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ピルを飲んだら死にたい朝が来なくなった

もうピルのない生活には戻れないと思う。

4か月前から低用量ピル(以下、ピル)を服用している。生理痛やPMSの緩和に効果があると知ったからだ。本当は、ずいぶん前からその事実は知っていたのだけれど、わざわざ産婦人科に行くのはハードルが高くてずっと「そのうち、そのうち」と先延ばしにしていた。

ピルには副作用がある、というのはよく聞く話だが、実際飲みはじめの1、2か月は血が止まらなくてとても困った。ただ、産婦人科の先生に相談したところ、ホルモンバランスの変化に身体がついていけていないだけで、とくに心配することはないとのことだった。3か月目からは身体が順応したのか、副作用らしい症状はまったくなくなった。それどころか、すこぶる体調がいい。

ピルのおかげで人生が変わった

ピルを飲むまで、生理前の1、2週間はPMSの症状が辛くて仕事どころではなかった。きちんと睡眠をとってもひどい眠気がおさまらないし、とくに理由もないのにイライラするし、ひどいときには朝起きたとたんに「死にたい」と思っていた。

精神的な辛さは生理がはじまると多少緩和されるのだが、今度は重い生理痛がやってくる。とりあえず、子宮が痛い。それに身体から大量の血が出続けるのだ。必然的に貧血ぎみになって頭がぼうっとする。あと、めっちゃ寒い。

それが、ピルを飲み始めたらどうだろう。辛かった症状がほとんど出なくなった。ものすごく、元気。生理前の理由なき怒りもなくなったし、出血の量が減って生理痛も軽くなった。そしてなによりありがたいのは、殺人的な睡魔に悩まされなくなったこと。おかげで仕事中に居眠りせずにすむ。

そして、理由もわからず涙が止まらなくなる夜や、起きぬけに「死にたい」と思う朝が来なくなった。心のバランスが安定しているというだけで、こんなにも生きやすくなるのかと、とても驚いている。

ピルのおかげで、わたしの人生は大きく変わった。もともと、男女の(社会的な)性差はないと思っていたのだけれど、PMSや生理痛といった生物学的な女性としての特徴が、自分の足を引っ張っている気がしてならなかった。だから自分の子宮が心底憎かったし、女である自分を愛せなかった。

そういう思いは完全に消えたわけではないけれど、ピルを飲むことでやっとスタートラインに立てた気がする。もっと頑張れると思うと、とてもうれしい。

ピルに対する偏見は根強い

どうしてもっと早く服用しなかったのかと後悔するほど、これまでわたしが抱えていた身体の悩みのほとんどを解消してくれたピル。だけど、日本女性のピル服用率は先進国のなかではかなり低いらしい。

2013年度の国連人口部の統計によると、ピルの服用率はフランス41%、ドイツ37%、イギリス28%だ。キャリアウーマンに限定すれば、もっと高い。(中略)
我が国の状況は対照的だ。ピルの服用率は、わずか1%。女医や看護師でも、多くは服用していない。

出典 上昌広「日本人のピル服用率は、なぜこんなに低いのか」(THE HUFFINGTON POST)

たった 1%だなんて、ほかの国と比較しなくたって完全なマイノリティだ。でも「PMSツラい」「生理痛ツラい」という話はいろいろなところで聞くし、メディアにも「PMSを緩和するには」「生理痛を軽くする方法」なんて情報があふれている。

PMSや生理痛に悩まされている女性はたくさんいるはずなのに、唯一に近いほぼ確実な改善法であるピルの服用率がこんなにも低いのは、一体なぜだろう。

同記事では下記のように説明されていた。

この問題を研究している南相馬市立総合病院の山本佳奈医師は、3つの理由を挙げる。
一つ目は、ピルの承認が遅かったことだ。我が国で低用量ピルが承認されたのは1999年。アメリカに遅れること25年。先進国の中でもっとも遅い承認だった。
二つ目は、ピルを入手するのに、処方箋が必要なことだ。多くの先進国では、ピルはドラッグストアでも入手できる。前出の吉田いづみさんは「ハンガリーでは、初回の入手には処方箋が必要ですが、二回目からは薬局で買えます」という。
海外で安全性が担保され、ドラッグストアで普通に販売されている医薬品が、日本人にだけ危険性が高いとは考えられない。この規制は、早急に見直すべきだ。
三つ目の理由は偏見だ。山本医師は、服用を忘れないようにピルを机の上においていたところ、同僚の男性医師から「コンドームを人目につくところに置いているようなものだ」という抗議があったという。医師でさえ、この程度の認識なのだから、社会的コンセンサスには程遠い。

出典 上昌広「日本人のピル服用率は、なぜこんなに低いのか」(THE HUFFINGTON POST)

日本人女性のピル服用率の低さの理由について、「1. 承認が遅れたこと」「2. 購入には処方箋が必要なこと」「3. 偏見があること」の3つが挙げられている。

承認が遅かったことはもうしょうがないにせよ、処方箋がなければ買えないというのはたしかにかなり面倒だ。実際、わたしがなかなかピルの服用に踏み切れなかったのはこの「面倒さ」のせいである。わざわざ産婦人科に行く時間を作らなければならないと思うと、つい先送りにしてしまっていたのだ。また、保険が適用されるケースが少ないため、そこそこの金額がかかるのもなんとなく気が進まない原因かもしれない。

でも最大の問題は「3. 偏見があること」だと思う。本当に「ピル=(≒)コンドーム」なんて認識している人がいるなら驚きだが、たしかにピルの話題を大声で話すのははしたない、という類の偏見はある気がする。たぶん「ピルは避妊のためのもの」というイメージが強くて、セックスを連想させるからだろう。

さらに「ピルを飲んでいる女は不特定多数の男とセックスしていそう(=ビッチ)」なんてまったく理屈の通らない印象を持っている人が少なくない。そしてこの偏見はたぶん、男性だけのものではない。同じ女性のなかにさえ、ピルを飲んでいる女にいい印象を抱かない人がいる。

女であることに足を引っ張られたくない

理不尽な偏見は本当にバカバカしい。そんなことは気にしなくていいから「PMSツラい」「生理痛ツラい」と思う女性は、とにかく一度ピルを試してみたらいいんじゃないかと思う。もちろん、誰にでも必ず効果が表れるわけではないし、血栓症のリスクが高まるというデメリットもある。薬が合わなくて重い副作用が出てしまう人もいるそうだ。

だけど、PMSや生理痛はなにか対策を打たない限り毎月必ずやってくる。閉経するまで何十年も自分の子宮に足を引っ張られるなんて、そんなの納得いかないじゃないか。

PMSや生理痛に悩まされるたび、女であることが本当に嫌になった。だから死んで女をやめたいと、朝が来るたび思った。そんな人生は苦しくてかなしい。ピルを服用するようになってからのわたしは、女であることに嫌悪感を感じることが少なくなった。それはPMSや生理痛の症状が緩和されたこともあるけれど「女だからしょうがない」と諦めずに行動を起こしたからだと思う。

だって「PMSツラい」「生理痛ツラい」ってうじうじ言っていたって、ぜんぜん建設的じゃない。それを周囲に当たって「理解してよ」と押し付けるのは暴力だ。ピルがハードル高いなら漢方でもいいから「女だからしょうがない」に甘んじないで立ち向かうべきだと思う。わたし個人としては、恥ずかしがる必要なんてまったくないという考えだけど、周りの目が気になるならべつに隠れて飲んだっていいじゃないか。

涙が止まらない夜も、どうしようもなく死にたい朝も、我慢し続ける必要なんてないんだから。

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