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ファッションライク。

Fくんは野球を小さい頃からしていて、昼休みは食堂で唐揚げ丼を特盛りで食べるくせに、いわゆる細マッチョみたいな体型の子で、女子から注目されることが多かった。

三年間、同じ人がすきだった。

高校入学後、友達もでき始めた頃にある日授業が終わってノートをまとめていると、日が暮れてきてふと外を見た。綺麗な夕日でぼーっとしていた頃に、忘れ物を取りに戻って来たTくんが話しかけてきた。

あれ、こんな人いたっけ?

背の高いTくんは、たぶん、たいていの女子がかっこいいというような雰囲気だった。なぜかTくんも自分でモテているのを自覚しているような雰囲気だった。

ひとり?何してるの?

高校に入学して初めて仲良くなったのがTくんだった。Tくんは女子の扱い方がよくわかっているような子だった。でも特別Tくんのことが好きとか、そういう感情はなく、モテるのを自覚しているやつだ、なんて思ってしまった。

メールアドレスを交換して、その日以降毎日メールした。お互いに動物学科を専攻しており、動物が好きなこともあって私から動物園に行こうと提案した。

動物園は楽しかった。料理が好きだったので、Tくんの分のお弁当をつくって一緒に食べた。今思うと、カップルかっていうくらいの対応をしてしまったけれど、恋愛経験皆無な上、好きな人なんてできたこともなければ、そういった感覚もわからなかった自分にとっては、仲良くなった人にはいろいろしてあげたいという気持ちでしたことだ。

動物を見た後、近くにタワーがあったので登ろうと言われた。いいよと行って一緒に登って、景色を見た。とっても綺麗だったし、毎週この景色を見たくなった。

その時に、Tくんから「この後どうする?」と言われた。どうする・・・?の意味がわからなくて、聞き返した。その時の純粋な気持ちが彼にとって鬱陶しかったのだと思う。

「ごめん、バイトあるから帰るね」

嘘なんてつきたくなかった。帰って泣いた。なぜかわからず泣いた。別れ際の彼の目は、魚のように冷たかった。

電車にのっていると、メールがきた。Tくんからだった。

「動物園なんて誘ってくるから、そういう事って勘違いするじゃん」

「初めからお前のことなんか興味ねーわ」

男って酷いと思った。私はただ、仲良くなった人と動物をみたかったし、いろんな話がしたかった。それから三年間、Tくんとは一度も口を訊かなかった。


高校三年間に、5.6人の人に告白された。男性も女性も含めて。全部断った。Fくんのことがずっと好きだった。

Fくんとは三年間、一緒に遊んだことも、手を繋いだこともない。

仲良い女の子の友達ができてから、そういう話をよくするようになった。

「せなって好きな人とかいないの?」

Tくんの一件があってしばらくした頃だった。いないって言えばよかったのに、誰かの名前を言わないと場が盛り上がらない気がして、その時同じクラスで、なんというかどこにも属していないような、謎が多いFくんの名前を挙げた。

Fくんは謎が多かった。一番目立つグループに属している割には、全然派手な感じはなくて、当時”腰パン”っていう、ズボンを腰の位置まで下ろすのが悪くてかっこいいみたいな感じで流行っていたのに、流行には乗らず、シャツもいつも白シャツ。授業が終わったら部活に専念。染まっていなくて素敵だなと思った。Fくんの悪い噂は聞いたことがなかった。

友達たちは、私とFくんがなんとか接近できるようにいろいろ仕掛けてくれた。女子の結束力というのはものすごくて、こちらから依頼していないのにいろいろいい感じにコントロールしてくれた。

でも、途中から気づいた。

わたしは、Fくんのことを異性的な意味で好きではなくて、もっと人間的に魅力的だったから好きだったのだと。好きをファッション的な意味で表現してしまった自分をせめた。

高校二年生の頃は、Mちゃんと仲良くなった。Mちゃんは背が170センチちょっとあって、目がクリっとしててとっても美人。部活を通して仲良くなった。ロリータファッションが好きで、本格的に撮影とかもしていた。Mちゃんは当時年上の男性と付き合っていた。

Mちゃんは、ツンデレという感じだけど、とっても甘えさせてくれた。同時に、私のことをよく知っていた。私のためにしょっちゅうお菓子を恵んでくれたり、いっぱい遊んだ。

ある日、Mちゃんは自分のことをどう思っているかと聞いてきた。その意味がわかったのは、高校卒業後だった。Mちゃんのことは好きだったので、好きだよと言った。反応が薄かった。好きだし、ずっと仲良くできたらと思っていた。Mちゃんは、そういう意味じゃないと、目で訴えてきた。

微妙に染色体が違うだけで、性の差が生まれるというのは、高校の頃のFくんより謎だ。もっと言うと、ひらがなに色が見えると言った私はもっと変態だったと思う。

とにかく、好きとか嫌いという感情が異性間でより発生することを嫌った。だから私は、好きという言葉をつかわず、性関係なく”素敵”という言葉をつかうようにしている。大変便利な言葉だ。

自分はどちらかというと、男性的な思考回路をしているのかもしれない。おままごとなんてせずに、昆虫採集や、水鉄砲を作ったり、女性らしいことと言えば小学3年生の頃から料理をずっとしてきたくらい。これはファッション的なものではなく、生活の一部として。

料理をいっぱいしてきたおかげで、三年間はFくんにバレンタインデーのチョコを渡した。いや、チョコだけじゃなくてスウィートポテトも。Fくんはちゃんとお返しもくれた。三年生の時、勇気を出して告白して見た。人生で初めて、あなたのことが好きだと。口にしてみた。そして、人生で初めて、フラれるという経験をした。それは、ビターチョコレートのように少し甘く、苦い経験だった。




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