「プレスに宿った主導権」~2021.9.1 ルヴァンカップ Quarter-final 1st leg 浦和レッズ×川崎フロンターレ レビュー
見出し画像

「プレスに宿った主導権」~2021.9.1 ルヴァンカップ Quarter-final 1st leg 浦和レッズ×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

画像1

レビュー

■勇気に伴うリスク

 浦和に対してプレビューで指摘した問題はビルドアップでどうしても後ろが重たくなってしまうことである。そして、プレビューで川崎に対して指摘した問題はもう前からプレッシングに行く体力はないことである。

 浦和的には前からプレスにいってショートカウンターに移行できれば、ビルドアップの後ろの重さは軽減できるが、そこまでガッツリハメて取り切るプレスが持ち味のチームではない。川崎的には相手の最終ラインに積極的なプレスをかける価値のある相手ではあるけども、90分間それを続けられる状況ではない。

 というわけで自分のペースで運ぶにはプレッシングを仕掛けたい両チームだけど、それにはリスクが付きまとってしまう。180分のカップ戦で立ち上がりからリスクを取れる勇気が優位に試合を進めるポイント。だが、浦和にとっては完成度の部分で、川崎にとってはコンディションの部分で難しいのだろう。

 そういう前提で組み立てた『ジリジリした展開になるのではないか?』という予想は当たったといえるだろう。両チームとも非常に慎重な立ち上がりだった。トランジッションは少なく、互いに様子を見ながら相手の出方を伺うという様子だった。

 もう1つ、自分の予想が当たったという部分は両チームの右サイドバックについて。西と旗手が戻ってこなければきついんじゃないのかな?と思っていたが、彼らは戻らず。そして両サイドバックは苦しい展開になった。

 浦和の右サイドに入った宇賀神は大きな展開の受ける際のトラップミスやパスミスで攻撃の流れを止めてしまうことがしばしば。想定的にはもう少し運べそうな状況でもミスでどうしても停滞してしまう。

 守備においてもこのサイドの裏は川崎の狙い目だった。まずは川崎は浦和の2列目をまず1人つり出して、動かす。そうして手薄になった浦和のバックスの攻略をしていく。

 薄くなった4-3ブロック相手ならば川崎はスムーズに侵入が出来る。大外とハーフスペースを使えば、3センターでは守り切れない。最終ラインに空いたスペース、特に宇賀神のサイドの裏は川崎から攻め込むスキを見つけた感じ。

 しかし、川崎はスピードアップしきれない。5分のイサカ起点の前進とか、12分や20分の車屋の運びとか、18分の脇坂のターンなど、浦和のDF-MF間までは運ぶことが出来ていた。だが、そこから先は浦和の帰陣が早く、川崎にも一工夫しないと難しい。左右のサイド攻略が川崎の定石だろうが、この日の川崎のサイドは狭いスペースを崩しきるスキルは有していない感じである。機会はたまにあるが、チャンスというまでは結び付けられない川崎だった。

■してほしくない類のミス

 浦和のビルドアップはやはり自陣からゆっくりと進めていくものだった。CBが大きく開き、GKである鈴木もビルドアップに参加する。プレビューでも触れた通り、中盤中央でCHが前を向くための動きが目的だった。川崎のIHはそこをわかっていたのだろう。人重視のポジショニングをとり、CHにはマンマーク気味の配置。あっさり前に進ませるわけにはいかないということだろう。

画像2

 浦和としては低い位置まで降りてくる小泉までダイレクトにつなぐ選択肢もあるが、そこにダイレクトにつけるとどうしても全体を押し上げることが出来ない。前にいるのは江坂ただ1人である。江坂は自らを追い越してくれる選手がいてこそ生きる形のトップ起用だったので、全体としてもっと押し上げる状況が欲しかった。

 中央での活路を見いだせない浦和が狙いを付けたのは川崎と同じく右のサイドバックである。立ち上がりこそ悪くなかったイサカゼインだったが、7分の明本へのファウルで完全に委縮してしまったようだ。鬼木監督の試合後コメントを待つまでもなく、外から見てもこのアフター気味のチャージングで彼がこのゲームでSBとしてのタスクを背負える時間は終わってしまったのは明らか。例えば、23分の流れからの攻撃においての浦和のクリアの際は押し上げは遅れるように積極性で気後れするようになったし、終始明本のドリブルにも歯が立たなかった。

 まぁ、無理もないだろう。J1経験が乏しい上に、百戦錬磨の浦和の選手やサポーターからの圧を感じ、その上警告なのだから。もちろん、自らのプレーで招いた部分が大きいが、このタフな状況を乗り越える力はまだないようだ。

 対面の明本がその状況を把握し、ガンガン仕掛けるようになっていたのも川崎にとっては悪かった。明本はそこからドリブルでチャンスを量産。同サイドの汰木とのリンクがほぼみられなかったのは気になったけど。

 川崎はイサカのカバーに奔走していたジェジエウが負傷。山村が入ると、さすがにカバー範囲に無理が出るようになる。こうなると右サイドはもう厳しい。イサカはあとはHTまで持つかというところだったので、橘田と場所を入れ替えるしかないというのはよくわかる。

 加えて、この日の浦和がよかったのは前線の守備。特に小泉。彼自身が取り切るような守備を見せることはあまり多くないんだけど、どこのコースを切って、どこに誘導しているかが周りの選手にとってわかりやすい。細かい体の動きなので、図解するのは無理だけど10分のシーンとかオススメ。

 そんなプレスから浦和は先制点。プレスをかけられたシミッチが時限爆弾と化したパスを山村に押し付けた時点でもうほとんどできることはなかっただろう。この日、目立っていたプレスから浦和は先制する。

 カバー範囲が狭くなっている分、川崎のこのメンバーはもっと保持にこだわれたメンバー。正直、この失点は残念。もちろん、ミスからの失点は仕方ないのだが、状況においてしてほしくないミスというのはある。例えば、橘田やイサカがいる右からぶち抜かれて、そのカバーに出ていった山村が振り切られた!とかはもう受け入れざるを得ないミスからの失点。でも、このメンバーにはこのフェーズの保持ではミスらないでほしかった。

 浦和の面々にコストとしてのしかかっていたビルドアップをミスからのショートカウンターで許したのももったいない。確かに浦和も川崎と同じく苦しんでいたのだけど、プレスを仕留められたことで楽な抜け出しから先制点を渡してしまった。

■勝負をかけた後半の頭

 90分はプレスをかけ続けられないが、限定的にかけることはできる。プレスのかけどころとして勝負するタイミングを川崎は後半の頭に設定したようだ。人を捕まえて時間を与えないプレスで川崎は勝負に出る。

 浦和は時間を与えられなかったり、タッチ数が少ないとやはりパスを回すスキルがまだついてきていないメンバーがちらほら。明らかに川崎はプレスに出たメリットを享受することが出来た。高い最終ラインの後方は気になるところであったが、そこは車屋がど根性でカバー。前を向かせずに対応した。

 高い位置で奪って波状攻撃を仕掛けたい川崎。対角パスを駆使しながら大外を使い、浦和のブロックを左右に振り回す。だが、川崎はここからもう一歩先に踏み込む決定打にかける。大きかったのは機動力不足だろう。少なくともこれまでは左に長谷川or宮城のドリブラーがいるため、勝負の仕掛けどころを作ることはできてはいた。

 しかし、この日は後半は左サイドに家長、右サイドに小林と相手と正対してからのドリブルで勝負できるタイプではない選手の組み合わせ。そういう時に活性化をするのはIHと山根なのだが、橘田が本来のIHではなくSBに下がってしまっているため、攻撃での存在感が希薄に。加えて、オフザボールで勝負できない小塚がIHの一角となると、脇坂頼みになってしまう。

 小塚は時間を作りながら前にボールを進めることに苦しんでいたので、大外をフリに内側を使う!ということもできなかった。ダミアンへのシンプルクロスが増えたのは他の手段が手詰まりだったからだろう。

    それでもシュルツが下がった浦和のバックス相手ならば、前半よりもダミアンは勝負できる。サイドから重心を崩せない苦肉の策ではあるが、シンプルにダミアンを使う形は最善手だったように思う。

 相手を背負うダミアンには近くでプレーするサポートストライカーが必要。小林悠はその役割を見事にこなして見せた。ダミアンのポストに合わせた抜け出しや、ダミアンをおとりにした空中戦などもこなし、浦和に冷や汗をかかせていた。

 得点のシーンもその小林悠から。小塚のクロスに対して小林のダイナミックな落としに走りこんだのは脇坂。惜しくもGKに阻まれたように見えたが、柴戸のファウルからPKを奪取。家長がこれを沈めて同点に。ダミアンの周りを最もうまく使っていた脇坂と小林が生んだ同点弾だった。

 そのPKの得点シーンの少し前くらいから、浦和は徐々に川崎のプレスが回避できるようになってくる。前線の小泉がワンタッチのリターンを挟みながらホルダーをフリ―にしていたこと。縦方向だけでなく横のパスコースのサポートを始めたことなど、徐々に浦和は自陣から脱出できるように。

 前半に比べてパスを重ねながら前進できるようになったことで、徐々に浦和は前線に人を送り込めるように。江坂の裏にWGが走りこむような場面が増えてきた。彼らが作り出す縦方向のギャップは見事で、惜しくもオフサイドになったシーンなどの崩しの質は高かった。川崎が急増DFラインでなくても、対応は難しかったかもしれない。

 ラストパサーとしては江坂は別格。時間を何とか捻出し、抜け出しまでで力を使いがちなチームの中で、唯一彼からのラストパスだけはシューターに時間に余裕を持つ状況を作り出していた。正直、獲得した時は出て行きたそうだったからとりあえず買ったのかな?という思いもあったのだけど、スキルの高さとフィットの早さは想像以上だった。

 川崎は押し込まれるようになると、苦しくなる。この試合2人目のCBの怪我人として車屋を失うと、さすがに普段通りに振る舞うのは難しい。まだ経験の浅い宮城がカウンターでのボールを運び役を安定してできなければ、攻撃の機会を創出するのが難しいほど、川崎のメンバー事情は厳しかった。

 それでも浦和は押し込んだ相手を切り崩す精度は見せることが出来ず。1stレグは1-1のドローで折り返すことになった。

あとがき

■2ndレグを見据えると上々か

 小泉をはじめとしたプレスの精度の高さはとても新鮮。正直、あまりプレスに持ち味があるチームだと思ってなかったけど、この試合では彼を軸とした中盤の押し上げのプレスから大きな先制点を得た。

1stレグのスコア単体で考えればややアウェイゴールがある川崎が優位だが、ユンカーを休養させたところから見ても勝負はアウェイでの一戦と考えているはず。リーグ戦と比べてやれた手ごたえの大きさも相まって、勝ち抜けへの機運は高まっている。

 アキレス腱となりそうなのはやはり時間を与えてもらえなかったときのバックスと中盤の危うさ。特にダイレクトパスのズレで偶発的にピンチを迎えるケースも多くない。川崎は2ndレグも勝負所を設定してくるはず。その時間帯をかいくぐれるかがポイントになりそうだ。

■積み上げは1日にして成らず

 苦しい1stレグだった。試合中のアクシデントを考えれば、さすがにこの試合は引き分けで仕方ない部分が大きい。とはいえ選手の移籍や離脱に伴った急成長というのはなかなか見られていないのが現状で、大きな収穫といえるのはCBとしてパフォーマンスが安定してきた車屋くらいだろうか。

 どこのポジションでも安定感のある山村や橘田、ベテランとしてチームを牽引する小林や登里の存在は頼もしいが、小塚やイサカなどはプレータイムを得られない理由が垣間見えるし、知念や長谷川もなかなかトンネルの出口が見つからない。宮城もワイルドカードの域を出ない。

 それでも続けるしかないだろう。この試合では田邉も出たし、イサカもタフな浦和アウェイを経験したことで上積みはあるはず。小塚も後半からのプレーはある程度の信頼が蓄積されたことの裏返しともとれる。得点にも絡むことが出来た。次の試合が、この試合よりもよくなるように積み上げていくしかない。

試合結果
2021.9.2
ルヴァンカップ 準々決勝 1stレグ
浦和レッズ 1-1 川崎フロンターレ
浦和駒場スタジアム
【得点者】
浦和:35' 関根貴大
川崎:73'(PK) 家長昭博
主審:西村雄一

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
アーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。乃木坂46の推しメンは西野七瀬。