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第53話 きめ細やかな水際対策

 水際対策とは具体的には何なのかと改めて考えてみたのだが、①誰を入国させるのか(入国制限)と②どうやって疑わしい人を空港で見つけるのか(空港検疫)の二点に大きく分かれるかと思う。

1)誰を入国させるのか(入国制限)

台湾は、海外のコロナ情報を監視しながら、入国と在宅検疫基準を更新し続けた。

1月22日 中国湖北省からの団体旅行客の入国禁止。
1月23日 中国武漢市からの中国人入国禁止。
1月26日 中国湖北省からの中国人入国禁止。その他の入国者は14日間の在宅検疫を義務付け。
2月1日 中国広東省に対し、同上の措置。
2月2日 中国温州市に対し、同上の措置。
2月5日 中国浙江省に対し、同上の措置。
2月6日 中国人(香港・マカオ以外)入国禁止。中国全域からの帰国者は14日間の在宅検疫義務付け。外国籍クルーズ船の寄港禁止。
2月7日 香港・マカオ人は14日間の在宅検疫を義務付け。14日間以内に中国(香港・マカオ含む)滞在歴のある外国人は入国禁止。
2月10日 中国(香港・マカオ含む)で乗り継ぎした人は、14日間の在宅検疫を義務付け。中国航空便は中国国内5拠点に限定。
2月25日 韓国からの入国者は、14日間の在宅検疫を義務付け。
2月28日 イタリアからの入国者は、14日間の在宅検疫を義務付け。
3月2日 イランからの入国者は、14日間の在宅検疫を義務付け。
3月14日 ヨーロッパ27ヵ国とドバイからの入国者に対し、14日間の在宅検疫を義務付け。
3月16日 東欧13ヵ国、中東15ヵ国、北アフリカ5か国、中央アジア9ヵ国からの入国者に対し、14日間の在宅検疫を義務付け。
3月17日 アジア、東欧20ヵ国とアメリカ3州(カリフォルニア、ワシントン、ニューヨーク)からの入国者に対し、14日間の在宅検疫を義務付け。ビザ免除措置は全て停止。
3月18日 アメリカ全土、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドからの入国者に対し、14日間の在宅検疫を義務付け。
3月19日 外国人入国禁止(居留証、外交公務証明、商務履約証明のいずれかを所持している人、もしくは「その他特別な許可」を得ている人を除く)。入国者は全員14日間在宅検疫を義務付け。

 このように、2020年3月19日に自国民以外に対する入国禁止を発令するまでは、入国禁止措置の対象は、中国人と14日以内に中国滞在歴のある外国人のみに限定されていた。その他の地域に対しては、基本的な考え方として、感染流行地域から入国する人は国籍に関わらず在宅検疫という形で隔離し、感染のないことを確認した上で国内での行動開始を許可するということ。ウイルスをうまく見つけられない間(潜伏期)は拡げないようにおとなしくしてね、ということだ。

 逆に、なぜ3月19日に一気に国境を閉じたのか?背景としては、ウイルスが拡がり過ぎて地域で区切れなくなり、全入国者を警戒対象としなければならなくなった点。一方で、入国者数を絞らないと台湾国内の対応キャパはあっという間に飽和すると予想された点。特に、感染者が増えたときの医療現場への負荷が最も考慮された点だろう。よって、一番わかりやすい線引きで入国者を限定するしかなかった、ということだと思う。

2)どうやって疑わしい人を見つけるのか(空港検疫)

 健康状態申告書(健康聲明書)の役割が意外に大きかったのではないかと思う。12月31日より武漢からの入国者のみに申告を義務付けていたが、1月24日に中国全土からの入国者、2月11日には入国者全員に義務付けた。健康状態申告書の情報は、入国時に確認するだけでなく、入国後の追跡調査にも利用された。一定の条件を設定し(渡航先、症状の有無など)、空港検疫の網から漏れたかもしれない人を後日探し出すのに役立った。

 当初は紙での運用だったが、2月16日に電子システムを導入し、入国者は事前にQRコードを読み込み、ネット上で申告書を入力できるようになった。入国審査業務の時間短縮につながっただけでなく、電子データになったことで、関係部署間の情報共有が簡単になり、効率的になった。このデータは、入国者の追跡用データとして、滞在先情報に加えて在宅検疫中の体調や病院受診歴まで紐づけ可能なシステムに発展した。入国者による電子システムの使用率は最終的に90%に達し、入国から在宅検疫開始までの平均時間が19時間から4.5時間へと短縮した(6月1日発表データ)。

 国境封鎖と同時に、空港で検体採取できる新たな体制も敷いた。欧米から大量のウイルスが持ち込まれることが想定されたので、この形に切り替えたのだろう。ただし、PCR検査の特性(感度が低い)を踏まえると、入国者全員に検査をすることは非効率だと判断し、健康状態申告書の内容から検査前確率が高い人たち(現在症状がある、過去14日間に症状があった、など)に対してのみ検査を行った。この基準は、新な知見が見つかるたびに更新され、空港での検出率向上に寄与したと思う。
 入国者全例にPCR検査をすべきではないかという議論がしばしば国内で展開されたが、政府はその意義の低さを説明し、検査対象をハイリスク群に絞った。(注: 在宅検疫を義務付けているので、無症候/未発症の感染者を空港でつかまえなくても大丈夫という理屈。6月1日の統計では、空港での検体採取は延6000人。)そして、そのアプローチが正しかったことは数字で証明された。

 水際対策はそれ単体では感染拡大予防効果が限定的なのは、世界各国の状況を見渡せば一目瞭然だ。空港を潜り抜けたウイルスをどうやって見つけ出すか、については次話に譲る。

(参考)2020年4月28日の政府発表資料(4月24日までのデータ)。

水際対策4月 28日

一番上の段にある折れ線グラフに注目してほしい。黒線が回収された健康状態申告書数、黄線が在宅検疫通知書数を示している。3月19日を境に、入国者全員に在宅検疫が義務付けられたので、二つの書類が在宅検疫通知書に統合された。

真ん中の段にある棒グラフは、オレンジが空港検疫で見つけた感染者数、グレーがその他のルートで見つけた感染者数を診断日別に表している。海外流入例の38%が空港検疫で発見されている。

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