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大島紬のような女

シャワーをした後に、いつものくたびれた寝巻きに着替えて、自宅の洗面台で歯を磨く。
肩より長くなった髪が顔にかかって邪魔なので、鏡を見ながらべっこう色のバレッタで、さっと一つにまとめる。
右手に歯ブラシを持ったまま、鏡をぼうと見る。

いやさ、大島紬だな。大島紬の女がいる。
ふん、ふんと気取って顔を斜めにしたりして。
ほつれ毛が、どうなんだろ?と思ったりして。

ストレッチをしながら、階段上の小窓を見上げたら、夏の強い西日を感じた。

そう思うのも悪くはないねえ。

・・・

桐のタンスに入れたままのあの着物。いつも奥からひっそりとした気配を感じてしまう、大島紬。

残念だけど、もう着る事はなさそうさ。
色々考えたけどリフォームもしないから。

ただ最期まで私と一緒にいようか。