をすると返事したきり、ずっとかけてきませんでした。
※私はこのことが最後の引き金になったと考えています。

ユベルティは妻に「もう俺の人生は終わった」と話し、娘には「もう帰ってこない」と言い残したまま、犯行におよびます。
市内のマクドナルド店で銃を乱射し隠れている人、子供、赤ちゃん誰であろうと容赦なく発砲し、最後は狙撃され死亡しました。

経緯を精査する

私たちは凶悪犯のことを特別な人間と思いがちです。
しかし、ユベルティも少し変わっているとはいえ、コミュニケーションが苦手な人は世の中にいくらだっています。そしてユベルティだってどこかで人生が好転することがひとつでも起きていればこんな事件は起こさなかったでしょう。

ただ、火事や解雇についてはユベルティ自身が引き起こしたことであり、事故についてもわざとではないことを考えると逆恨みです。また、メキシコに移住したのもスペイン語が分からないのに行ってもうまくいくはずはありませんし、そもそも外国人を軽蔑しておきながら移住するのはユベルティの判断について正当化できません。(この時点でまともな判断はできなかったという見方もできますが・・・)

しかし、この経緯の中でひとつだけ、ユベルティを擁護できるものがあります。そしてそれこそがこの凶悪な事件の最後の引き金になったと私は考えています。
それが精神衛生サービスセンターの約束破りです。

法律よりも大事なこと

私たちはよく約束をします。
日常のいたるところで約束をしています。
ほとんどの場合、口約束ですが、約束は約束です。

さて、この『約束』ですが、守っているでしょうか?
例えば「後でいくね」と言ったらちゃんと行っていますか?
「また連絡しますね」と言ったらちゃんと連絡していますか?

「また見ておくね」
「今度一緒に行こうね」
「次会った時に持ってくるね」

みなさん忘れずに履行していますか?
「あっ!すっかり忘れちゃってた~」なんて言ってませんか?
約束を破ったほうは「仕方なかった」とか「そんなに大したことじゃない」と勝手に決めつけていると思いますが、破られたほうからすれば重大なことなのです。

約束を破ったから警察に逮捕されるとか、そういうことではありませんが、はっきり言いますと殺人より重い罪とさえ言えます。
神話などでも命を奪うよりも、約束を破る方が重く書かれていたりします。
嘘を吐く、約束を破るという行為は非常に罪が重く、深いです。
アダムとイブが初めて犯した罪は神様との約束を破ったことですね?
そして次に犯した罪は神様に嘘を吐いたことですね?
すべての罪の始まりは約束を破ること、嘘を吐くことから始まっています。

これは推測ですが、私はこの精神衛生サービスセンターの職員が約束を破ったことをきっかけに「人類」というカテゴリーで殺害が決定したと考えています。残念ながら大量殺人犯はカテゴリーで殺害をします。
約束を破った職員個人ではなく、「人類」ならなんでもよくなるのです。
結果的に21名の命を奪い、20名に重傷を負わせることとなりました。

約束を破るとはどういうことか

約束を破るということについて考えてみます。
約束って、どういうときに破るでしょうか?
単純に「忘れていた」というのが多いと思いますが、一度胸に手を当ててよく思い返してみて下さい。本当に忘れてたことばかりですか?
ちらっと思い出したけど後回しにしたとか、行きたくなくなったから嘘を吐いてキャンセルしたとか、どうせ大丈夫という思いから放っておいたということはありませんか?

「忘れていた」ということも含めて、これらはすべて約束を破られた人に対して「あなたのことはどうでもいいと思っている」と言っていることと同じです。「そんなことない」「本当に悪かったと思ってる」と言ったところで虚しすぎるだけですから言わないほうがマシです。

それから優劣についても示唆しています。
先約を破って他の予定を入れるということは「その予定よりあなたの優先度は低いです」と言っているのと同じです。なので先約優先は鉄の掟なのです。私の中では先約より優先度の高いものはありません。
仕事であろうとなんであろうと先約を必ず優先させます。
もし、仕事でいけなくなる可能性があるのであればそのことは前もって共有しておきます。(※もともと仕事そのものが先約にあたるので)

約束を破るとはどういうことか?
それは相手の尊厳を踏みにじり、存在を無価値とし、バカにする行為に他なりません。

さて、話を戻しますが今回の刺傷事件ですがマスコミはあれこれ「心の闇」について書き立てると思います。しかしながら性格や生い立ちよりも基本的な共通点を追っていくほうが理解が進みます。
今回のケースや、大阪のビルのケースなども今回挙げた共通点に合致しているのではないかと思います。

そしてトドメの一撃はたいてい人為的です。
「人類」に絶望した時に最後の決心がなされます。
道徳の意義は究極的にここにあるのではないでしょうか。
道徳は人類が生み出した叡智です。

約束は守りましょう。
先約は優先です。

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