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「失われた対策の前提」~2021.6.26 AFCチャンピオンズリーグ 第1節 川崎フロンターレ×大邱FC レビュー

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レビュー

■いつもと違う左サイド

 『お前らはACL本気出してないだろ!』『いや、お前らの想像より勝ってますから―!!!』みたいな水掛け論が飛び交う。それが自分が抱くACLへのイメージである。まぁ、どっちのいうことも正直わかるんだけど。ただ、今回はいろんな意味でこれまでの挑戦とは一線を画すACLになる。そのことはクラブ関係者もファンもよくわかっていたはずである。

 上の記事での谷口彰悟の予想通り、ACLでの開幕戦はなかなか思い通りにはいかなかった。

 川崎の保持のコンセプトは明確だったように思う。田中碧がドイツに旅立ったことを除けば、いつも通りの11人が並んだ川崎。立ち上がりはストロングである左サイドから崩したい意志は見えた。家長がこちらのサイドに顔を出す頻度は高かったし、左サイドに数の論理を持ち込んで崩していくスタイルを採用したんだと思う。それって何ぞやという人は下の記事を読んでおくれ。

 ただ、守備側としては攻撃側が数の優位を取るべきところが明らかならば、そこから圧縮をかけることは容易である。スペースを狭くされた時に、正確なパスワークでそれを脱出するというのが川崎の強み。ただ、慣れないウズベキスタンのピッチでは前提となる『正確なパスワーク』という部分が成立しない。

 成立しないならば、それを使ったプレスの脱出をすることも当然できない。その状況によって川崎の狭いパスワークはミスが誘発された。三笘⇒ダミアンの斜めの楔や、シミッチを軸としたパス交換など、普段の川崎ならば強みになる部分が大邱のカウンターの温床に。

 ただ、大邱がそこの面でうまく対応していたかと言うと微妙なところ。ここは単純に川崎のスキルとピッチの問題の方がより色濃い。ボールの取りどころもはっきりしていたわけではないし、誘導がうまくいっていたようにも見えない。なので、非保持の局面で大邱の川崎対策がうまくいったか?といわれると微妙なところである。

■優位の半分は川崎のおかげ

 だが、川崎からボールを奪いカウンターを発動する場面においては話は別である。大邱はロングカウンターにおいて非常に川崎のことを研究して、試合に臨んでいたなと感じることができた。

 手順としては
①川崎のWGの裏にボールを運ぶ
②中央の起点であるエジガルがポストをする
③サイドに展開
というのがざっくりとした流れである。

 まずは①のプレスを川崎のプレッシャーがかかりにくいWG裏に蹴ることによって、川崎がやりたいショートカウンターでの即時奪回を機能不全に追い込む。そして、中央のエジガルのポスト。大邱の面々はこのエジガルへの信頼度の高さを感じた。

 彼が背負うことができれば中盤より後ろの大邱の選手は迷うことなく、押し上げてセカンドボールの回収に向かう。仮にロストしても波状攻撃だ。そこからサイドにボールを振る。

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 逆サイドではWGが高い位置を取ってエジガルをサポートするのがお仕事。特にハマっていたのが20番のスンミン。彼の攻め上がりの速さは川崎を苦しめた。エジガルに長いボールを入れた時の中盤の押し上げはやや決め打ち感があり怪しい部分もあるが、それだけ思い切ったからこそ波状攻撃が成立した部分もある。

 大邱がこのやり方を取ってきたのはおそらく、川崎の攻略法を前後の分断に見出したからだと思う。普段高い位置の川崎のSBの裏を取ることでラインを一気に押し下げる。かつセカンドボール回収部隊の存在のせいで、前係な川崎のIHのプレスバックが間に合わず、大邱が波状攻撃をなり立たせる。

 先制点の場面が非常にわかりやすい例だろう。サイドに流れたのはシャドーのセシーニャだったが、その分内側に入り込んだスンミンが先制点を沈める。シミッチの対応も悪かったが、川崎の中盤の戻りよりも早く、大邱が中央に人を集めることができたのは大邱の川崎対策の賜物だと思う。

 前の5人と後ろの5人が分断されてしまうことで苦しくなる川崎。大邱は後ろ5枚を壊すことに集中できたため、先制点の場面以外にも序盤はペースを握ったといえそう。リスクがあるエジガルを信用した押し上げもこの分断が最終目標にあるからこそペイするイメージである。

 設計されたカウンター×川崎のミスにより転がり込んできたトランジッションの機会が大邱のメカニズム。つまりは半分は川崎次第、もう半分は自分たちがうまく運べるか次第である。

 後ろ半分を提供できるかは川崎のパスワークの精度による。その部分は段々と修正されていた。例えば後方のサイドチェンジ。序盤は左へのこだわりを見せていたが、逆サイドへの展開にすぐに意識を持っていった谷口彰悟は優秀。ジェジエウとシミッチが戸惑い気味だった中で、生え抜きのキャプテンが大舞台で堂々たるプレーを見せることができたのはどこか誇らしい。

 逆サイドに広げるのはどう考えても必要。それにより同サイドのマークも甘くなり、つなぐ難易度は低下する。この日は右サイドの旋回のフィーリングも悪くなかったし、それに大邱がうまく対応しているようにも見えなかった。両サイドをバランスよく使うことで徐々にバランスが改善。下手なロストもだいぶ減った。

 そういう意味ではPKを献上したシーンが大邱に与えたカウンターの餌としては最後だったかもしれない。シミッチのパスミスからカウンターを発動した大邱。サイドに膨らんだセシーニャには少しずれたボールが流れてしまったが、なんとかピンポイントで中のエジガルに合わせるとエジガルを引っ張ったジェジエウがPK献上。この日の主審は競り合いの中の手を使ったコンタクトを厳しく取る判定基準だったので、ジェジエウはここはケアしたかったところ。でも、本当にソンリョンはよく止めた。

 2-0でクローズする流れにしたかった大邱だが、PK失敗によってどことなく嫌な流れに。とりあえず自陣に引いて受けることで、前半終了まではやり過ごしたかったはずだが、それを打ち砕いたのがブラジル人コンビ。

 大邱のトップのプレスラインがガンガン下がるのを見て、持ちあがったジェジエウは最終ラインから一気にダミアンにつけるフィード。これをバイシクルで自ら沈めるのだから大したものである。この試合において『これがACLか・・・』と思った川崎サポも多かったと思うけど、このゴールでは大邱のサポーターも同じことを痛感したに違いない。

 硬直した相手のローラインブロックに対して、持ちあがりつつ、直接急所を狙うというジェジエウのプレー選択は見事。相手のやり方に対して、セオリー通りのアプローチが呼んだスーパーゴールだった。

■高さでつぶせば良し

 いい流れで迎えたはずの後半だったが、前半と同じく先に得点を決めたのは大邱の方だった。セットプレーの流れからエジガルへの長いボールがきっかけに。このヘッドに合わせて3人の選手が抜けるのだから、大邱がエジガルにフルベットしていることはよく伝わる。競り負ければ被カウンターでは大ピンチだったはず。

 しかし、この場面ではきっちりヘッドを落として見せた。落としを拾ったイ・グノと対峙した旗手にとってはニアのグラウンダーの選択肢を消すのが一杯だろう。ファーに上げるというよりタフな選択をさせたことは悪くなかった。ここはもう、落とされた時点で負けである。

 ただ、今年の川崎は失点しても簡単に動じることはない。むしろ、前半よりも明らかにこのピッチを自分たちのフィールドにした印象。後半も続いた積極的なサイドチェンジのおかげでだいぶサイド攻略も普段通りに。大邱のPK失敗後から徐々に川崎が押し込む時間帯は増えていく。

 エジガルに入ったときの押し上げる体力がなくなってきたこと、そして押し込まれた際の崩しでより深く入り込まれてしまうようになったこと。じり貧になってきた大邱は後半早々に右サイドを突破されて同点、そして直後のセットプレーで一気に逆転まで持っていかれた。

 川崎は60分過ぎに大島僚太を投入して4-2-3-1に変更。家長が低い位置に降りる頻度が高かったことからも、とりあえず保持の時間を増やすということでチームの狙いは一致していたように思う。大邱はタイスコアより悪い状況においては高い位置からプレスをかけてくるチーム。ただ、このプレスの精度は正直そこまで高くはない。

 したがって、かけてくるプレスは縦に進むチャンス。裏を取り、手早くフィニッシュまで持っていくことで枚数をかけなくても十分決定機になる。4-2-3-1にしても極端にチャンスの数が減らないと判断したからこその布陣変更だろう。

 あとは高さの手当てである。負傷でのアクシデント的な側面もあるとはいえ、車屋を登里に代えたところを早めに持ってきたのは大きかった。ビハインドになってから持たされる局面が増えた大邱の攻め手はあまり多くはない。ロングボールの落としからセシーニャに前を向かせることが中心である。

 おそらく、川崎の左サイドに向かってあげられた長いフィードは登里相手なら完勝する算段だったのだろう。しかし、車屋が入っては全勝とはいかない。そして、それでも愚直に長いボールをつなぐことをあきらめない大邱を見たことで、鬼木監督は試合を終わらせるほうにこの後の選手交代の舵を切ったと思う。

 仮に大邱が保持で1枚1枚剥がす選択肢を持っているチームだったら、すぐには守備面での対策は難しい。むしろ交代策でなりふり構わず追加点を取りいっていたと思う。しかし、これだけ長いボール一辺倒ならば、高さを潰せばこの点差でも十分逃げ切れると考えたのだろう。山村を投入し、シミッチと中盤に2枚のタワーを置く。最後は大島をサイドに置いたのは空中戦で無理をさせる可能性を減らすためだろう。大島、復帰したけども保持の局面では大きな問題はなさそう。あとはゲーム体力と強度の部分だ。

 後半はむしろロングボールしか手段がない大邱に川崎が付け込むという前半と真逆の構図。前半の優位を成り立たせていた、川崎のロストが時間と共になくなったこの試合の大邱には90分を乗り切る反撃の二の矢が備わっていなかったようだ。

あとがき

■環境に適応できれば上積みも期待できる

 危なかったけど勝ってよかったね。初戦だけど負ければ空気も全然違ったはずである。細かい出来の部分はいろいろあるけど、いつもと違うピッチ、いつもと違う国、いつもと違う相手を向こうに回して、戦い方を柔軟に変えながら上回れたのは大いに評価すべき。苦しい中2日の戦いの中で、時間帯と共に上積みを見せながら好発進したことをまずは祝いたい。

今日のオススメ

 34分の山根の高い位置に出ていったのインターセプトチャレンジ。アジアでは国内ほど支配は難しいかもしれないけど、それでも支配するために高い位置から止めることをあきらめてはならない。

見返しメモ

試合結果
2021.6.26
AFC Champions League グループステージ
第1節
川崎フロンターレ 3-2 大邱FC
ロコモティフ・スタジアム
【得点者】
川崎:40' 51' レアンドロ・ダミアン, 55' ジョアン・シミッチ
大邱:8' スンミン, 47' セシーニャ
主審:アハメド・アルカフ

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アーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。乃木坂46の推しメンは西野七瀬。