オープン

これからはじまる、<空き地>ってどんな場所?

今年3月に工事が完了した小田急線の地下化によって、東北沢駅、下北沢駅、世田谷代田駅の3駅間に出現した線路跡地。このスペースの開発計画発表会が9月24日、開催されました。

そこで発表された名称は、「下北線路街」。約1.7kmにおよぶエリアに、商業施設や保育園、学生寮、温泉旅館など、ユニークな施設が続々と仲間入りしていきます。そして、その幕開けとして、「下北線路街 空き地」(以降「空き地」と記載)が誕生。音楽イベントや演劇の公演などが可能な芝生エリアから、レンタルキッチンや常設カフェ、さらにはキッチンカーのエリアも用意するなど、多種多様な使い方を想定したオープンスペースです。この下北沢の開発の象徴となるべく誕生した「空き地」には、どんな可能性があるのか?

今回は本格的なオープンに先立ち、「空き地」のキーマンたちによる座談会を実施。事業主である小田急電鉄からは生活創造事業本部開発推進部の向井隆昭さんと立山仁章さん。運営を担当するUDSからは篠原園子さん。音楽イベントの企画などで協力する「下北沢 近松」の森澤恒行さん。下北沢の日本料理店「namida」の店主で、フードエリアを監修・プロデュースする田嶋善文さん。この5名が集まり、これからはじまる「空き地」の全貌について語ってくれました。

8月末に座談会を実施した頃は、まだ「空き地」は工事の真っ最中。全然完成していませんでしたが、まずは実際の「空き地」でパシャリ!

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左から、立山さん、森澤さん、向井さん、篠原さん、田嶋さん。

■下北沢らしく過ごせる街づくりの象徴として誕生

――駅前の開発には商業施設を建設するケースが多いと思いますが、なぜ今回、下北沢線路跡地の一部を「空き地」として運営することになったのでしょうか?

向井 確かに、開発といえば、新しくする、街を変えるというイメージが強いでしょう。しかし、そういうかたちでの開発は下北沢にはそぐわないのではないかと感じていました。何かを新しく加えるというよりも、音楽、演劇、飲食など、多種多様な文化を持つ、下北沢の魅力をより引き出していくことを開発の目的として考えていったのです。そこで我々、小田急電鉄は約1.7kmの下北沢エリアの開発をひとつの“街づくり”としてとらえ、そのコンセプトを「BE YOU.」としました。シモキタらしく、ジブンらしく過ごせる開発にしていく。そのコンセプトのもと全体を「下北線路街」という名称にし、線路街を象徴する場所として生まれたのが、この「空き地」です。

立山 下北沢には夢を追いかけている方、これが好きだという方がすごく多いという印象があります。そういう人々がやりたいことを実現できる遊び場のようなものをつくったらいいんじゃなかということで、あえて利用方法を限定しない場所にしました。だから、小田急電鉄が何かをしますというよりも、地元のみなさんがこの場所の色を決めてほしいという思いを込めています。

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――こういった方針に決まるまで、地元の方々からはどのような意見がありましたか?

向井 地元の人が自由に使える公共空間のような場所をつくってほしいという声はあがっていました。行政が管理する場所は制約が多く、民間企業ならではのスペースの活用法を考えてほしいと。「空き地」には、そういった要望に応えられる場所という側面もあります。

――UDSさんはこれまでさまざまな都市開発に関わってこられましたが、「BE YOU.」というコンセプトを実現するために、「空き地」をどのように運営していこうと考えていますか?

篠原 この場所は「BE YOU.」という下北沢開発のコンセプトをもっとも体現する場所になると思っています。だから、どうすれば地元の方々に使っていただけるかということを考えていかなければなりません。「空き地」は屋外のオープンスペースですが、常設のカフェやレンタルキッチンもあります。こういうレンタルスペースは都内にも業態としてなかなかないと思います。本当にいろんな使い方ができるようになっているんです。でも、いきなり場所だけ用意しても、どうやって使ったらいいのかわからないですよね。だから、我々としても、最初はいろんなイベントを企画して、「こういうふうに使えるんですよ」という例を見せていきたいと思っています。

――すでに決まっているイベントは?

篠原 9月27日からは音楽ウィークとして、「下北沢 近松」の森澤さん協力のもと、いろんなミュージシャンの方に登場していただきます。そのほかにもマルシェやフリーマーケットを企画していますね。

向井 演劇の公演も決まっています。本多劇場グループさんにご協力をいただき、テント公演を行う予定です。それからスクリーンも用意しているので、映画の野外上映も考えています。そうやって多様な使い方を見せることで、徐々に地元のみなさんに受けて入れてもらえたらと。

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■世代も文化もミックスされる場所になると面白い


――実に多様な使い方ができるスペースということですが、今度は地元のお二人から、すでに「こういうふうに使ってみたい」と考えていることはありますか?

森澤 僕は音楽イベントなどで関わらせていただくのですが、この場所がどうなっていったらうれしいだろうかと考えてみたんです。それで言うと、下北沢って「自分の街」だと思っている人が多くて。ライブハウスの人にとっては音楽の街だし、劇団の人にとっては演劇の街。でも、そうやってそれぞれの分野で「自分の街」だと思っている人たちが交わる機会って、実はあんまりないんですよ。

――多様なカルチャーが交わることがあまりない、と?

森澤 そうなんです。それから、僕は南口の理事もやらせてもらっているんですが、各商店街のお祭りや行事に参加する人は、ほとんどが50歳以上になっています。若い人が興味を持ってないんです。これはすごくもったいないと思うんですよ。今は当たり前に生活しているだけだと、年配の方とか、異なるカルチャーで生きている人とかと話す機会がどんどん少なくなっている。だから、「空き地」のイベントにいろんな人が関わることで、文化も世代もミックスしていければ、面白いことになると思っています。

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向井 それは我々としてもすごくやりたいことです。盆踊りや商店街イベントを「空き地」でやって、その運営に若い方に入ってもらってもらえば、この場所を通じていろんなつながりが生まれていく。そして、ゆくゆくはここから線路街全部がつながっていき、「下北沢のお祭りにみんなで参加しよう」となってほしいですね。

――田嶋さんは常設カフェのプロデュースも担当されますが、飲食の活用法で考えていることは?

田嶋 まず、大人が寄ってたかって「空き地」をつくろうっていうのが面白いですよね。私は田舎の生まれなので、「空き地」っていうと、子どもも大人も勝手に集まって何かをする場所だったんですよ。子どもが秘密基地ごっこをしていれば、近所のおじちゃんが七輪もって何かを焼いて、それを子どもたちにあげたり、かと思えばギターの練習をしているお兄ちゃんがいたり。でも、東京ではそういう好き勝手な使い方のできる場所って、ほとんどないですよね。

――公園もいろんな制限がありますからね。

田嶋 だから、企業が「空き地」をやって、そこを自由に使っていいって時点で、クリエイター気質の人はワクワクすると思うんですよ。飲食のいいところは、人が集まるところであれば、コミュニケーションの潤滑油としてどこにでも入り込めることです。朝ヨガにはアサイーボウルや健康志向のお茶を出したり、映画を観ながらビールが飲めるようなイベントをやってもいいし、演劇や音楽イベントのあとには打ち上げもできる。「これを提供する」って決めるよりも、そういう飲食の柔軟な可能性を最大限に発揮できたらいいなと思っています。

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――スペース全体が自由な使い方を推奨する場所だから、カフェにおいてもコンセプトを決めすぎない?

田嶋 できるだけプレーンな場所でありたいです。あくまで私の理想としては、昼間は音楽の演奏をしている横で、イギリスのパブみたいに年配の方がゆっくりとビールを飲んでいる。そして夕方になったら、子どもたちがおやつをつくるワークショップが開かれていて、お父さんお母さんがここに迎えに来る。そういう“昔の空き地”の現代版みたいな場所になったらいいなって妄想しています。キッチンカーのエリアもありますけど、そこもオシャレな店だけじゃなくて、本当にお祭りの屋台みたいな店があってもいいと思うんですよ。

――どちらかだけ、ではなく、両方があると面白いですね。

田嶋 ごちゃまぜがいいです。お祭りの屋台とキッチンカーが平然と並んでいる光景を見たいですね。

篠原 そうやって変にまとまっていないほうが、下北沢らしさがありますよね。

■多様な使い方を想定しているから利用料も「応相談」


――各スペースの利用料はどのくらいを予定されてますか?

向井 映画の上映や音楽イベントなどができる一番大きな芝生エリアであれば、1日30万円から40万円ほどになる予定です。ただ、レンタルスペースに関しては、この“一般価格”と、ここからディスカウントした”地元価格”を設定します。

――外の企業や団体が利用する場合と、下北沢に関係した人々が利用する場合とで価格差をつけると。

向井 外部の企業さんに下北沢のポテンシャルや「空き地」の価値を感じてもらった上でおカネを落としていただき、地元の方には安く提供するというのが理想です。そうすることで地元の方々にどんどん使っていただきたいと思っています。ただ、本当にいろんな利用法があると思っているので、相談していただければ価格は柔軟に対応していきます。

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――レンタルキッチンだけという利用も?

篠原 はい。これはほかのスペースもそうですが、曜日や時間帯ごとに価格は違っていて、一番安い時期であれば1日1万円から貸し出します。

向井 平日と冬をどう埋めるかというのは最初の大きな課題です。我々としては何かしら使っていただいたほうがいいので、文化的な取り組みや面白い企画があれば安価で提供することもあり得ると思っています。

立山 この「空き地」のような場所の運営は、我々としても過去に例がないことなので、価格に関しても、やってみないとわからないというのが僕らとしても正直なところなんです。トライ・アンド・エラーを繰り返していき、この場所に適した運営方法を見つけていきたいと思っています。

――ある種、小田急電鉄としても挑戦だ、と?

向井 多少リスクがあってもやりたいと思ったんです。我々は賃貸業をやっているので、建物を企業の資産と捉えています。しかし、今は従来の経済合理主義の発想だけではビジネスが破綻してきています。そのときに街の資産価値には建物だけじゃなく“人”も重要だと考えるようになりました。下北沢にはたくさんの面白い方がいる。そのひとりひとりが自由に面白いことをやれる場所があれば、そこに惹かれて人が集まってくる。これって我々にとってもすごい資産なんです。

立山 街が賑わい電車の利用者が増えることで、経済効果は見込める。ここでノウハウを蓄積することができたら、このスキームを全国展開していくことができるのではないかと思っています。だから、この場所単体でいかに儲けるかということよりも、ある種の投資として捉えています。

■「こんなのできないだろ?」という要望を寄せてほしい


田嶋 できれば、小さく始めることができる場所であってほしいですね。飲食は1、2年で撤退する方が多いのですが、その中には街が合わなかったという人もいるかもしれない。だから、ここのレンタルキッチンで1週間やってみて、下北沢の街の感触をちょっと確かめてみるという使い方があってもいい。大きな企業であっても、街の真ん中に出店してみるということは、人の反応を肌で感じるという意味で、本当のマーケティングになると思うんです。

森澤 収益化に関しては、音楽イベントも悩みどころですね。オープンスペースだから、ゲートでチケットを切るっていうのもちょっと違うかもしれないと思っていて。

――チケット制にして完全クローズドにしてしまったら、駅前のオープンスペースでやる意義が薄れてしまうかもしれません。

森澤 ライブハウスと変わらなくなってしまいますよね。だから、投げ銭みたいなことがあってもいいし、たとえばヴィレッジヴァンガードさんと協力して、ミニライブ付きのCD即売会のようなことをやってもいいのかもしれません。

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――この場所だけで完結するのではなく、街の店舗と協力してイベントを運営していくと、いろんな可能性が広がりそうです。

田嶋 足と糖尿病専門の下北沢病院ってありますよね。私は入院食のレシピづくりを手伝っているのですが、あそこは50人から60人くらいが集まる「糖尿病デー」というイベントをやっています。たとえば、そのイベントをここでやってもらって、血糖値が下がるチョコレートの販促につなげたりするといったこともできそうです。

立山 下北沢にはファミリーが気軽に出かけられる場所が少ないので、小さな子どもが来れるイベントもやっていきたいですね。

――今日だけでもいろんなアイデアが出ましたが、こういった要望が地元の方からどんどん寄せられるようになると、下北沢を象徴する場所として自走していきそうですね。

向井 「空き地」には“悪巧みの場所”のようなイメージがありますよね。だから、最初は我々のほうでいろんなイベントを企画していきますが、地元の方が使うことで完成する場所ですから、「こんなのできないだろ?」という、我々も想像できないような要望を寄せていただきたいと思っています。

篠原 運営事務所は会場内にありますので、ほかでは難しそうなイベントでも、まずはご相談していただきたいですね。

――運営側が「そういう使い方があったのか!」と驚くような企画が集まっていけば、下北沢らしいユニークな場所になりそうです。本日はありがとうございました!

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写真/石原敦志 取材・文/小山田裕哉 編集/散歩社


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