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仙 臺 俳 句 会 2019

仙 臺 俳 句 会 2019   ネットプリント記念誌 vol.1

 仙臺俳句会(せんだいはいくかい)は、仙台の街なかで開催している超結社句会です。
 「仙台ミニ句会」を前身とし、2017年6月に開催された第1回目はわずか四名でしたが、現在は、さまざまな結社から毎回10名程度のご参加があります。
 これまで一度でも参加された参加者は、合計30名近くとなりました。そこで、参加者の交流と句会の周知・向上を目的として、この度、有志による記念誌をネットプリントで発行することといたしました。
 句会は、奇数月第三土曜日の午後、合評形式で行っています。
俳句に関するひと・もの・ことがゆるやかに行き交う交差点として、自由な雰囲気を大切にしていますので、お気軽にご参加ください。
                        2019年7月吉日
 
【参加者一覧】浅川芳直(駒草・むじな)、有川周志(むじな)、小田桐妙女(陸)、小田島渚(銀漢・小熊座)、金子千佳子(いつき組)、久眞(いつき組)、佐藤涼子(澤・蒼海)、相馬京菜(むじな)、武田菜美(銀化)、谷村行海(街・むじな・はなぞの)、米七丸(むじな)、堀切 克洋(銀漢)、本田葉(澤)、水月りの(小熊座)、宮川それいけ(澤)、山口刃心(澤)、渡辺誠一郎(小熊座)

※ダウンロードはA3の3枚です。


朝    刊    浅川 芳直(駒草・むじな)
地へ踵届くほどなる雪の朝
虎落笛珈琲ぐいと飲み下す
少年の葱を一本さすリュック
朝刊を光がよぎる寒の入
アパートに二つ灯れる寒の内
アクセルを踏み込む靴の裡寒し
雪解風陸羽東線来る気配
改装のペンキ真つ白木の芽風
抱き合つてゐる再会の春コート
蟻穴を出づ厨房のカレーの香


片  想  い     有川 周志(むじな)
寒月や浮き落ちてくることのなし
冬木立走り続ける犬の像
らーめんを掬えども掬えども葱
冬終る内なる疑義の晴れぬまま
不死鳥の天高く舞う焼野かな
ああ孤高咲き誇らずに桜貝
つくしんぼ少し嫉妬し蹴り揺らし
杉花粉片想いのごとく飛来
花粉症鼻血忘れて鼻をかむ
紅梅の紅映る眼鏡かな


父の匂ひ    小田 桐妙女(陸)
土匂ふ父と揃ひの万歩計
狐火や射殺魔の涙骨散ず
襟巻に十一面の埋もれけり
冬ぬくし二重瞼のこけしかな
鶏をしづかに絞めて雑煮祝ぐ
戒名の子にも持たせるお年玉
肩幅の小さくなりし父の屠蘇
身のうちの蜜の熟成冬りんご
風花の生まれしばかり匂ひけり
てふてふや狂ひはじめし万歩計


大綿の國    小田島 渚(銀漢・小熊座)
待春やしわしわになる水餃子
桜貝ひろふ疑ひ消ゆるまで
穴惑アルカリ単三乾電池 
かりがねや受話器にコードありし頃
反骨や平たき電気カーペット
北風に千切られ言葉かの世へと
裏白のうらをボンボン時計鳴る
家系図を辿れば大綿の國に
失ひし舌を探しに寒林へ
白鳥の空へ飛び立ち村は消ゆ


春  寒  し      金子 千佳子(いつき組)
薄暑光封じ冷めゆく吹きガラス
一文字に反古となる文朝曇
石塊はかつての墓標いわし雲
無月なり龍頭重き舟舫ひ
日は白し刈田に鳥が鳥咥へ
瞳孔に淵のあるらし紅葉散る
春寒し手乗りの鳥は擬卵抱き
指切りや小箱にひとつ桜貝
藍甕に泡も藍色おぼろ月
陸奥の細道ぜんまいの向き向きへ


情動キメラ      久眞(いつき組)
いつ見てもかかしのくせに色男
台風の過ぎてだれかの体操着
寒林や龍たち去りし沼のあを
結論は出さぬ一夜よ雪女郎
断捨離は途上にあるや焼野原
真珠生まるる海よ春三日月よ
スキップを繰り返す子や風光る
老鶯やしとど匂へる七合目
能面の情動キメラ日雷
空はただ空虚にあをし金魚玉


遠  花  火      佐藤 涼子(澤・蒼海)
船橋に輪飾りやガムテープ貼り
ケーキより剥がすセロファン春浅し
スケートボードに下る階風光る
一つ舎に避難所遺体安置所冴ゆ
閖上二千戸なべて土台や桜まじ
東北大学図書館内専用うちわ校章入り
医学書の人体無毛遠花火
長き夜や母の手首に赤輪ゴム
踏まれたる短靴磨ける霜夜かな
秋の雨嘔吐の口を漱ぎたり


とろとろ      相馬 京菜(むじな)
どこよりか悲鳴のあがる木通かな
冬ともし会釈に揺るる鍵の束
チョコレートを狐火は溶かすだらうか
欄干の雪を払ひて今日の雲
セーターの明るい色をかぶりけり
ショー終へてふんはり開くイルカの口
雪薄くかぶせソーラーパネル百
海へ出て卒業の子が手をほどく
肉切つてたまに桜の下に来て
心臓に異郷の祭太鼓かな


白  日  夢      武田 菜美(銀化)
思ひ出し笑ひをひとつ冬たんぽぽ
フライングしさうな心木の芽風
鳥帰る坤輿万国図の天へ
友情と恋のあはひに桜貝
二心あり蝶の模様の裏表
蝶に触角人にガイガー・カウンター
白日夢しだれ桜の傘に入り
花吹雪日の丸弁当に翳り
あめつちの隙にねころび春惜しむ
夏みかん第六感へ通電す


しばれゆく     谷村 行海(街・むじな・はなぞの)
アロハシャツ羊の肉を売る係
鵯の舌突き出でしまま死にてをり
カバディーのかけ声聖夜の体育館
「その」の指す解答二つ冬旱
冬夕焼プロテインかき混ぜながら
半纏を羽織りて実家フルーチェ酸し
父親の机に避妊具風邪籠
じやんけんに勝ちてなまはげ役の人
なまはげの集ふ町役場のトイレ
よく使ふ臓器の順にしばれゆく


しろのく      米 七丸(むじな)
泰山木人工衛星みおろせり
浜木綿の群れが佇むひかりかな
嘘つきし日のとろろ汁よく伸びて
冬座敷大・中・小の影が落ち
金剛も砕かれさうな冬の月
冬木立あなたの声が届かない
冬の星仔猫の瞳間借りして
「『夢の国』へ参りましょう。」と嫁が君
歯朶の葉のごとく会議は巡りだし
晴れ着着て肩幅憎し成人式


三       堀切 克洋(銀漢)
もう妻に叱られてゐる三日かな
みちのくの冬三日月の尖りやう
日脚伸ぶ三半規管あいまいに
三度ほど聞き返されてマスクとる
梅まつり三周ほどで帰途につく 
肉刺ひとつ潰してしまふ順三忌
初桜へと三門を潜りけり
月おぼろ三号雑誌読み耽る
のどけしや三分を待つ間にも
新社員三日で誰もまだ辞めず


土   蔵      本田 葉(澤)
水槽の眼張見詰むる遠き海
鰭小さき眼張あふぎ保ちつつ
芹の根を噛める芹鍋土蔵座し
芹鍋のせり根土色銀の湯気
仙臺麩つつき芹鍋煮染む頃
遠山の頂き白し夕桜
水底のゆるる梅藻や白石川
火星にも季節あるらし扇風機
聲大き訛りの農夫草いきれ
キャタピラの溝に食ひ込む蛇の肉


冬   空      水月 りの(小熊座)
へその緒のもつれて久し初御空
冬青空壊れた時計動き出す
ムカサリに降り積もる雪消えぬ雪
原宿いやほい雪女も通る
悪意なく誠意もなくてフリージア
あっけなき死刑執行心太
空青く海青くして熊泳ぐ
さよならは小さな声で冬菫
白鳥の瞳にオペラ座の怪人
焼野原眠る未生の夢の種


蟻  の  列    宮川 それいけ(澤)
料峭や靴跡付きし新聞紙
長きまま消せる煙草や鳥雲に
新緑へ開け放ちたる武道場
蟻の列我が頭の影を貫ける
自転車の籠の荷跳ねて夏休み
鉄管を水通ふ音秋来る
廃業の湯屋の煙突昼の虫
狐火と妻指差しぬ何もなし
ポケットに冷めしカイロを握りをり
歯朶先の先まで歯朶でありにけり



レッツプレイ      山口 刃心(澤)
ぽふぽふとクリボー踏みて春の土
春星を捉え恍惚無敵なり
によきと出づ人喰い花や夏近し
夏野へと蹴るノコノコや消えゆける
焔吐くクッパの下をダッシュ夏
ポール掴むわれに重力花火かな
夏雲や浮かぶ金貨へ飛びつきぬ
あの泉思ふ土管に潜るとき
火炎玉投げし指の匂ひや秋の風
襟巻を解き阿修羅の顔を解き


三太郎の小径     渡辺 誠一郎(小熊座)
ごつごつと骨の音する鬼房忌
人類の端にわれら初句会
三太郎の小径を過ぎるなめくじり
戦争を知らないふりの蜻蛉かな
わが孤影見えてくるまで水を打つ
卓袱台の行方は知れずとろろ汁
恋人の襟巻アエル28階より長し
狐火は信玄袋に入れるべし
立ちそばを食い冬帝のふところへ
東京を追いこして行く桜かな



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2019年7月10日発行/発行人・小田島 渚
ご感想、お問い合わせ等 sendaihaiku★gmail.com(★→@)
※無断転載禁止(通算第1号)
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