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DtoC SUMMIT 2020で語られた、D2Cの成功エッセンス10カ条

D2Cとは何か?

というテーマがなぜここまで語れるのかというと、「D2Cっぽいビジネス」に名前をつけるときに「Direct to Consumer」であることだけを切り取ってD2C(DtoC, DTC)としたネーミングセンスの悪さが原因だと思います。

まあそこを切り取らざるを得なかったのかなと思いますが、もっと端的に表す言葉があっても良いんじゃないかと思いますし、もっと言うと、呼び名は何でもいいしどうでも良いのです。

D2Cとは、誤解を恐れずに、めちゃくちゃ平たく言うと

消費者に人気がある最近のブランド

のことです。

あまりにも平たく言いすぎて、D2C界隈の怒りの声が聞こえてきそうですね。。。

肝心なのは、D2Cと呼ばれるビジネスは、人気の理由が似通ってると言う点です。そしてその理由には、一定の再現性がありそうだと言う点です。

D2Cは一言で説明できない

D2CはDirect to Consumerの略なので「消費者とダイレクト」としか言ってませんね。一言で説明できている範囲は以上です。

消費者とダイレクトだから、人気あるんでしょうか?

答えはもちろんNoで、だからD2Cという「言葉」はそのビジネスの本質をほとんど何も説明できてないわけですね。

何かを言っているようで、何も言ってないのが「D2C」と言う「言葉」なので、みなさんこれに惑わされてはいけません。ここに惑わされるから、「D2Cとは?」が議論になるのですが、D2Cとは何かを議論しても何も生まれないのです。

怖いですね。

「D2Cとは何か?」
ではなく、
「人気D2Cはなんで人気なのか?」

分析・議論し、再現性のある手法を見つけて実行することで自分のビジネスを発展させることに意味があります。

D2Cはグラデーション。「っぽい」かどうか

D2Cとは何か?に明確な定義があるとすると、「●●(会社名・ブランド名・ECサイト名など)はD2Cか?」という問いにYesかNoで答えられると思うのですが、実際にはなかなか答えるのが難しいのではないでしょうか?

D2Cには(D2Cの人気には)、複数の要素が絡み合っています。その要素を多く兼ね備えていると、「D2Cっぽさ」が強くなり、要素が少ないと「D2Cっぽさ」が弱くなります。

D2Cはグラデーションであり、ぽさの強弱があるのが特徴です。

BULK HOMMEはD2Cだ!」と言う人と、
「BULK HOMMEはD2Cじゃない!」と言う人がいます。

当のブランドはそんなことはどっちでも良いと思っているでしょうし、その顧客も、自分が使っている洗顔料のブランドがD2Cかそうじゃないかとかは誰も1ミリも意識していません。

D2Cっぽさの要素10選

では、D2Cの要素とはどんなものでしょうか?

本場アメリカでは、VMLY&Rが提唱する「D2C DNA」というものがありますが、これは成功しているD2Cの23の特徴を「DNA」という表現でまとめたもです。

日本では、私たちが開催したDtoC SUMMIT 2020で主に日本国内のD2C事例を取り上げてD2C成功のエッセンスを議論しました。そのエッセンスを10カ条にまとめているので紹介します。

01:熱い思い 〜強い「理念」のあるプロダクト〜

ほとんど全てのD2Cブランドが、プロダクトに強い「理念」を込めています。

ブランドが生まれた背景や目指している世界観はほぼ100%言語化され、ECサイトのグローバルナビゲーションの一等地を占有しています。

今の成熟した消費者は、必要なものは満たされてるので、「何をしたいブランドなのか」で買うものを選べる心の余裕があります。そこに理由を与えるための「理念」が作り込まれてることが多いです。

02:お客様 〜顧客との共創〜

オールユアーズが顧客を「共犯者」と呼んでいるように、プロダクトや体験はブランドが作って提供するだけのものではなく、「お客さんと共創している」と言えるケースが多く出てきています。

顧客コミュニティを作り、活性化させることもそうで、そこに参加することがブランドの重要な体験の一部になっています。

03:グローバル 〜グローバル前提のブランド設計〜

インターネットでモノを売っている時点で、すでに本質的にはグローバルビジネスです。言語の壁や市場の特性の違いはもちろんありますが、サイトにアクセスしてカートに入れて決済するのは、世界中どこにいてもインターネット接続されていればできることなので。

昭和の時代にMade in Japanが世界を席巻しましたが、D2Cのフレームワークに乗せれば、小さなローカルブランドもグローバルの顧客と直接ビジネスができるわけで、それをしない理由がありません。

DtoC SUMMITでは、そのことを

Direct from Japan

というテーマで提言しました。日本のD2Cブランドはもっと世界にチャレンジするべきです。(アメリカのD2Cブランドはそもそも日本のSPAを参考にして生まれたという話もありますね)

04:臨機応変 〜スピードと柔軟性〜

社会とか消費者の変化が早い、変化量が大きい時代なので、ビジネスもスピードと柔軟性を持って変化していくことが求められます。

コロナ禍では「ピボット」という言葉が多く使われ始めました。

従来の巨大化したメーカー・ブランドではなかなか大胆でスピーディーな変化を実現するのが難しいケースがあると思いますが、D2Cはデジタル技術に長けている背景もあり、柔軟に変化して市場にフィットさせているケースが多くあると思います。

それは新しいプロダクト開発であったり、クリエイティブメッセージであったり、いろいろな場面で日々柔軟な変化で消費者とフィットし続けています。

05:シンプル 〜シンプルで迷いのないサービス設計〜

日本のD2CではシャンプーのMEDULLAやサプリのFUJIMIなど代表に、「パーソナライズ」「カスタマイズ」が流行していますね。

「選ぶ」複雑さを顧客から取り上げて、代わりに(アンケート等のデータインプットから最適な処方を自動的に算出して)プロダクトを選んであげる。思考のショートカットをして購入をシンプルにしてあげています。

アメリカのD2Cでは一世を風靡したCasperは1点のマットレスで全ての睡眠の悩みを解決しようとしました。私はマットレスを買ったことがないのでその億劫さは共感できないのですが、アメリカ人がマットレスを買う体験は非常に複雑でストレスフルだったそうで、それをシンプルにまとめあげたD2Cはその後ユニコーン企業となりました。(上場後時価総額を下げてますがその話はまた別途)

06:ストーリー 〜スペックや機能ではなく共感を売る〜

ストーリーや世界観を売る、というのもD2Cの説明でよく使われるエッセンスですね。

01の理念とも密接に関わるものですが、顧客が共感できるストーリーを持っていることは、D2Cが支持される大きな理由になります。

支持される理由と合わせてもう1つ重要なのは、買ったことを嬉しく感じて、シェアする理由にもなりやすいですね。

07:誠実・信頼 〜顧客を信頼する。オープンに情報発信〜

真面目で愚直で不器用なブランドと、不真面目だけどアドテクを駆使してマーケティングに長けたブランドでは、後者の方がビジネスは成長します。

「粗悪品を誇大広告で売り付けて定期に強制加入させて解約を受け付けない」みたいな商売が、程度の差はあれ世の中に溢れてしまった。行政に怒られない「程度」にそれをやるブランドに負けて、顧客に誠実なブランドが淘汰されるのは悲しいことです。

正直であること、顧客を信頼すること。それを示すために赤裸々と思えるほとどにオープンに情報発信することが特徴となっているD2Cがあります。

アメリカのEverlaneが商品ページで原価構成を開示しているのがもっとも有名な事例だと思いますが、日本のD2Cでも同じように原価開示しているところがいくつも出てきています。

そのようなブランドに対して、顧客は「正当な利益を正当に支払いたい」と考えるようになります。

08:コラボレーション

スピーディーで柔軟な変化という点では、他の業種業界と積極的にコラボレーションするのもD2Cの特徴としてよく見られます。

タレントやインフルエンサーとプロダクトの共同開発してヒットが生まれるケースが日本でも出てきました。

チョコレート×納豆みたいな不思議な異業種コラボレーションも^^

流通形態がDirect to Consumerであることにさえも拘らず、顧客にとって利便性が高くなるなら別に小売チェーンと組むことも何も問題ないと考えているのが逆説的ですがD2Cな人たちです。

09:データ活用 〜行動データをマーケ&プロダクト&CSに活用〜

データ活用もD2Cの特徴としてよく語られます。

「データドリブン・マーケティング」という言葉が少し前に流行したと思いますが、D2Cの活用領域はマーケティングに限らないのが特徴で、特に「プロダクト」と「CS」にデータ活用するケースが多いです。

データドリブン・マーケティングは、データやテクノロジーを「ターゲティングの精緻化」のために使う
D2Cのデータ活用は、顧客データを「提供価値の最適化・最大化」のために使う

と理解するのが収まりが良さそうです。

どんなデータをどうやって集めて、どう分析・活用するかについては、あまり体系的にまとまった議論がなさそうなので、この領域は我々も一番注力して研究している課題です。

10:ソーシャルグッド 〜事業モデルそのものが社会貢献〜

DtoC SUMMIT 2020でも力を入れてセッションを作ったのが「ソーシャルグッド」のテーマでした。

「社会貢献」と「事業収益」は別物で、儲かった企業が社会的責任としてボランティア的に実践するものだと考えられていた時代がありました。「CSR:Corporate Social Responsibility」と呼ばれる考え方がそれです。

しかし現在、D2Cブランドが実践するソーシャルグッドな取り組みは儲けの先ではなく、儲けの前にあります。

本業の事業モデル自体にソーシャルグッドが組み込まれていて、そのこと自体が「選ばれる理由」になっているのです。

バズワード「D2C」

これまでDtoC SUMMITで語られたD2Cのエッセンスを10種類紹介してきましたが、これが全てでもないと思いますし解釈の違いもいろいろあると思います。

日経新聞の本紙でもD2C特集が組まれたりと、今や「D2C」はまさにバズワードになりました。定義や解釈が曖昧だからこそ、いろんな人がいろんなポジションで「D2C」を語ります。

繰り返しになりますが、定義に踊らされることなく、成長しているD2Cブランドのエッセンスを分析し、自社に応用することが重要です。

D2C≠儲かってる

これだけD2Cがバズワードになっている現状ですが、儲かっているD2Cは実はほとんどないと思います。

アメリカではユニコーン企業が複数生まれましたが、Casper始め時価総額は半分近く落ちており、明らかに投資先行で加熱しすぎた揺り戻しがきています。当のCasperはこれまで黒字化したことがなく、今後も黒字化の見込みは立っていないといいます。

日本でも同様に、調達ありきで黒字化に苦労しているD2Cも散見されますし、ユニットエコノミクスを成立させて黒字化しているところはスケールに苦労しています。大きく儲かっているところはなかなかないのではないかと思います。

ユニクロの柳井さんが

「顧客が欲しいものをそう簡単にできるわけはない。完全に趣味の商売だ」とする。大規模なビジネスには育たず売上高は200億~300億円が限界とみて、現状では自社の脅威と位置づけていない。

と発言したという日経の記事がありましたが、まさにそうだなと思います。D2Cは少し前まではそれこそユニコーン企業のような大規模なビジネスを生み出すフレームワークと思われていたところがあるかもしれませんが、200〜300億という世界もなかなか生まれにくい現状です。D2Cを出発点に10億20億のプロダクトを複数育てていくのが拡大の基本戦略になっていくでしょう。

大規模なビジネスを生み出すよりも、比較的小規模なブランドを誰でも立ち上げることができるようになったと見る方が現状にフィットしています。

D2Cのこれから

今D2Cは新しいステージに入っていると思います。今後、通販だけに限らず、あらゆるコンシューマービジネスにとって、生き残るためにD2C的エッセンスが必要になってくると思います。

コロナ禍での消費者心理の変化も、この風潮を押し進めていると見ています。社会に貢献することが企業に対してこれまで以上にはっきりと求められるようになってきていますし、不安定な情勢の中でより誠実な態度が求められているからです。

私たちも、引き続きD2Cの成功のエッセンス、消費者との関係を研究・分析して世の中に発信していくことで、より良い消費社会を作る一助となっていきたいと思います。

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