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起業に向けた経営計画書を作る

3年前はライブ配信プラットフォームでディレクターをしていたヨロズくんは転職して大手出版社のIP創出事業のプロデューサーになっていた。
キムも戦略コンサルを辞めて起業家兼投資家になっていた。
僕も個人事業主になっているし、「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という感がある。

二人に相談するにあたって、今後やりたいことを説明するために経営計画書を作った。
現在の主軸であるシステム運用コンサルと研修を中心に、中身はこんな感じである。

なんともスカスカな内容であるが、とりあえずヨロズくんとキムにしか見せないので問題はない。と、自分に言い聞かせる。

まずはキムに相談した。
「コンサルと研修って、誠司くん以外にスケールできるんですか?」
「なかなか難しいものがあるね。出来る人にはできるし、出来ない人にはできない」
「……、どこぞの元総理の次男坊みたいな言い回しですね」
キムはつっこみながら話をつづけた。
「まずは運用設計のフレームワークをアプリ化して、それとコンサルを合わせて販売するほうが効率的かもしれません」
コンサルと研修しかやるつもりがなかったので、少し考え込んだ。
自分の業務を元にしたアプリケーションを作る。
それがピンとこなかった。

なんとなく、昔の上司に言われた「近藤を量産しろ」という言葉を思い出していた。
会社は成果をあげる社員が発生すると、そのコピーを作ろうとする。
「コピーを作れ!」は云うは簡単だが、行うは激ムズである。

コンピュータであれば、コピーを作るのは簡単だ。
データはコピペでペっとやればまったく同じものがすぐに複製できる。
アプリをインストールすれば、違うパソコンでも同じアプリを使うことができる。
ただ、この考え方を人間に適用するとエラいことになる。

当たり前だが、人間は性別、体格、性格、思想などが違う。
このどれか一つでも揃えようと思うと、手術か洗脳、もしくは教育が必要である。
これはパソコンでいうところのOSがバラバラで設定値もそろっていないということなので、ソフトウェアをインストールしようとしても上手くいかないのだ。
つまり他人の考え方をインプットするというのは、誰でも簡単に出来るものではない。
普通に考えれば、そりゃそうである。
それでもこの「量産せよ」の指令がなくならないのは、たまたまOSが似ている部下がいて方法論の継承が成功するという事例のせいである。
成功者は、自分の体験を一般化して吹聴する。
これを聞いた世のマネージャーは思考を停止させて「コピーを作れ」というのである。

ただ、今回の件はすこし話が違う。
僕がいつもやっている運用設計の作業をそのままトレースできるアプリがあれば、「近藤の一部を量産する」ことは可能である。
僕の一部がアプリになるのでコピーが簡単になるからだ。

「それなら、運用設計を終わらせられるかもしれん。」
僕はポツリとつぶやいた。
経営計画書を作りながら思ったのだが、僕は運用設計を広めたいのではなく、運用設計を終わらせたいのだ。
運用設計のような人間を扱う泥臭い業務は誰もやりたがらない。
もっと技術的に花形の業務に惹かれるのもわかる。
なので、運用設計を広めるよりも、概念自体を終わらせて次のフェーズに進むべきなのである。
僕個人の興味としても、自分の知識や経験でお金を儲けるというより、ナレッジを高速で広めてそれを共通認識にして社会全体を変えることに興味がある。

「業務効率化ツールとコンサルをセット販売するという形が一番手堅いと思います。そこで研修もセットで教育をやりながらツール利用者を増やしていくという感じです」
キムは具体的な話をつづけた。
「誠司さんのビジネスターゲットって、業種だとどのあたりでしたっけ?」
「情報サービス業になるんじゃないかな」
「情報サービス業はだいたい91,000社あるので、その中の1割にリーチできて、さらにその1割、つまり全体の1%に需要があるとして910社です。5年後までに200社と契約するとして、1社500,000円の月額をもらうとしたら、年商12億です」
「12億!?」
キムは立て板に水が流れるように説明したので、細かくは把握できなかったが最後の12億という言葉だけは理解できた。
頭の中では、「12億あったら、何しようかなー」という、宝くじが当たったらみたいなアホな想像が浮かんだ。
「書籍の販売実績とか、ここまでの感じを見ると可能性はあると思いますよ」
キムは一息おいてから話をつづけた。
「起業には2つのタイプがあって、なんでもいいから社長になりたいというタイプ。これはあとからビジネスの種を探すので、経営の才覚が必要です。もう一つは自分のやってきたことで起業するタイプ。これは業界の認知があれば成功します。誠司くんは後者です。書籍とかセミナーとかで露出もあるので成功する可能性が高いと思われます」
12億という数字に浮かれていたが、キムの話を聞くともっともらしい気もしてくる。
「そうか、んじゃ、いっちょやってみっか!」
孫悟空のような返事をしてキムとの相談は終わった。

急いで経営計画書をアップデートして、次はヨロズくんに相談する。
「なるほどね。運用設計のプラットフォーマーになるってことだね」
話を聞き終えたヨロズくんはそうまとめた。
プラットフォーマー?
また考えてもいなかった単語が出てきた。
運用設計の基盤となるアプリを作るということは、それはすなわちプラットフォーマーになるということなのかもしれない。
これまでは自分の時間を売るというビジネスモデルしか頭になかったが、二人への相談を終えたころには自分の考え方が変わった。
日本は人口減少フェーズに入って、エンジニア不足になるのは確定的である。
それは、僕一人がシャカリキに働いて何とかなる問題ではない。

プラットフォーマーに!!! 俺はなる!!!

今度はルフィーみたいな誓いを胸に、また経営計画書を書き直すのであった。


■書き直し後の経営計画書(抜粋)
僕は基本的に見切り発車するタイプなので、ネットで経営計画書の目次サンプルを少し見ただけで書き始めました。
大事なのは「しょぼくてもいいから、信頼できる人に見てもらってフィードバックをもらう」ということでした。
ここには書いていませんが、実際はあと10人ぐらいには話を聞いてもらっています。
この手のことを気軽に相談できる友人・知人がいたということが僕にとって良かった点かもしれません。
現状分析の「自社・事業の強み、優位性」は、売り込みとして若干カマしていますので悪しからず。


ということで、運用設計に関する研修をやっていますので、ご興味ある方はお気軽にご連絡ください。

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