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アンドロイド転生1025

2020年5月20日
池袋 レストランにて

カノンは科学の力で子供を授かった。人工子宮を借りてアンドロイドのハルカが産んだのだ。長らく民法の規定により“分娩した者が母“であったが、時の流れと共に法律が改定された。

カノンは微笑む。
「今は私が親だって認められてる。そうよね。現代は多様性の時代だもん。遺伝子バンクを利用する人も多いし、同性同士の子供も誕生する」

カノンは眠るダイキを見つめた。
「でも…やっぱり…他人が妊娠するって大変だよね。10ヶ月近くも血の繋がらない子を育てるんだもの。しかも出産は苦痛が伴うし…」

リツは頷いた。
「だから人工子宮なんだな」
「そうそう…!人間って凄いよ。何度も“神の領域“に挑戦して…結局は結果を出すんだもん」

現在はまだ人工子宮は治験の段階だがいずれは国の認可が降りるだろう。そのうち命の誕生は“人間が産む“という認識ではなくアンドロイドに任せる事が当然の時代が来るのかもしれない。

カノンはダイキを見つめて微笑む。慈愛の眼差しだ。3歳の子供は満腹になり眠っている。そのあどけない寝顔はまるで天使だ。
「自分の子って本当に可愛いんだね」

カノンはアリスに顔を戻した。
「だからね?今になって漸く親の気持ちが分かるの。私…心を病んでしまって…おかしな事ばかり言ってた。2人とも凄く辛かったと思う」

アリスもカノンを見つめた。彼女の気持ちが痛いほどよく理解出来た。
「でも今はご両親様は喜んでいますね」
「うん」

アリスは微笑んだ。カノンは眩しい。キラキラとしている。彼女は精神病を克服し、服飾デザイナーとなった。ハルカと出会いダイキに恵まれたのだ。こんなに嬉しい事はなかった。

「カノン様。私は幸せです。あなたの人生が知れたのです。あの時は本当に心配でした。治るまでお世話をしたかったのに叶わなかった。それがとてもとても心残りだったのです」

病院の経営者が代替りをした事でスタッフを総入れ替えした。アリスを必要としなくなり彼女の派遣契約は打ち切られてしまった。別れの日。2人は抱き合って泣いたものだ。

カノンの瞳が潤んだ。
「うん。私も幸せ。また会えたんだもの」
アリスの瞳からも涙が零れ落ちた。
「神様はいますね。きっと」

眠っているダイキがくしゃみをした。ハルカは立ち上がるとダイキを抱き上げた。
「カノン。そろそろ帰りましょう。ダイキにはベッドで休んでもらいたいのです」

全員が立ち上がった。別れの時間だ。
「リツ。アリス。またお店に行くからね!」
「おう。待ってるぞ」
「はい!お待ちしてます!」

・・・

その後のカノン達の一生を読者に報告しよう。2年後。カノンは何と驚く事に宝くじに当選した。一生を遊んで暮らせる程の額を手に入れたのだ。彼女はそれを仕事に活かす事に決めた。

服飾デザイナーのカノンはデザインの勉強をする為にフランスに渡ったのだ。勿論、ハルカとダイキも一緒だ。10年後。パリで小さな洋品店を開業した。経営は概ね順調だったが波風もあった。

だが向かい風があっても心の病を再発する事はなく乗り越えていった。彼女はひと回りもふた回りも大きくなったのだ。それにはやはり恋人と息子の存在が支えになったのだろう。

カノンとダイキはフランスの永住権を取った。ダイキは成人するとバレエダンサーの道に進んだ。カノンはハルカと一生を共にした。ハルカに介護されて幸せな晩年を送ったのである。

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