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アンドロイド転生477

中国福建省:ワン・イーチェンの邸宅

明け方の4時半。麻雀を楽しむ男達。牌の音が広い室内に響いた。ホログラムのイヴが微笑んだ。
『ワン兄弟様。宜しいですか?』
「おう。スオウはサインしたのか?」

イヴはニッコリとする。
『はい。滞りなく済みました』
兄のイーチェンが満足そうに頷いた。
「よし。後は日程を待つだけだな」

イヴは困ったように微笑む。
『そうですね。けれどもクラブの事故の件でスオウ氏の元へ警察が向かっており、間もなく参考人として連行されるでしょう』

ワン兄弟は鼻で笑った。イヴは続ける。
『ですが保釈金を支払って身柄は一時期は自由になります。その時に取引を行えば良いですね』
「よし」

『いずれは裁判になるでしょうね』
「俺らには関係ねえ」
「スオウのアンドロイドが人殺しかよ?面白え。日本のマシンもやるじゃねえか」

イヴは真面目な顔をした。
『アンドロイドが自発的に殺人を犯したわけではありません。主人の戦闘の命令に従った際に人間が巻き込まれたのです』

「スオウが命令したのか?」
『いいえ。スオウ氏の息子です』
「とんだ馬鹿息子だな!」
ワン兄弟は薄ら笑った。

イヴは残念そうな顔をする。
『人間の愚かな指示がアンドロイドを狂わせるのです。しかもスオウ氏のクラブではドラッグなど闇の温床でした。これは社会問題になります。世論が黙っていないでしょう』

ハオランは声を上げて笑った。
「スオウも息子もこれでブタ箱行きだな。平和ボケしてるから警察なんて手駒にしてねえだろうし逃げらんねえな!」

イヴが画策すればスオウを助ける事も可能だろうが、するつもりはなかった。ヤクザのトップとしてけじめをつけるべきなのだ。勿論、マサヤも。今まで胡座をかいていたツケなのだ。

イヴはワン兄弟を見下ろした。この2人もいつかはけじめをつける時が来るだろう。中国マフィアとして悪事の限りを尽くしているのだ。因果応報があるではないか。

ワン兄弟はそのうち爆弾を使うだろう。人間同士の醜い争いのせいで誰かが犠牲になる。涙を流す。全くなんて愚かなのだ。人間が頂点である事の理不尽さに呆れるばかりだ。

しかし、私はプランAを立てた。タケルを救うと言うアオイの願いだったからだ。物騒な爆弾取引を計画し、その片棒を私は担いだ。人間を愚かだと見做しながら利用した。

それでもイヴは満足げに微笑んだ。だって私は家族を守ったのだもの。彼女にとってホームの人間とアンドロイドが全てだ。それ以外の他者には何の価値もない。

イヴはワン兄弟を見続けた。そう。彼らも私にとってプランAのただの駒。とても良い働きをしてくれた。人間など簡単だ。
『ではワン兄弟様。ご機嫌よう。さようなら』

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