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9軒目:ヴィレッジヴァンガード下北沢店

多種多様な業種の店舗が立ち並ぶ下北沢の街で、一番象徴的なお店は?と聞かれたら、ここの名を挙げる人もきっと多いんじゃないだろうか。

ヴィレッジヴァンガード下北沢店。

「遊べる本屋」をキーワードに、本に加えてCDやDVD、雑貨やアパレル、食品まで展開する“何でもあり”な書店の、東京の総本山ともいえるこの下北沢店で現在店長を務めるのは米山才季さん。2020年12月に店長になったばかりの米山さんに、お話を伺った。

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「近所だから」はじめたバイトが、魅力にとりつかれるまで


「僕は12~13年前にアルバイトとして下北沢店に入って、2~3年勤めてから三軒茶屋店に行き、その後店長として金沢店、町田店、静岡店、高円寺店……と各地を転々としていたんです。それからエリアマネージャーを経て、去年下北沢に戻ってきました。

実は地元が世田谷区の松原で、子供の頃から下北沢にはよく遊びに来ていたんです。だからこのビル(下北沢ハイタウン)にヴィレッジヴァンガードが入る前のことも覚えていて、ここにはスポーツショップの〈ベースボールマリオ〉さんなどいくつかのお店が並んでいました。そこへ1998年にヴィレッジの東京1号店がオープンしたんですよ。

当時は中学生でしたけど、面白い店が出来たなーっていうくらいの感想で。だから、ここで働き始めたのはヴィレッジヴァンガードというものへの憧れというよりも、家の近所だから、というのが最大の理由です。ヴィレッジに応募する前にはレディジェーンさんにバイトさせてほしいと電話したこともあるんですよ。バイト経験も何もなかったので、断られましたけど(笑)」

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米山さんは仕事に慣れるにつれ、ヴィレッジヴァンガードの魅力に取りつかれていく。

「10代の頃は銀杏BOYZが大好きで、CLUB QueやSHELTERなどのライブハウスにしょっちゅう通っていて、峯田和伸さんがラジオで紹介する本や漫画からサブカルチャーの世界にハマっていきました。ヴィレッジに入ればそのあたりについて深く話せる友達ができるのでは、とは思っていたのですが、どのジャンルにもやたら詳しい上司がいたり、周りのスタッフも文化的な素養が豊富だったりして、かなり刺激を受けましたね。

どの店舗にも勤務歴が長いいわゆる名物店員的なスタッフがいるんですけど、下北沢店は特にそういう人が集まりやすいんです。心からここで働きたいと思って応募してくれる人が多いのが特徴で、今は海外出身で日本のサブカルが好きというスタッフもいますよ」

全国の店舗の中でもトップクラスの売上を誇るという下北沢店だけに、名物でもある商品のポップや棚作りなどにおいて、個々のスタッフの個性と実力がより一層問われるという。米山さんもそうした中で次第に腕を磨いていった。

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今は棚づくりはスタッフに任せているという米山さんだが
棚のチェックも大切な仕事のひとつ


「“売れる売り場”を作れるようになることがヴィレッジの店員の一番のテーマなんです。その中でお客さんの反応を見ながら売れ筋を掴んだり、次に売れそうな物をセレクトする能力をつけていく。僕も三軒茶屋店にいた頃、個人的に好きな作家・町田康さんの棚を作ったんですが、頑張ってポップも書いて、嬉しいことに結構売れてくれて、それは大きな自信になりましたね。

もちろん成功があれば失敗もあって、金沢店にいた頃、ある作家さんの本を80冊も仕入れて棚を作って、大々的に売ろうとしたのですが、見事に目論見が外れてしまった。もしかしたら下北沢だったら売れたかもしれないけど、店によっては本よりも雑貨の方が売れたりするので、そこは見極めて仕入れをしないといけないと学びました」

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他店舗と比して本のコーナーが多いのも下北沢店の特徴


面白いものに対する反応の早い街

米山さんは各地の店舗で勤める間も、いつかはフラッグシップである下北沢店で店長をと密かに目標を立てていたという。そうして再び戻ってきたお店、そして下北沢の街を、どう捉えているのだろうか。

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「下北沢店については、路面店ということもあるし、本多劇場と同じビルにあるという場所柄から街との結びつきが濃くて、“文化を売っている店”、“みんなが面白い物をキャッチしに行く店”なんだなと改めて実感しています。

下北沢と言えば昔から雑貨、古着、音楽の印象があって、ヴィレッジはそのイメージをより根付かせた存在だと思うし、ライブハウスや劇場など、異なる目的でこの街を訪れてもとりあえずここに来て棚を眺めたり、待ち合わせに使ったりと、“場”としての吸引力は他の店舗よりも強いと思うんですよ。もちろん暇つぶしで来ていただくのも大歓迎ですしね。

何より、スタッフが面白いと思って始めた試みに対して下北沢はお客さんの反応が早いんです。それって僕らにとってはすごく励みになるし、モチベーションも高まりますね。

街に関しては、皆さんと同じように駅前がとにかく広くなった、以前の雑然とした感じが少し懐かしいなとは正直思います。以前の2階にあった改札から北口に降りる階段だったり、そのそばにあった駅前食品市場など思い出に残っている風景もありますが、常に変わり続けるのもまた下北沢という街なので、それは仕方ないのかなと」

下北沢のヴィレヴァンと言えば、棚が縦横無尽に張り巡らされ、その間を獣道を潜り抜けるかの如く進んでいくジャングルのようなイメージを持っている人も多いだろう。しかし現在のヴィレヴァンは通路が広くとられ、大分スッキリした印象になっている。それはひとえに消防法の改正によるもの。以前のようなカオスな圧縮陳列は不可能になっているのだ。また、CDや本などの発売記念イベントができないなど、コロナ禍で大々的に人を集めるのが難しい状況が続いているのが現状だという。

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「でも僕らは皆さんがイメージする“下北のヴィレヴァン”に恥じない店づくりをしないといけないので、いつまでも手をこまねいている訳にもいかない。コロナが落ち着くのと平行して、店はもちろん下北沢の街全体にもっと人が来てくれるような仕組みを作れればとは思っています。

たとえばこの街の有名な飲食店とコラボしたりするのもひとつの手ですよね。金沢店にいた頃は地元のゆるキャラの“ひゃくまんさん”とコラボグッズを作ったりしたんですよ」

もちろん、他のスタッフとの日々の情報交換も欠かさない。

「今はお店で直接話すよりもLINEグループでのやり取りが多いんですけど、新しい物へのアンテナは常に張っています。今注目しているのは川勝徳重さんという漫画家。ちょっと気になったらスタッフに“この作家さんの作品面白い?”と聞いたりしますね。そんな何気ない会話から新しい棚が出来たりするので、僕も若いスタッフの意見はどんどん取り入れたいと思っています。ヴィレッジはただモノを売るだけの店ではない。どんなに時代が変わってもそこはブレないようにしたいなと。

これだけSNSが発達したり、ゲームなど他の娯楽が増えても、わざわざ下北沢のヴィレッジを目掛けて来てくれて、シール1枚、小物1つを買って満足してくれる若いお客さんはたくさんいるんですよね。値段に関係なくスタッフたちがこだわったり、心底面白いと思って選んだ物を売る。僕がアルバイトを始めた頃から変わらないこの店のらしさは、ずっと大事にして続けていきたいと思っています」


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米山才季さん

アルバイト店員としてヴィレッジヴァンガード下北沢店に入り、各地の店舗を経て2020年12月より店長を務める。
「下北沢でよく行く店は中華料理の新雪園、珉亭、ディスクユニオンあたり。もう閉店しちゃいましたけど、たこ焼きの大阪屋やレコファン、移転する前のジャズ喫茶マサコなどは何度か行きました。個人的に下北沢を象徴するお店はライブハウスのSHELTERですね」


【ヴィレッジヴァンガード下北沢店】
東京都世田谷区北沢2-10-15 マルシェ北沢1F
TEL 03-3460-6145
営業時間 11:00~23:00(時短営業要請等に応じて変更あり)
無休
www.village-v.co.jp


写真/石原敦志 取材・文/黒田創 編集/木村俊介(散歩社)


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