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マイ・フェイバリット・ソングス 第36回~ポール・マッカートニー

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『McCartney』(1970年)

ビートルズ分裂のショックでスコットランドの農場に引きこもったポールが、妻リンダに支えられながら作った初のソロアルバム。全楽器自身で演奏しています。(コーラスのみリンダが参加) 当時は酷評だったそうです。まあ、分からなくはないですよね。13曲中インストゥルメンタルが5曲だし、演奏もかなりラフな感じなので。あの美しく完璧な『Abbey Road』の次がこれだったらさすがに肩透かしをくらいますよね。でも、プライベートっぽい感じがこのアルバムの良さではないでしょうか。リンダに捧げた人気曲「Maybe I’m Amazed」がクライマックスを飾っています。僕は「Junk」のノスタルジックなメロディが大好きです。


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『RAM』Paul & Linda McCartney(1971年)

ポールのソロワークだと僕はこのアルバムが一番好きです。今度はちゃんとセッション・ミュージシャンたちを集め、オーケストラも取り入れ、大掛かりなオーバーダブも行っています。前作のラフさは欠片もなく、曲・演奏とも超一級。全英1位・全米2位。「Too Many People」も「Ram On」も「Dear Boy」も「Uncle Albert/Admiral Halsey」も「Heart of the Country」も「Eat at Home」も大好きです。特に「Dear Boy」の多重コーラスのカッコよさにはクラクラきてしまいますね。冒頭の3曲「Too Many People」「3 Legs」「Ram On」はいずれもジョン・レノンとオノ・ヨーコをあてこすった歌詞だと言われています。雑誌インタビューなどでさんざんポールを挑発してきたジョンへの反撃ですね。これを受けてさらにジョンは「How Do You Sleep?」で再反撃したり、『RAM』のパロディ写真(ジョンが豚の耳を押さえつけている)をアルバムに添付したりしてきます。僕はこの二人は本気で憎み合っているわけじゃなく、世界中を巻き込んで遊んでるんじゃないかって気もするんですけどね。お互いの才能を認め合っていないわけはないし、ジョンは「ポールの悪口を言っていいのは俺だけだ。他のやつが言うのは許さない」とも発言してるので。ともあれこのアルバムはポールのソロとしては最高傑作じゃないかと僕は思います。全体を通して聴いたときの展開も素晴らしいです。


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『Wild Life』Wings(1971年)

妻リンダを含む4人編成のバンド「Wings」を結成しての第一弾。2週間ほどの期間にライブ形式の一発録音で作ったというこのアルバムは、またしてもそのラフな仕上がりを酷評されたそうです。たしかに完璧主義者であるはずのポールが何故『McCartney』や『Wild Life』のような粗削りな作品をリリースしたのか不思議ですよね。「Yesterday」と同じコード進行を持つ「Tomorrow」なんて曲も入っています。ジョン・レノンとのいわゆる「ソング・ウォー」に飽き飽きしてきたのか、仲直りを望むような「Dear Friends」という曲も収録しています。ジョンもこのアルバムに対しては好意的なコメントをしていたみたいですね。ここから8年くらいはウイングスとしての活動が続きます。


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『Red Rose Speedway』Paul McCartney & Wings(1973年)

新たにギタリストを一人加え5人編成に。即興的な前作とは対照的に一曲ずつじっくりと作りこみながら完成させたアルバム。このアルバムではやはりリンダに捧げたラブバラード「My Love」ですね。僕はポールのソロワークだとこの曲が一番好きかなあ。ビートルズ時代も含めポールの作ったラブソングでは最高傑作じゃないかと思います。当時ポールを酷評しまくっていた評論家たちもこの曲には称賛を送ったそう。最後は4つの曲で構成される11分のメドレー。ポールの得意技ですね。


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『Band on the Run』Paul McCartney & Wings(1973年)

ナイジェリアのラゴスでレコーディングすることにしたら、出発前日にメンバーの二人がラゴス入りを拒否して離脱。結局3人(ポールとリンダとデニー・レイン)で作ることになり、ほとんどの楽器をポールが演奏しています。ジャケットに多くの人が写っているので「ウイングスってこんなにいたの?」と誤解されがちですが、ジャケ写の人の多くは俳優さんで、この時のウイングスはたった3人です。そしてこのアルバムはウイングスの最高傑作と呼ばれている名盤ですね。冒頭の表題曲「Band on the Run」は3部構成から成るポールの代表作。『レコードコレクターズ』誌の「ポール・マッカートニー・ベスト・ソングス100」の投票結果ではこの曲が2位でした。続く「Jet」はポール流ハードロックといった雰囲気の人気曲。他にもヘヴィなギターが印象的な「Let Me Roll It」や壮大なオーケストラの「Nineteen Hundred and Eighty Five」など名曲揃い。「Mrs Vandebilt」もインパクトがあっていいですね。全英1位、全米1位、グラミー賞4部門獲得。ジョン・レノンも絶賛したと言われています。


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『Venus and Mars』Wings (1975年)

新メンバーを迎え入れ再び5人体制に。ライブを意識した楽曲群ですね。ポールお得意のメドレー形式で繋ぐアイデアも光っています。僕は特に幕開け「Venus And Mars」から「Rock Show」の流れと、クライマックス「Listen to What the Man Said」から「Treat Her Gently/Lonely Old People」の流れが好きです。ビートルズを彷彿とさせるジャズ風アレンジの「You Gave Me The Answer」もいいですね。「Spirits of Ancient Egypt」はデニー・レインがボーカルを、「Medicine Jar」はジミー・マッカロクが作曲とボーカルを担当しています。


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『Wings at the Speed of Sound』Wings(1976年)

バンドとしての個性を出すため、ポール以外のメンバーも全員メインボーカルをとっています。「The Note You Never Wrote」と「Time to Hide」がデニー・レイン、「Wino Junko」がジミー・マッカロク、「Cook of the House」がリンダ・マッカートニー、「Must Do Something About It」がジョー・イングリッシュ。故にポールは6曲しか歌っていないんですが、「Let 'em In」「Silly Love Songs」「Warm and Beautiful」といった名曲が収録されています。特にウィングス最大のヒットを記録した「Silly Love Songs」は素晴らしいですね。対位法が使われていて、クライマックスでは3つの異なった旋律が見事に絡み合います。ベースも素晴らしい。76年のビルボードで年間1位となったことで、「I Want To Hold Your Hand」「Hey Jude」に加えて一人のアーティストが二つの名義で年間1位を獲得した初めての例になり、いまだに破られていないとのこと。「ポール・マッカートニー・ベスト・ソングス100」ではこの曲が3位でした。


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『London Town』Wings(1978年)

レコーディング中にメンバー2名が脱退。リンダはほぼ産休状態。というわけで、ほぼポールとデニー・レインで作ったアルバムですね。故にデニー・レイン色が最も強く、トラッド調の曲が多めです。ポールがマイケル・ジャクソンに提供するために作り、「Off The Wall」に収録された「Girlfriend」も入っています。この曲、ポールはマイケルを意識してファルセットで歌っていますね。


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『Back to the Egg』Wings(1979年)

新メンバーが2名加入し5人体制になるも、これがウイングスのラストアルバムとなりました。僕はウイングス名義のアルバムだと『Band on the Run』とこれが特に好きですね。力強く華やかなアルバム。「Getting Closer」とかカッコよくて大好きです。特筆すべきは、有名ロックスターを集結させてオーケストラを編成する「ロケストラ」という構想を実現させた「Rockestra Theme」と「So Glad To See You Here」。この二曲はデヴィッド・ギルモア(ピンクフロイド)、ピート・タウンゼント(ザ・フー)、ジョン・ポール・ジョーンズとジョン・ボーナム(レッドツェッペリン)などが集結し、20名以上の大編成でレコーディングしたとのことです。この2曲すごくカッコいいですね。


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『McCartney Ⅱ』(1980年)

なぜ今さら「Ⅱ」なのかというと、ポール・マッカートニー単独名義のアルバムとしては『McCartney』以来これで2枚目なんですよね。『RAM』はリンダとの共同名義だったし、そのあとはウイングスだったので。というわけで、久々の純粋なソロ。これはテクノ・ポップを取り入れたかなりの異色作です。最初は抵抗があったけど、聴いてるうちにポール流のテクノも悪くないなあと思うようになってきましたね。「Front Parlour」とかけっこう好きなんですよね。「Frozen Jap」は当時イギリスで売れていた日本のYMOの影響を受けた曲とのことです。


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『Tug of War』(1982年)

レコーディングに取り掛かった矢先の1980年12月8日にジョン・レノンが射殺されます。あまりの衝撃に耐えられずレコーディングは中断。ポールはしばらく自宅に引きこもったといいます。制作が再開されたのは翌年の2月から。プロデューサーはビートルズ以来のジョージ・マーティン。カール・パーキンス、スティーヴィー・ワンダー、スティーヴ・ガッドなどの一流ミュージシャンからリンゴ・スターまで参加してのセッションとなりました。トータル・コンセプトは「対立構造」。憧れのカール・パーキンスと共演した「Get It」やスティ―ヴィー・ワンダーと共作した「What’s That You’re Doing?」「Ebony and Ivory」など聴きどころがたくさんあります。「Ebony and Ivory」は2人の才能が結集し合った素晴らしい名曲ですね。大好きです。美しいコーラスとホーンセクションが印象的で、スティーヴ・ガッドとリンゴ・スターがツインドラムを奏でる「Take It Away」も好きですね。そして、ジョン・レノンへの追悼曲「Here Today」は涙なしには聴けません。ライヴでは毎回「ジョンに捧げます」と言ってから歌い出します。ちなみにジョンが亡くなったとき、オノ・ヨーコはポールに電話をかけ「ジョンはあなたのことがほんとうに好きだったのよ」と伝えたそうです。ジョンは射殺される直前の取材で「人生のうちで2回、すばらしい選択をした。ポールとヨーコだ。それはとてもよい選択だった」と述べていたそうです。


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『Pipes of Peace』(1983年)

タイトルが示しているように前作『Tug of War』と対になったアルバム。前作は「黒と白」「上と下」「男と女」などの対立構造について歌っていたのに対し、本作はそれにこたえる形で平和や愛を歌っています。平和をテーマにした表題曲「Pipes of Peace」大好きですね。そして前作のハイライトがスティーヴィー・ワンダーとの共演だったのに対し、本作ではマイケル・ジャクソンとの共演。「Say Say Say」と「The Man」を共作しています。「Say Say Say」はそれぞれ自分が歌うフレーズの部分を作っているのがよく分かりますよね。互いの個性が出まくっています。そして、そのお返しとしてポールはマイケルの作品「The Girl Is Mine」(『Thriller』収録)で共演するんですよね。


『GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET』(1984年)

ポール主演映画のサントラ盤。スタジオ盤としては初めてビートルズの曲をセルフカバーしています。「Good Day Sunshine」「Yesterday」「Here,There and Everywhere」「For No One」「Eleanor Rigby」「The Long And Winding Road」の6曲。改めて素晴らしい楽曲群ですね。参加ゲストも豪華で、リンゴ・スター、デヴィッド・ギルモア(ピンクフロイド)、ジョン・ポール・ジョーンズ(レッドツェッペリン)、スティ―ヴ・ルカサー(TOTO)、スティーヴ・ポーカロ(TOTO)など。新曲として冒頭を飾る「No More Lonely Nights」いい曲ですよね。この曲がリリースされた頃僕は12歳くらいだけど、リアルタイムで流れていたのをよく覚えています。


『Press To Play』(1986年)

ポリスやジェネシスを手掛けていたヒュー・パジャムを共同プロデューサーとして、元10ccのエリック・スチュワートを共同作曲者として迎えて制作されたアルバム。この頃のポールはやや迷走ぎみですね。時代の波に乗ろうして、うまく個性を活かせなくなっているというか。これもやたらリズムを強調している異色作で、ポール自身も後に「失敗作」と認めているようです。僕も取り立てて好きな曲はないかなあ。


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『All The Best!』(1987年)

ベスト盤。ポールのソロって、これから新たに聴いてみようかなという人にはけっこうハードルが高いんですよね。枚数が多すぎて、どれから聴き始めたらいいのか・・・となりがち。そんな方はまずこれを聴いてみて間違いないと思います。ウイングス時代も含めてポールの代表曲はきっちり抑えられているし、CD1枚にまとまっているのでお手軽。またこれまでのアルバムに未収録だった曲も入っているので、アルバム単位で聴いている人にとっても外せない1枚ではないでしょうか。未収録曲は「C Moon」「Live And Let Die」「Another Day」「Once Upon A Long Ago」(新曲)「We All Stand Together」「Mull of Kintyre」ですね。僕は映画007の主題歌「Live And Let Die」大好きですね。「ポール・マッカートニー・ベスト・ソングス100」では、ポール初のソロシングル「Another Day」が1位でした。


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『CHOBA B CCCR』(1988年)

ソ連限定でリリースされたロック・スタンダードのカバーアルバム。原点回帰ですね。ところで80年代のアルバムを聴き直していてふと思ったんですが、『Pipes of Peace』で平和をテーマにし、『Press To Play』で奥さんとのアップのツーショットをジャケットに使い、『CHOBA B CCCR』で古いロックをカバーして・・・って、ジョン・レノンが「Imagine」や『Double Fantasy』や『Rock ‘n’ Roll』でやっていたことと似ていますよね。ジョン亡きあと彼の足跡を踏襲するかのように。少なからずジョンを意識してのことじゃないかという気がします。このアルバムはジョンの『Rock ‘n’ Roll』と聴き比べてみるのも面白いです。ファッツ・ドミノの「Ain’t That A Shame」は二人ともカバーしていますね。


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『Flowers In The Dirt』(1989年)

エルヴィス・コステロとの共作曲が入っています。「My Brave Face」「You Want Her Too」「Don't Be Careless Love」「That Day Is Done」の4曲。どれも分かりやすいほどコステロ色が出てますね。(この時期に2人で共作した「Veronica」という曲がエルヴィス・コステロの『Spike』というアルバムに入っていますが名曲です)曲ごとにプロデューサーを変えるという試みで、幅広いサウンドになっているのも特徴的ですね。


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『Off the Ground』(1993年)

このアルバム、僕はけっこう好きです。時代のサウンドとポールの個性がしっかり噛み合ってきたという感じがします。無理に時代に合わせようという感じが薄れてすごく自然に聴こえるんですよね。これもエルヴィス・コステロとの共作が2曲。「Mistress and Maid」と「The Lovers That Never Were」。僕は特に「Off the Ground」「Hope of Deliverance」「Mistress and Maid」が好きです。環境や動物の保護を訴えるメッセージ性の強い歌詞が多いですね。


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『Flaming Pie』(1997年)

このアルバムの前にポールはビートルズの<アンソロジー・プロジェクト>を手掛けています。そこで過去の作品を振り返ったからか、このアルバムは最もビートルズ色が強い作品になっていますね。アコースティックギターがメインの曲が多い。アンソロジーで知り合ったジェフ・リンを共同プロデューサーに迎え、ジョージ・マーティンやリンゴ・スターも参加。ファンの間では根強い人気のアルバムですよね。僕は「The Song We’re Singing」と「Calico Skies」が好きです。


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『Run Devil Run』(1999年)

ロックンロールのカバーアルバム。前作リリース後に妻リンダが乳がんで死去し、ポールは一年間泣き暮らしたといいます。その後まず取り掛かったのが、リンダの生前の提案によるこのアルバムだったそうです。古いロックのカバーが中心だけど、ポールのオリジナル新曲も3曲入っています。「Run Devil Run」「Try Not to Cry」「What It Is」。カバー曲はあえてあまり有名じゃないマイナーな曲が選ばれています。ラリー・ウィリアムズの「She Said Yeah」とオリジナルの「Run Devil Run」カッコいいですね。


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『Driving Rain』(2001年)

リンダへの思いを歌った「Lonely Road」「Magic」「About You」etc.と、新恋人ヘザー・ミルズに捧げる「From A Lover To A Friend」「Driving Rain」「Heather」「Your Loving Flame」が同居しているので、なんとも複雑な気持ちになるアルバムですね。しかも後に結婚するも4年後に泥沼離婚劇を繰り広げることになる悪名高きヘザーへの曲をどんな気持ちで聴いたらいいのか・・・という。「Spinning On An Axis」と「Back In The Sunshine Again」は息子ジェイムズとの共作。ラストにはアメリカ同時多発テロ事件を受けて急遽作られた「Freedom」(ギターはエリック・クラプトン)が収録。残念ながらセールス的には最も低調なアルバムとなりました。僕はリンダを失った悲しみを赤裸々に歌う「Lonely Road」と、ほぼインストゥルメンタルで最後に少しボーカルが加わる「Heather」が好きです。


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『Chaos and Creation in the Backyard』(2005年)

レディオヘッドを手掛けるナイジェル・ゴドリッチをプロデューサーに迎え、全楽器をポール1人で演奏したアルバム。『McCartney』や『McCartneyⅡ』と似た方針ですね。2020年に満を持して『McCartneyⅢ』がリリースされますが、実質的にはこのアルバムが『Ⅲ』だったんじゃないかという気もします。前衛的な要素とビートルズ風の懐かしい感じが絶妙なバランスで取り込まれていますね。この時期のポールの曲ってあまり注目されていないけど、「Jenny Wren」や「English Tea」なんかはすごい名曲だと思いますよ。僕は大好きです。


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『Memory Almost Full』(2007年)

「自分史」をテーマにしたアルバムで後半はお得意のメドレーになっています。65歳とは思えないほど歌声も演奏も力強い。しかもまだまだ新たな試みを続けています。冒頭の「Dance Tonight」では初めてマンドリンに挑戦したり、「Mr. Bellamy」なんかもかなり実験的な作風です。「Only Mama Knows」のような激しいロックも演ってくれています。僕はこの3曲が特に好き。アルバムタイトルは「For my soulmate L.L.M」(わがソウルメイトLinda Louise McCartney=元妻リンダ)のアナグラムではないかと話題になりました。また収録曲「Mr. Bellamy」も「Mills Betray Me(ミルズが僕を裏切る)」のアナグラムではないかと。離婚裁判中の妻、ヘザー・ミルズのことですね。


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『Kisses on the Bottom』(2012年)

またまた新たな挑戦。今度はなんとジャズ・スタンダードのカバーという。しかもマルチプレイヤーのポールが今回はボーカルのみに徹しています。囁くような素晴らしい歌声。オリジナルも二曲収録されています。まず「My Valentine」は三人目の妻、ナンシー・シェベルに捧げた曲で、エリック・クラプトンが見事なギターを弾いています。もう一曲ラストを飾る「Only Our Hearts」はスティーヴィー・ワンダーがハーモニカで参加し、これまた素晴らしい演奏を聴かせてくれます。いずれもオリジナル曲なのに、スタンダードナンバーにしっかり溶けこんでいますね。


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『NEW』(2013年)

4人の若きプロデューサーを起用したバラエティに富んだ楽曲群。これは僕にとって特に思い入れのあるアルバムです。というのは、リリース直後の東京ドーム公演に行ったので、その頃ヘビロテしていたから。しかもこのアルバムで僕が最も好きな4曲をライブで演ってくれたんです。スピード感のあるロックナンバー「Save Us」・子どもの遊び歌を取り入れた「Queenie Eye」・ビートルズを彷彿とさせるポップでキャッチーな「NEW」・ライブで観客と歌うために作ったという「Everybody Out There」。ライブに行ったことを差し引いても、素晴らしい完成度のアルバムですよね。従来のポールの個性と新たな試みによってさらなる高みに到達しています。


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『Egypt Station』(2018年)

駅から始まり音楽の旅を経てふたたび駅へと帰る構成のコンセプトアルバム。ジャケットのイラストはポールが1988年に描いたもので、そこからイメージして作られたアルバムとのことです。特に好きなのはピアノが美しい「I Don’t Know」、アコースティックギターが優しく響く「Happy With You」、新たな名バラード「Hand In Hand」、ドナルド・トランプ批判と思われる「Despite Repeated Warnings」。76歳のポールがまだこんな素晴らしい楽曲群を生み出せるということにただただ驚愕します。全米チャート1位獲得は『Tug of War』以来36年ぶりとのことで、ポールがまだまだ現役の最高アーティストであることを世界に知らしめた一枚と言えるでしょう。ジョン・レノンがこの歳まで生きていたらどんな曲を作ったんだろう・・・なんてこともつい想像してしまいます。


『McCartneyⅢ』(2020年)

最新作。『McCartney』『McCartneyⅡ』の続編なので、全二作同様、作詞・作曲・アレンジから演奏までポール一人で手掛けています。ギターやピアノの弾き語りのテイクに自らベースやドラムを重ねていく手法で、コロナパンデミックのロックダウン期間中にレコーディングしたといいます。まずオープニングの「Long Tailed Winter Bird」の演奏からいきなりシビれますね。この曲を前奏にしたラストの「Winter Bird/When Winter Comes」もいい。この二曲は特に聴きどころです。ポップな「Find My Way」や美しい「The Kiss Of Venus」も好き。さすがに78歳とあって地声で高音を出すことは厳しい感じですが、そこはファルセットを巧みに織り交ぜています。ここにきてMcCartneyシリーズの続編を出すというのは「コロナ禍で人に会えない中、一人でも作品を作ることはできる」というメッセージが込められているようにも感じます。何歳になってもポールはカッコいいですね。母国イギリスでは31年ぶりにチャート1位を獲得しました。

というわけで、ビートルズ解散後も、ジョンが亡くなったときとリンダが亡くなったとき以外はほぼ立ち止まることなく走り続けているポール・マッカートニー。改めて聴き返してその偉大さを再認識した次第です。


※2013年11月の来日公演に行ったときの感想やセットリストはブログの方に書いていますので、以下にリンクを貼っておきます。

ビートルズについてはこちらをどうぞ。

ジョン・レノンのソロについてはこちらをどうぞ。

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