Retrograde cricopharyngeal dysfunction (R-CPD), No burp syndrome, 逆行性輪状咽頭筋機能障害, げっぷ困難症候群 2024年版私設ガイドライン案
概要
定義: 逆行性輪状咽頭機能不全(R-CPD)は、Bastian Voice InstituteのRobert W Bastianらによって米国耳鼻咽喉科学会・頭頸部外科財団の公式オープンアクセスジャーナル「OTO Open」に2019年に提唱された、げっぷが出ない病気である。
病態:
正常ではげっぷ時に輪状咽頭筋が一時的に弛緩するが、R-CPDではこれが起こらず空気排出が阻害される。
その結果、胃内圧上昇や不快感が引き起こされる。
疫学:
比較的まれであり、診断が見逃されることが多い。
若年~中年成人に多いとされる。そのほとんどが「物心ついたころから」げっぷが出ないことを認識している。
症状
主訴:
げっぷが出せない(または非常に困難)。
胃や胸部の圧迫感、不快感。
強い鼓腸感。
随伴症状:
喉や胸部で「ゴロゴロ」と音がする感覚。
吐き気や嘔吐(特に食後)。
音や症状による社会的苦痛。
診断
診断基準
後述のボツリヌス注射によって症状が緩和されることをもって診断する(診断的治療)。
必要な検査(他疾患の除外目的に有用)
嚥下造影検査(VF):
空気排出時の輪状咽頭筋の弛緩障害を確認。
食道内圧検査:
上部食道括約筋(UES)の弛緩不全を評価。
内視鏡:
明らかな構造的異常の除外。
CT/MRI:
周辺組織の病変を確認。
鑑別診断 併存症の可能性もあり
機能性ディスペプシア
胃食道逆流症(GERD)
過敏性腸症候群(IBS)
食道アカラシア(嚥下障害を伴う場合)
空気嚥下症(呑気症)(aerophagia)
治療
一次治療
保存的治療:
生活指導(炭酸飲料の制限、食事の工夫)。
姿勢や腹部マッサージによる空気排出補助。
一部の患者でプロトンポンプ阻害薬が有効(GERDの併存時)。
薬物療法
輪状咽頭筋 (CPM)へのボツリヌス注射(BT):
治療の流れ: 初回のボツリヌス毒素注射は全身麻酔下で行われ、手技は約15~20分程度。1バイアル50単位/生食20mlを輪状咽頭筋隆起部の 4 箇所、括約筋の深部および表層を目標に注射する。その後の注射は、局所麻酔下で行うことも可能。
効果の持続期間: ボツリヌス毒素注射の効果は、通常、注射後2~3日で現れ始め、3~4ヶ月間持続する。その後、効果は徐々に減弱するため、必要に応じて再度の注射が検討される。
副作用: 治療後、約30%の患者に一時的な嚥下困難が生じることがあるが、通常は3~4週間で自然に改善する。
治療の成功率: 2022年の研究では、ボツリヌス毒素注射の有効性は88.2%と報告されている。副作用として、30.6%の患者に一時的な嚥下困難が見られたが、これらは自然に改善した。
手術療法
輪状咽頭筋切開術(cricopharyngeal myotomy):
永続的な効果を目指すが、侵襲が高い。
経過と予後
保存療法で症状が改善する例もあるが、症状が慢性化する場合もある。
ボツリヌス毒素注射は多くの患者で短期的な症状改善をもたらすが、再発も一定程度みられる。
手術療法は長期的改善が期待されるが、患者の負担が大きい。
注意すべき点
放置すると患者のQOLが著しく低下する可能性がある。
精神的要因の評価も重要(症状の一部がストレス関連で悪化することがある)。