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立ち止まる3月

自分にとって深い意味を持つ3月がやってきて、もう半ばを過ぎた。

2011年の11日、あの大震災が私の中に眠っていた私を揺り動かし、呼び覚まし、センジュ出版の種が生まれた。

翌年の17日(つまり8年前の今日)、私は検査薬で自身の中にいのちが宿ったことを知り、夫にそのことを伝えた。このいのちは後に私を職住接近させ、そして正直な生き方を促した。

そのいのちの源である夫の誕生日も今月だ。
そもそも、この人がこの世に生まれていなければ、私は私にならなかったかもしれない。今年の誕生日も改めて、ささやかな謝意を伝えようと思う。

そして2020年の今月、人の不安に忍び寄り、つけこむようなウイルスが世界を脅かし、人の動き、ものの動きが止まった。
奪い合う姿、そして分かち合う心もタイムラインに上る。

今月決まっていたすべてのトークイベント、講演、セミナーなどが延期となったものの日程の目処をまだ立てられず、
会社は売上に大きくダメージを受ける見込みとなった。
とはいえ私はいま、センジュ出版を立ち上げる前のことを思い出している。

私は会社員時代に産休育休が明けて出社したところ、装いが別人のように変わったことを社内の友人男性から、「あれ、何だかずいぶん雰囲気変わったよね」
と不思議がられたことがある。
それまでは毎日髪を巻いて睫毛のエクステとネイルにお金をかけ、着ていた服は主にコンサバ、時に豹柄、足元はいつもパンプスにストッキングだった肉食系の私が、
出産後そうした服を、靴を、鞄を、アクセサリーを手放し、睫毛と爪を華やかに見せるために費やす時間から解き放たれ、すっかりシンプルになってこじんまりとしたものだから、当然と言えば当然の反応だった。
その時私は、「休んだことで、多くのことを考えることができた。私の場合はきっかけが出産だったけれど、本当は男性含めてはたらく誰もが自分のことをじっくり考えることができるくらいに休めたらいいのに」と話したのだ。

2020年に発生したこのウイルスで、強制的に立ち止まることになった今、人々は何を思うのだろう。
追われていた時間、ないがしろにしていた家族との会話、見ないフリをしていた自分自身の内なる声。
効率的に無駄を排除して生産性を上げ、消費されるように働くことで消費されるものばかりを生み出していた時間が強制的にストップとなった。
私たちはいま、何を問われているのだろう。

自分自身、問いを多く抱えている今日、営業スタッフ・前さんとの昼食にご近所でカレーをいただきながら、センジュ出版の本について話をした。
特に最新刊『ロバート・ツルッパゲとの対話』(ワタナベアニ著)とそれ以前の刊行本は装丁や造本などの印象が異なることもあり、
読者の方や書店さんにとってこの出版社の方向性がわかりづらく映ることもあるのでは、という話がきっかけとなり、「センジュ出版の本の横串」についてを言語化した。

センジュ出版の本を決めて、作っているのは私だ。
その本を届けてくださっているすべての方のために、
そしてこの船を信じて一緒に航海してくれている読者の方々やスタッフのためにも、
この横串を言葉にする必要と責任が、自分にはある。
私の答えはこうだった。

「センジュ出版の本はすべて、これまでもこれからも、
誰から何を言われようとも『自分はこれを信じている』と
言い切ることができる著者が書いたもの」

常識や社会通念や予定調和や支配やらにドロップキックをかましたり、アカンベーをしたり。
挑戦を妬む、顔の見えない誰かに後ろ指差されるほど、
何かを信じて、責任を持って行動し続けている。
私はその方の「声」からそうした覚悟や責任を受け取って、センジュ出版のための本を書いていただいている。
おそらくこのことは自分が編集する以上、今後も変わらないだろう。

『ロバート・ツルッパゲ との対話』は特に、その振り子が大きく振れたものだったために“いつもの本とはちょっと違って”見えたかもしれないが、
はじめから何ら変わらない。
センジュ出版とは2015年の創業からずっと、そういう出版社だ。

さて、著者に覚悟を問い続けてきた私もついに今年、自分の覚悟を問われることになった。
自著『しずけさとユーモアを 下町のちいさな出版社センジュ出版』(エイ出版社刊)が発売されることで、生まれて初めて著者の立場になったのだ。
この本には、私が編集者を目指した学生時代からサラリーマンを経てセンジュ出版を立ち上げ、2019年に発行した7冊目の本、『ぼくとわたしと本のこと』(高原純一+SUN KNOWS著)を出す直前までのことを書いた。

この本を読んだ方々が、
事務所や私が手がけるブックスナックを訪れてくださったり、
講演会やトークイベントを主催してくださったり、
遠方から新幹線に乗って私が講師を務める文章講座に参加してくださったり出張版講座を企画してくださったり、
センジュ出版のファンクラブに入会してくださったりと、
ありがたい日々が続いていて、覚悟を決めて書いた文章を読んでくださった方とのつながりを心から幸せに思う。
ご希望をいただいたこともあり、近々オンライン読書会を開催することになった。
どなたかに問いを投げかけ、そして自分もどなたかの問いに答えたり答えなかったりしよう。
ラジオのように質問に声でお答えしながらお届けするのもいいかもしれない。
目の前にはいないけれど、たしかにそこにいてくれているあなたに向けて話します。
詳細決めたらまたご案内しますね。
 
また、近いうちに。

今日の1冊 001:『想像ラジオ』(いとうせいこう著 河出書房新社刊・現在は文庫版で発売中)
私にとってこの本のある本棚の場所:book cafe SENJU PLACE
この本を選んだ理由:
悲しみも憎しみも喜びも、私たちの想像の手の中にある。
あの人の悲しみを想像しよう。
あの人の喜びを想像しよう。
思いやりが私たちをいちばん、自由にしてくれる。

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『しずけさとユーモアを 下町のちいさな出版社センジュ出版』(エイ出版社刊)

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