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街に住まい、街全体をキャンパスに学ぶ。「SHIMOKITA COLLEGE」が下北沢に送り込む新しい風。

開発が進む下北線路街に、また新たな施設が誕生した。それが「SHIMOKITA COLLEGE」(以下、シモキタカレッジ)。主に大学生を対象に、高校生や若手社会人も含む、さまざまな背景を持つ人々が共に暮らす、居住型の教育施設だ。

2020年12月に開業したシモキタカレッジは、下北線路街の開発主体である小田急電鉄と、まちづくりに寄与する施設の企画・設計・運営を手掛けるUDS、多様な人が集い学び合う体験や空間を提供するHLABが、それぞれの強みを活かした三社協働で取り組んでいるプロジェクトだ。

日本では珍しい「レジデンシャル・カレッジ」である同施設は、街全体をキャンパスに見立て、居住者が地域との交流の中で成長するきっかけをつくるとともに、街の活性化にも寄与することを目指している。

ところで、なぜ学生向けの教育施設が下北線路街に誕生することになったのか。そして、この街にどのような化学反応を起こそうとしているのか。

2021年度より本格的な運営が始まり、下北沢に新たな風を送り込みつつあるシモキタカレッジについて、小田急電鉄、UDS、HLABの運営メンバーにお話を伺いました。

<座談会参加者>

・小花璃美(小田急電鉄株式会社 まちづくり事業本部 エリア事業創造部)
・栗木亮多(UDS株式会社 事業企画部 マネージャー)
・宮田美沙紀(UDS株式会社 リラックスデザイン部 管理栄養士)
・高田修太(HLAB inc. 取締役COO)
・水上友理恵(HLAB inc. 広報・渉外担当ディレクター コミュニティデザイナー)

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多様な仲間と「街で学ぶ」

――シモキタカレッジは「レジデンシャル・カレッジ」を標榜していますが、これはそもそもどのようなものなのでしょうか?

高田:オックスフォード大学やケンブリッジ大学、ハーバード大学など世界のトップ大学は、「レジデンシャル・カレッジ」と呼ばれる寮での体験が学生生活の中心になっています。異なる他者と寝食を共にすることで彼らは多様性を学び、次世代リーダーに必要な資質を身につけていくのです。

その一方、日本の大学生は実家暮らしや一人暮らしが多く、仲間と授業以外の時間を共有する機会が不足しがちです。大学はさまざまな人と出会い、自分の世界を広げる絶好の場所であるにもかかわらず、それはもったいないと感じていました。

そこで私たちHLABは街の中に、異なる大学に通う学生たちが一緒に暮らし、学べる場所をつくるべく活動してきました。

従来の学生寮とは違い、住まいの場所を提供するだけでなく、共に暮す仲間から刺激を受け、新たな学びにつながるようなプログラムや仕組みを提供していく。そうすることで日本の教育に「多様な仲間と共に暮らす」という選択肢をつくっていく。それが私たちの目指す「レジデンシャル・カレッジ」であり、シモキタカレッジは、そのフラッグシップとなる拠点として運営しています。

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水上:それに加えて、HLABの「レジデンシャル・カレッジ」の特徴は、「City as a Campus」という街全体を学びの場として捉える思想で運営している点にあります。

HLABでは「ピア・メンターシップ」を教育の柱として重視しています。ピアとは「身近なロールモデル」のこと。背景も考え方も異なる他者と生活を共にすることで、人は自分の世界が広がる刺激を受けます。寮の中で仲間から学ぶだけでなく、実際に街に出て、そこで暮す人といろんな出会いをしたり、地域が抱える課題に一緒に取り組んだりすることで、学校だけでは得られない学びを深めてもらうのです。

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――小田急電鉄としては、なぜ下北線路街の開発計画にレジデンシャル・カレッジを入れることに?

小花:下北沢の開発において重視してきたのは、この街が持っている多様性を大切にすることでした。それは「シモキタらしく。ジブンらしく。」という下北線路街のコンセプトにもあるように、多様な価値観を持った人が自分らしく生活できるのが、下北沢の魅力だからです。小田急電鉄としても、その魅力をより引き出すべく開発を進めてきました。

そうした中で多様な人が集まれる場をつくるだけでなく、多様な人々が、この街から育っていけるようなところまで支援できたら、という考えはもともとありました。

私たちはまちづくりに携わる仕事をしていますが、社内では、「街をつくるということは、そこに係わる人づくりでもある」という話をよくしています。だから、下北線路街に教育施設をつくることは新しいチャレンジとして、むしろ自然な流れだったと思っています。

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手軽な学生寮ではなく「学びのための施設」


高田:シモキタカレッジの計画が始まる前から、下北線路街で学生寮をやりたいという話はあったんですよね?

小花:そうですね。以前、UDSさんと一緒に「NODE GROWTH 湘南台」(2018年4月開業)という学生寮を手掛けたこともあり、それを小田急線の沿線に展開していくビジョンはありました。

高田:HLABとしても、本格的なレジデンシャル・カレッジをつくるなら、地域性があって、街に文脈がある場所でやりたいという話はずっとしていたんです。そこで小田急電鉄さんとUDSさんからシモキタカレッジのお話をいただいて。東京大学や明治大学といったキャンパスも近いですし、街に個性がすごくある。これ以上の場所はないと思いました。

栗木:実際にその街に住むことで若い人に街への愛着をもってもらうことは、高齢化の進む世田谷区にとって長期的なメリットになると思います。

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――企画、設計、事業運営を担当するUDSとしては、この「レジデンシャル・カレッジ」という日本では珍しいタイプの施設を、どのようにつくっていったのでしょうか?


栗木:正直、最初は「居住型の教育施設」というコンセプトにピンときていないところもありました。住む場所なので通常であれば暮らしのスペースをまず考え、そこに付加価値として教育の視点を入れるという考え方をします。しかし、レジデンシャル・カレッジは教育のための施設に住むという考え方なので、そこはHLABさんと何度も対話して、施設づくりで大切にすべき点をすり合わせていきました。

UDSはまちづくりを柱に事業展開している会社です。入居者さんたちが寮の中で快適に過ごすだけでなく、外にどんどん飛び出していき、街の人々と積極的に関わるような仕掛けを考えることは、私たちがこれまでやってきた飲食店やホテルのプロジェクトと通底する部分です。そういう意味では戸惑いはなかったですね。

宮田:たとえば、UDSには企画や設計の部門だけでなく、学生寮やオフィスの食堂を手掛ける部署もあります。とくに学生寮の食堂は「リラックス食堂」として日本各地で展開してきていて、10年の蓄積があるんです。

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シモキタカレッジでは1階に「リラックス食堂」が入っていますが、そこでも毎日飽きない、栄養バランスのとれた食事を提供しています。そして、毎日の食事の提供だけでなく、食をテーマにしたワークショップや、地元の飲食店と連携したイベントを企画するなど、食から学びにつながる機会を提供する工夫をしていきます。

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高校生や若手社会人も入居できる理由

――シモキタカレッジの、入居者の定員は何名ほど?

水上:最大で130名ほどです。ただ、いまはコロナ対策で密を回避していることもあり、新学期からはその半分ほどでスタートします。男女比は半々ですね。

――通っている大学もバラバラですか?

水上:もっと近隣の大学に偏るのかと思っていたんですけど、結果的に20大学以上の学生たちが暮らすことになりました。最初からこれだけ幅広い学生に興味を持ってもらえたのは、意外であると同時にうれしいですね。

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――誰でも入居できるというわけではなく、エッセイや面接での選考があるとか。

高田:それが従来の学生寮と私たちのレジデンシャル・カレッジとのいちばんの違いです。リーダーシップを育むコミュニティづくりを目指しているので、生徒本人に探究心や好奇心があるかをすごく重視しています。関心の先は何でもいいんですよ。社会課題でもいいし、カルチャーがものすごく好きでも構わない。いずれにせよ、外の世界に対する興味関心がどれだけあるか、という点を選考では見ています。

――高校生や若手社会人も入居できる理由は?

水上:同世代だけでなく、幅広い年代と交流してもらうことで刺激の幅を広げる狙いがあります。高校生にとっての大学生は身近なロールモデルになりますし、大学生とっての社会人も同様です。この年代の1、2歳の差って大きいじゃないですか。自分の将来像を考えるうえでも少し年上の世代と触れ合うことの意義は大きいですし、年長側にとってもリーダーとしての振る舞い方を学ぶ機会になります。

大学生、社会人は2年。高校生は学期単位での入居を想定しています。とくに高校生を入れるレジデンシャル・カレッジは世界でも珍しく、私たちも、どんな化学反応があるのか楽しみにしています。

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――ちなみに、入居する学生たちは下北沢にどんなイメージを抱いているのでしょう?

高田:それこそ高校で演劇をやっていて、以前から好きな街だったという学生もいますよ。それから建築学科の学生で、まちづくりに興味があるから下北沢の開発に携わってみたいという人もいますね。

水上:実家がこの辺なのに、わざわざ入居したという学生もけっこういます。古き良き下北沢が好きで、世代をつなぐ架け橋になりたいという人も多いです。

学生たちに「またここに住みたい」と思ってほしい

――では、「下北沢が好き」で入居した学生がけっこういらっしゃるんですね。

水上:やはり学生たちにとっては、いろんな刺激を受けられる街というイメージがあるんだと思います。そのせいか地域とのコラボレーションに積極的な学生が多く、すぐ近くのボーナストラックでの交流会に出掛けて行ったり、飲食店のフードロスの問題に自主的に取り組み始めたりと、新学期の前からさまざまな交流が始まっています。

栗木:先ほどHLABさんがおっしゃっていた「ピア・メンターシップ」という方針が実践されているのだと感じています。入居者、そして街の人ひとりひとりが先生になり得るということだと理解しています。

地域の社会課題への取り組みの中で彼らにとっても自然と社会を学ぶ機会になる。その意味で、まさに学校とは違う、画期的な教育施設だと思います。

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――つまり、運営主体であるみなさんが「これをやりましょう」と押し付けるというよりは、自主的に課題を発見してくるように促していると?

高田:私たちは「そそのかし」と言っているんですけど、押し付けることはしないんですよ。たとえば、世田谷区には空き家が多いという問題に学生が興味を持ったら、「自分たちにできることを考えてみたらいいじゃん!」と背中を教えてあげる。ただ、彼らだけではどこから手を付けたらいいのか分からないので、私たちが詳しい人を紹介したり、ワークショップを企画したりする。それが役割です。

実際、空き家問題でも、ボーナストラックの「omusubi不動産」さんにお話をうかがったり、小田急電鉄さんの若手社員の方とディスカッションしたりということが、すでに起きています。動機や目的は何でもいいんです。社会に対して自分たちから前向きなアクションを起こせるような大人になってほしい。シモキタカレッジでは、そのサポートをしていきたいと思っています。

水上:それから地域でのアルバイトの募集も増やしていきたいですね。いまもシモキタカレッジで講演してくれた下北沢の会社の方が募集してくださっていますが、地域のつながりの中でアルバイトやインターンの応募ができれば、まさに体験を通じて街に溶け込んでいくことができます。

高田:せっかくこんな魅力的な街に住むのだから、寮の中にこもったらもったいないですよ。小田急電鉄さんやUDSさんの力を借りながら外でいろんな体験をして、ここでの生活にフィードバックしてもらうことが理想です。

小花:地域の方々と一緒に下北沢を盛り上げてもらうだけでなく、「またこの街に住みたい」と思ってもらえるようにしていきたいですね。それが街にとっていちばんいいことですし、最大の地域貢献ではないかと思っています。


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SHIMOKITA COLLEGEについて詳しくは
https://h-lab.co/residential-college/shimokitazawa/

写真/石原敦志 取材・文/小山田裕哉  編集/木村俊介(散歩社)

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