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-Vol.05-プロ野球選手の成功の基準①~年俸を指標とした成功基準の検証<32年分の選手名鑑から平成とプロ野球選手を読み解く>

筆者が一年一年購入してきた『日刊スポーツプロ野球選手写真名鑑』32年分、32冊から、様々なデータを解析、紹介するnoteのVol.5。

今回は、プロ野球選手の成功の基準について、年俸という指標から考えてみたので紹介したい。

(なお有料エリアは最後のオマケ的なところとなっているので、是非読み進めていただけると嬉しい。)

プロ野球関係の書籍などを読んでいると、”様々な指標””様々な基準”でプロ野球選手を”成功した選手”"成功していない選手”に区分し、ドラフトの成果や体格による将来性など、様々な因子との関係を考察している記事に出会うことがあるだろう。

この”様々な指標”は、「出場試合数」であったり、「タイトル獲得」「打撃成績・投手成績」「セイバーメトリクス的指標」など、本当に様々なものがある。

また”様々な基準”については、”成功”というものが、個々人の考え方によってさらに千差万別であるので、基準の設定は難解である。

つまり

「一軍の公式戦に出場」=成功
「通算1000試合出場」=成功

このどちらの等式も正なのである。

今後、色々な成功の基準を、指標を変えながら考えてみたいと思うが、まず今回はその成功基準の指標の一つとして年俸を指標として考えることとした。

本記事では、今後、様々な成功基準と比較するためにも、この成功基準に達する割合(確率)を算出した。
この割合は、その成功基準の難易度のような位置づけとなり、様々な成功基準の比較を可能にするものであると考える。

本記事の解析の対象は、性質上、日本人選手のみを対象としている。
よって解析の対象は、1989年(平成元年)から2020年(令和2年)の『日刊スポーツ選手写真名鑑』に掲載されている日本人選手3500人についてである。

なお断りなく“選手名鑑”と記述しているものは、一般名称としてのプロ野球選手の選手名鑑を指し、“プロ野球選手写真名鑑”と記述しているものは、私の大好きな『日刊スポーツ選手写真名鑑』のことを指すように記述している。そんなに意識せずとも読み進められるとは思うがご承知いただきたい

なぜ筆者がこのようなシリーズでnoteを書いているか、お時間がある方は、詳細は下記の自己紹介の記事を読んでいただけると嬉しい。

○年俸一億円は成功の証

選手の評価について、真っ先に考えられる物差しは年俸であろう。
選手名鑑には必ず推定年俸が掲載されており、それを読む楽しみの一つとしている人も多いだろう。
プロ野球選手の目的は、お金を稼ぐ事のみでは無いだろうが、稼げないスポーツは人気が無いのも事実だ。

この年俸を成功の基準にできないか?
そう考えるのは自然であろう。

年俸について一つの区切りとなるのは、「年俸一億円」であろう。
メディアなどでも「一億円の大台」「一億円プレーヤー」などと表現され、プロ野球選手自身もこれを目標としている選手も多いだろう。

この「年俸一億円」を成功基準とした場合、その成功選手の割合はどうなるか算出した。

下記の表がNPB入り年ごとの一億円プレイヤーの数とその割合である。
”一億円プレイヤー”とは、一度でも推定年俸が一億円を超えた選手である。
なお、1989年(平成元年)より前にNPB入りしている選手については、1989年(平成元年)より前に一億円の年俸を手にしていたとしても、カウントされていない点を注意いただきたい。
現役選手も含めた数字となっており、「内現役」とはその年度にNPB入りした一億円プレイヤーのうち2020年(令和2年)シーズンに現役の選手の数である。

○成功選手の割合~成功する確率~を出すために

1989年(平成元年)から2020年(令和2年)のプロ野球選手写真名鑑に掲載されている一億円プレーヤーの数は、投手が151人野手が176人という結果である。

1989年(平成元年)から2020年(令和2年)のプロ野球選手写真名鑑に掲載されている日本人選手は、投手が1772人、野手が1728人なので、単純に割合を出すと、

投手   8.5%
野手 10.2%

となる。

しかし、”成功する確率”というような意味合いで、割合を出したいとなると、少し問題がある。

表からもわかるように、2020年(令和2年)現在、NPB在籍年数が少ない選手は、一億円プレーヤーは少ない。
上記の表からも読み取れるように、2018年(平成30年)以降にNPB入りしている選手の成功割合は0%である。

対して、”現役選手は今後一億円プレーヤーになる可能性がある”とし、引退している選手のみを対象にする場合も、一億円プレーヤーは在籍年数が長く、一億円プレーヤーでは無い選手から引退していくため、成功割合が低く算定されることとなる。

なので本来なら、すべての選手が引退している年度についてのみ、計算の対象として割合を算出したいところだが、そうなると本解析では著しく対象の選手が少なくなってしまう。
そのため、ある程度の選手が引退している年度以前を対象として割合を計算することとした。

下記の表は、一億円プレーヤーになっていなく、2020年(令和2年)シーズン現役の選手を下記の表にまとめた。2001年(平成13年)以前は0人であるため割愛している。

この表を見ると、2009年(平成21年)以前にNPB入りの選手は、およそ9割程度が、
・一億円プレーヤーとなっている
または
・引退している
選手である事がわかる。

この情報を元に、なるべく正確な成功選手の割合を出すための対象を1989年(平成元年)~2009年(平成21年)に、NPB入りしている選手として計算することとした。

この方法では、対象となった中で一億円プレーヤーとなっていない現役の選手は、申し訳ないが、”成功しなかった選手”としてカウントさせていただいている。
ちなみに2009年(平成21年)NPB入りの、その9人の現役選手の、推定年俸の推移が下記のグラフである。

これらの選手は、2020年(令和2年)のシーズンは、12年目となる。
いまにも、一億円プレーヤーとなりそうな選手もいるが、そこは目をつぶって集計したい。

○成功基準=一億円プレーヤーとなるプロ野球選手の割合

上記に基づき、1989年(平成元年)~2009年(平成21年)にNPB入りの選手について、一億円プレーヤーの割合を算出した。結果が下記である。

投手 総数  897人 一億円プレーヤー 102人 割合 11.3%
野手 総数  860人 一億円プレーヤー 119人 割合 13.8%

よって年俸一億円を達成を成功の基準と考えると、

投手 成功選手割合 11.3%
野手 成功選手割合 13.8%

となる。

およそ10人に1人の非常に狭き門であることがわかる。

ただ一方、この平成30年間では一億円プレーヤーの数は激増している。
下記が、1989年(平成元年)からの、その年に一億円以上の推定年俸がプロ野球選手写真名鑑に掲載されている選手の人数である。

このように数は増えているため、今後、一億円プレーヤーというハードルは下がっていくことが想像できる。

〇一般人の生涯賃金をパッと稼ぐプロ野球選手

巷では、一般的なサラリーマンの生涯賃金は2億円~3億円程度と言われている。
サラリーマンは実働40年以上。
プロ野球選手は実働はそれぞれであるが、サラリーマンよりはかなり短い。

その短い期間でサラリーマンの生涯賃金を稼ぐことができたら、成功ではないか、そういう考え方もある。

よって、各選手の各年のプロ野球選手写真名鑑に掲載されている推定年俸を足し合わせて「生涯年俸」とし、2億5千万円を基準値として集計を行い、成功選手の割合を算出した。

なお1989年(平成元年)より前のデータは、筆者は持ち合わせていないため、集計は1989年(平成元年)以降NPB入りした選手を対象にしている。
また、メジャーリーグ移籍や独立リーグ移籍などによりNPBを離れていた期間がある選手、一度でも年俸調停などでプロ野球選手写真名鑑に年俸の記載がなかった選手については集計からはずしている。
下記がその表である。

投手、野手とも左から
・その年にNPB入りした対象の選手の数
・その内、生涯年俸が2億5千万円を超えた選手数
・その内、選手が2020年(令和2年)シーズンで現役の選手数
・生涯年俸が2億5千万円を超えていないが、2020年(令和2年)シーズン現役の選手数
・生涯年俸が2億5千万円を超えた選手の割合
となっている。

○成功基準=一般人の生涯賃金を稼ぐプロ野球選手の割合

一億円プレイヤーの解析と同じように、ある程度現役選手が減っている年代として2009年(平成21年)を設定し、これ以前の選手より割合を算定した。
その結果が下記である。

投手 総数 851人 該当人数 200人 23.5%
野手 総数 831人 該当人数 206人 24.8%

よって一般人の生涯賃金をプロ野球で得ることを成功基準と考えると、

投手 成功選手割合 23.5%
野手 成功選手割合 24.8%

となった。

一億円プレーヤーとなるよりは、甘い基準であることがわかるだろう。
ただ投手野手ともに1/4以下という数字である。
いくら実働年数が短いといえ、やはりプロ野球界は厳しい世界であることがわかる。

なお、今回、NPB入りする際の一時金である契約金については生涯年俸に合算していない。これらを含めればもう少し割合は上がることが想定できる。

○一般人と比較してはいけないだろう

上記の結果を見て、一般人と同じではいけないだろう、という意見もあるだろう。
子供の時からの努力と、たぐいまれなる才能の結晶を解き放つ対価は、そんなものでは無い、というところであろうか。
なので2億5千万円を、倍の5億円として集計した結果が下記となる。

対象を2006年(平成18年)以前にNPB入りした選手として割合を算出すると、

投手 総数 698人 該当人数 91人 13.0%
野手 総数 705人 該当人数 114人 16.1%

となる。

よって一般人の生涯賃金の倍をプロ野球で得ることを成功基準と考えると、

投手 成功選手割合 13.0%
野手 成功選手割合 16.1%

少し投手と野手で差が出ており、実働年数の違いが影響してきているとみられる。
投手野手ともに、一般人の生涯賃金の倍となると成功選手の割合はグッと下がることがわかる。

○平成年間での年俸の推移と一般人の給与推移

平成年間のプロ野球を見てきた方ならわかると思うが、プロ野球選手の年俸は平成年間で劇的に増加した。

下記のグラフが、各年度の日本人選手の年俸の総額の、1989年(平成元年)から2020年(令和2年)の推移である。

このように、支払われる年俸総額は、この三十数年で3倍以上となっている。プロ野球選手の人数自体が増えていることもあるのだが、平均年俸自体も増加している。
下記のグラフが、1989年(平成元年)から2020年(令和2年)の年俸分布指標と年俸平均の推移である。

このように平均年俸も3倍近くになっている。
2006年(平成18年)以降は育成選手の影響があるのだが、中央値なども、平成初期に比べて増加しているため、各選手の年俸の底上げも起こっている事がわかる。

一方、一般人の年収についてはどうであっただろうか?

下記が、国税庁の調査より筆者が作成した、給与所得者の1989年(平成元年)から2018年(平成30年)の年間給与=年収の推移である。

悲しいかな、平成年間で一般のサラリーマンの年収はほとんど増えていない。
プロ野球選手は3倍になっているのに、だ。

これが「失われた30年」と言われる所以であろうか。

今後もこの格差が広がっていくようであれば、プロ野球選手の成功を一般のサラリーマンの生涯賃金を基準とした場合、今後もハードルは下がってくることが予想される。

一般的に考えて、プロ野球選手となったこと自体が成功ととらえられるかもしれない。
そうなると、プロ野球選手を一般人と比較すること自体、意味が無いのかもしれないが。

○生涯年俸 Best50

最後に今回の成功基準で用いた生涯年俸について、上位50位の選手を下記の表に示す。
1位は50億円超え、50位でも22億円と、エリートプロ野球選手の一覧である。

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