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災害と人々のその後を考えるブックガイド

世界各地で災害が頻発する昨今。

50年前、アメリカのある炭鉱町を襲った洪水による被災者の心の変化に、社会学の視点から迫った、夕書房8冊目の単行本『そこにすべてがあった——バッファロー・クリーク洪水と集合的トラウマの社会学』(カイ・T・エリクソン著)には、現代日本に暮らす私たちにもつながるテーマが散りばめられています。

刊行を記念し、本書が描き出すテーマを、訳者で災害研究者の宮前良平さん(大阪大学大学院人間科学研究科)、大門大朗さん(京都大学防災研究所特別研究員)、高原耕平さん(人と防災未来センター主任研究員)と編集担当の高松夕佳(夕書房)が選書の形で表現しました。

現在、茨城県つくば市の「ACADEMIAイーアスつくば店」、東京都豊島区の「ジュンク堂書店池袋本店」4F人文書フロアでフェアを開催中です!

東日本大震災から10年。
ぜひあわせてお読みいただき、今なお続く苦しみの理由を知り、記憶を受け継ぐ一助にしていただけたら幸いです。

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◉心の傷を聴く

『環状島=トラウマの地政学(新装版)』宮地尚子著 みすず書房

出来事の当事者であればより多くのことを語ることができる――このような素朴な考え方はときに通用しない。凄惨な出来事の渦中で苦しみトラウマを負った人は、むしろ、その当事者性ゆえに語ることができない。トラウマと語りの構造を「環状島」のメタファーで描き直した画期的な著作。(宮前)

『環状島へようこそ トラウマのポリフォニー』宮地尚子著 日本評論社

『新増補版 心の傷を癒すということ——大災害と心のケア』安克昌著 作品社

阪神・淡路大震災では、日本でほぼ初めて「心のケア」「トラウマ」といった言葉が多用された。当時神戸大学医学部の精神科医だった著者は、被災地で診療を続けならひとつずつことばを探し、「心のケア」とは他者の苦しみを社会全体で「慎み深さ」を持って受け止めることではないか、と問いかける。(高原)

『みな、やっとの思いで坂をのぼる——水俣病患者相談のいま』永野三智著 ころから

1956年に水俣病が公式確認されてから60年以上経つが、水俣病は過去の病気ではない。水俣病患者さんのための相談業務に携わる永野さんは、本書の中で小説家石牟礼道子さんの「悶え加勢」という言葉を引用する。患者さんのために何ができるのだろうかと悶えることが、患者さんをほんの少し励ますことがあるという意味だ。当事者/非当事者の関係性が問い直されていく。(宮前)

『波』ソナーリ・デラニヤガラ著 佐藤澄子訳 新潮クレスト・ブックス

2004年インド洋大津波に飲み込まれ、家族を失いながらも生き残った女性の手記。本書で語られる言葉は、ときおりよどみ、とぎれ、それでもなお紡がれていく。トラウマを客観的な言葉ではなく、当事者の言葉として描き出した稀有な書籍である。(宮前)

『黒い海の記憶——いま、死者の語りを聞くこと』 山形孝夫著 岩波書店

『ヒロシマを生き抜く(上下)』R. J. リフトン著 岩波現代文庫

『新版 つぶやきの政治思想』李静和著 岩波現代文庫

『対象喪失 悲しむということ』小此木啓吾著 中公新書

『傷ついた物語の語り手 身体・病い・倫理』アーサー・フランク著 ゆみる出版

◉忘れられたコミュニティとコミュナリティ

『忘れられた日本人』宮本常一著 岩波文庫

『ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡』大西 暢夫写真・文 彩流社

『物言わぬ農民』大牟羅良著 岩波新書

『山熊田』亀山亮写真 夕書房

熊を狩り、山菜を採り、山を焼いて作物を植える。新潟県村上市の奥、山熊田集落で今も続く暮らしは、炭鉱がやってくる前のバッファロー・クリークの暮らしを思わせる。生と死の手触りを身近に感じながらの生活だからこそ、人々の結びつきは強く濃厚で、自然と人間が一体となったあたたかみがある。(高松)

『遠野物語』柳田國男著 新潮文庫

岩手県遠野地方に伝わる伝承の数々を民俗学者である柳田國男がまとめた一冊。『そこにすべてがあった』でアパラチアの文化が詳細に述べられるのと同様に、東日本大震災について理解しようとしたときに本書は外せないだろう。(宮前)

『静かな大地 松浦武四郎とアイヌ民族』花崎皐平著 岩波現代文庫

◉日本の炭鉱

『〈つながり〉の戦後史 尺別炭砿閉山とその後のドキュメント』嶋﨑 尚子ほか著 青弓社

本書の舞台となる尺別炭鉱は1970年に閉山し、住民のほとんどすべてにあたる約4000人が尺別を去った。しかし、かれらは移住先でも尺別の〈つながり〉を維持し続けた。災害による集合的トラウマを経験したバッファロー・クリークと様々な点で比較しながら読むとおもしろい。(宮前)

『炭鉱』本橋成一写真 海鳥社

九州の筑豊や北海道など、戦後の経済成長とエネルギー革命の裏で取り残された日本の炭鉱街を、数年にわたり撮影した傑作ドキュメンタリー。必要なときには絞り取り、不要になれば捨て去られる炭鉱の街とそこに生きる人々の様子は、そのままバッファロー・クリークに、そして福島などにも重なってくる。(高松)

『地の底の笑い話』上野英信著 岩波新書

『新装版 画文集 炭鉱に生きる 血の底の人生記録』山本作兵衛著 講談社

◉社会構造のねじれ

『チッソは私であった——水俣病の思想』緒方正人著 河出文庫

水俣病に苦しみ、企業と戦い続けた著者がたどり着いたのは、自らにも存在する一抹の加害性―チッソは私―であった。石炭、塩化ビニル、安定的な電力……この社会の中で恩恵を得ている私たちの加害性を見つめ直すための一冊。(大門)

『犠牲のシステム 福島・沖縄』高橋哲哉著 集英社新書

私たちの日常は誰かの犠牲のもとに成り立っている。そして、さらに根深いことに犠牲を強いられている人たちの声は黙殺されている。現代日本の構造を「犠牲のシステム」として描き出し、福島や沖縄とともに生きることの意味を考え直す。(宮前)

『「フクシマ」論——原子力ムラはなぜ生まれたのか』開沼博 著 青土社

◉自然災害とともに生きる

『天災と日本人——地震・洪水・噴火の民俗学』畑中章宏著 ちくま新書

『まっぷたつの風景』 畠山直哉著・写真 赤々舎

◉記憶の継承 語り継ぐこと

『家をせおって歩いた』村上慧著 夕書房

発泡スチロールで作った小さな白い家を背負い、徒歩で移動しながら生活した美術家の一年間は、3.11後の生き方をそれぞれに模索する人々との出会いであふれていた。自らの足で歩き、目と耳で得た生の情報を、歩きながら身体で咀嚼していくその行為は、記憶を正しく伝える基礎体力を養うレッスンにも思える。(高松)

『二重のまち/交代地のうた』瀬尾夏美著 書肆侃侃房

本書は東日本大震災後の文学的試みの決定版ともいえる深さを持っている。復興によってできた盛り土のしたにある「ふるさと」は見えなくてもきっとある。本書でやわらかく語られることばは、集合的トラウマからの回復を示唆しているようでもある。(宮前)

『津波のあいだ、生きられた村』饗庭伸ほか著 鹿島出版会

『南三陸から Vol.5 2011.3.11-2017.3.3』佐藤信一著 日本文芸社

『ラディカル・オーラル・ヒストリー』 保苅実著 岩波書店

『空襲と文学[新装版]』ゼーバルト著 白水社 9/17刊行予定

『水俣へ 受け継いで語る』水俣フォーラム編 岩波書店

◉証言・記録に残すこと

『チェルノブイリの祈り』スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ著 岩波現代文庫

『災害がほんとうに襲ったとき 阪神淡路大震災50日間の記録』中井久夫著 みすず書房

『3.11慟哭の記録』金菱清編 新曜社

『津波、写真、それから』高橋宗正著 赤々舎

◉再生へ

『公害から福島を考える——地域の再生をめざして』除本理史著 岩波書店

『その後の福島 原発事故後を生きる人々』吉田千亜著 人文書院

◉書店様へ

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