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視聴記録『麒麟がくる』第七回「帰蝶の願い」2020.3.1放送

駿河の今川義元(片岡愛之助)の動きに脅かされた信秀(高橋克典)は、美濃の道三(本木雅弘)と和議を結ぶことを決める。そのために、道三の娘・帰蝶(川口春奈)を、信秀の嫡男・信長(染谷将太)の妻に迎え入れたいと申し出る。
旅から明智荘に帰った光秀(長谷川博己)を、帰蝶が待ち構えていた。幼なじみで、ほのかな恋心を抱く光秀に、今回の尾張への輿(こし)入れを止めてほしいと頼む。一方、道三からは、口をきかなくなった帰蝶を説得するように命じられる。

<トリセツ>
斎藤道三軍×織田信秀軍 大柿城(大垣城)の戦い

天文17年(1548年)。かつて織田信秀に奪われた西美濃の大柿城(大垣城)を奪回するため、道三率いる斎藤軍が進軍。攻防の末、織田軍は守りきることができず、道三は大柿城の奪回に成功。信秀率いる織田軍の敗因は、織田一族が割れたことでした。清洲城の守護代・織田彦五郎が信秀の城・古渡城を攻めたのです。こうして信秀は、駿河・遠江の今川義元、美濃の斎藤道三、そして一族の織田彦五郎の三つの敵に囲まれることとなりました。

織田信秀が朝廷に献上したお金、4000貫はいくら?
劇中で道三が光秀に「京の御所の塀が洪水で流されたときの修繕費として、織田信秀は4000貫をポンと献上。今川義元はわずか500貫、我が美濃の土岐様は1貫も出せなかった」と話しました。そのお金を現代の価値で換算すると、1貫=約15万円。すなわち、今川は500貫=約7500万円、織田は4000貫=約6億円を寄付したことになります。
https://www.nhk.or.jp/kirin/story/7.html


このドラマでは、

・駒:明智光秀と結婚したいが、身分が低いので無理
・帰蝶:明智光秀と結婚したいが、身分が高いので無理
・煕子:明智光秀と結婚したいし、身分相応なのでOK

という設定らしいです。

 ──このままじゃ、駒、尼さんになっちゃう? キリシタンになっちゃう?

 駒も明智光秀がOKすれば、正室は無理でも、奥の手を使って側室に出来ます。その「奥の手」とは、「駒を斎藤道三の養女にしてから明智光秀と結婚させる」です。(徳川2代将軍秀忠の母親が、徳川家康と結婚した時のパターンです。)

以前の岐阜取材ノートを見直していたら、

・天然痘で左頬に痘痕が残ったのは、煕子ではなく、伏屋姫
・煕子は明智光秀の後室で、前室は斎藤道三の三女
・明智光秀は斎藤道三の三男
                        云々

とありました。取材時は、ただ単に地域の口碑(伝説、伝承の類)をお聞きしてメモしただけですが、今になってこれらの口碑を分析して整合性を図ると、

・斎藤道三は、後家になった帰蝶を明智光秀と結婚させようと思った。
・ところが、帰蝶は天然痘で醜い顔になったので、三女と結婚させた。
・明智光秀は、斎藤道三の三男ではなく、三女の娘婿。
・醜い帰蝶のもらい手がないので、織田信長と政略結婚させた。
・織田信長は、醜い帰蝶を「刺客だ」と言って同衾せず、生駒屋敷へ。
・醜い帰蝶は人前に出なかったので、離婚説や死亡説が生まれた。
・明智城の落城後、明智光秀は、帰蝶がいる尾張に逃げ込む事を憚った。

となるかと思います。
「天然痘で左頬に痘痕が残ったのは、煕子ではなく、伏屋姫」ではなく、「天然痘で左頬に痘痕が残ったのは、煕子ではなく、帰蝶」でしょうね。それで、明智光秀は帰蝶(長女)ではなく、帰蝶の妹(三女)と結婚したのでしょう。
 「明智光秀は、醜くなった帰蝶ではなく、妹と結婚した」とすると、今まで謎であった
・帰蝶と信長の間に子供がいない理由
・帰蝶の離婚説や死亡説が生まれた理由
・明智城の落城後、明智光秀が尾張に逃げ込なまかった理由
などが合理的にさらっと説明できてしまうので、我ながら「蓋然性が高い説だ」と自画自賛していますが、「蓋然性が高い」、言い換えれば「そう考えると全ての謎が解ける」からといって、それが史実だとは限りません。警察の捜査にたとえれば、「聞き込み調査の結果、状況証拠が彼が犯人だと示している」という話であって、「彼を犯人だとする物的証拠(古文書など)は無い」状態です。
 ちなみに、斉藤道三の三女の婿は筒井順慶です。「明智系図」では、明智光隆の長男が明智光秀、二男が筒井順慶、三男が三宅弥平次となっています。また、明智光秀の娘が、筒井順慶に嫁いでいます。そして、なぜか、筒井順慶は明智氏や明智光秀とよく間違えられます。
 なお、明智光秀の前妻は「早世した」と伝えられています。

★今回の感想

 中途半端に戦国史を知ってる私にとっては「それ、史実じゃないだろ」と何度も言いたくなるシーンがありましたが、知らない人にはいい脚本だったのではないでしょうか。

 まず、冒頭。「大柿城攻め」が史実と違う(詳細は下記「1.大柿城攻め」)。そして、織田信秀が美濃国との和睦を提案するのも史実と違う。(美濃国との和睦を提案したのは平手政秀で、平手政秀は使者として稲葉山城へ行き「帰蝶を信長の嫁に」と言う。おそらく織田信秀の書状には「和睦希望。和睦条件はこの手紙を持っていく使者の平手に聞いてね」と書いてあったと思う。)
 今回の脚本がよかった点の1つは、「手は2本。2つまでは扱えるが、3つだと『手に余る』」と言うシーン。「うまい!」と思った。さらに感心したのは、駒のお手玉のシーン。「次は3つで」っとやって見せ、「手が2本でも、元気なら3つ扱えるではないか! 織田信秀が3つ扱えず、和睦に踏み切ったのは、病気だからなのだ!」と気付かされた。

 帰蝶の恋は悲恋──切ない。見ていて切なくなる女優さんは、ワタシ的には広瀬すずさんくらいだから、「帰蝶=広瀬すず / 駒=広瀬アリス」を推してたけど、川口帰蝶も良いね。
 お化粧に失敗して、泣いたピエロみたいになって、明智光秀に笑われるかと思ったら「旅芸人みたい」と言われたので、「旅に出よう。お供せよ(私を連れて駆け落ちせよ)」と言っても明智光秀は乗ってこない。「明智光秀がまじめ過ぎて面白くない」という人もいるが、ここは「お供します。姫様、お手を」と言って、お姫様だっこして部屋中、歩き回る・・・とふざける場面ではない。(明智光秀は堅物ではなく、ふざけていい場面ではふざけている。以前、田起こしで腰が曲がったと、杖をつく仕草を帰蝶に見せていた。)
 

★今回の名言

 ──人を説き伏せるには、まず自らが、それが正しいと思うことが大事ぞ。(by 斉藤利政)

 たとえば、コスメのCMのオファーが来た時、「このコスメは使ってみたけど駄目。仕事だからやるけど」と、「このコスメは凄く良い。毎日使ってるし、みんなにも教えてあげたいと思っていた」と思うのでは、モチベーションはもちろん、語調や顔の表情が変わると思う。
 不思議なのは詐欺師。たとえば、オレオレ詐欺。「なぜ人を説き伏せて、お金を振り込ませられるのか」と小一時間インタビューしてみたい。予想される答えは「『悪いことをしている』のではなく、演劇の練習をしている。息子(自分以外の人間)になりきれるかどうか試している」「『相手に振り込ませられるかどうか』というゲームを楽しんでいる」であって、罪悪感が無いんじゃないかな? 少しでも罪悪感があったら詐欺は出来ないよ。
 斉藤利政は損得勘定で動く男。多分、父親が商人だったので、そう育ってしまったのでしょう。そして、「娘を差し出すほど、この和睦は必要か? 儲かるか?」については、父の持論である「海があれば食うに困らん。魚がとれるし港を作れば諸国の品々が集まる。諸国の品々が集まれば市場ができる。市場ができれば(中略)国が豊かになる」──本当に「風が吹けば桶屋が儲かる」のかとも思うし、「農業より商業(貿易業、海運業、海産物や諸国の特産物販売)の方が儲かる。国が豊かになる」と言われても「豊か=金」ですかと小一時間問いただしたい。父親譲りの国富論であっても、本人は信じている理論なので、熱く語ることができ、明智光秀の説得に成功し、明智光秀は「愚かな和議では無い」と思った。どうも明智光秀は「(いつもは損得勘定で動いている主君に)私利私欲ではなく、国を豊かにするために」と言われると弱いようだ。ドラマ的には「国を平和にするために。麒麟を呼ぶために」の方がいいと思うが、毎回「麒麟、麒麟」と連呼されては、視聴者にうざがられると思って、今回は「平和」を「豊か」に変えたのでしょう。

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1.大柿城攻め

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