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<灯台紀行 旅日誌>2020年度版

<灯台紀行・旅日誌>2020 愛知編#2  野間埼灯台撮影 1

野間埼灯台は、国道沿いの海岸に立っていた。その対面、道路左側に有料駐車場があり、車を入れた。すぐに係のおばさんが寄ってきた。出たり入ったりするつもりだったので、一日分¥1000を払った。隣にもレストランの駐車場があった。むろん利用者専用だろうから、むやみに止めることはできない。もっとも、この有料駐車場は、灯台のほぼ真ん前にあり、道路を渡れば、海側にせり出した広場へとすぐに行ける。位置的には、ベストと言っていい。

装備を整え、といっても、カメラ二台を、それぞれ斜め掛けと肩掛けしただけだが、気分的には撮影モードに入った。真っ白な灯台の胴体が、すでに目の前に見えていて、写真を撮れる位置取りになっている。だが、余計なものがありすぎる。まずは電線だ。それに、道路と横断歩道、さらには、広場に立っている大きな椰子の木やベンチなどで、どう見ても、灯台写真が撮れるような状況ではない。

道路を渡って、海にせり出した広場へ足を踏み入れた。言うまでもなく、この広場は、灯台を眺めるための場所だが、たいして広くもないのに、いろいろな物体がひしめいている。大きな椰子の木が三、四本あり、ベンチも五、六脚ある。右の方には<絆の鐘>があり、南京錠を取り付けるモニュメントもある。さらには、立派な石の記念碑などもあり、まさに、所狭しといった塩梅なのに、観光客が、あとからあとから押し寄せてくる。変な話、物だけでなく人間も<蜜>な状態になっている。

ま、それでも、この正面ロケーションの中で、ベストポジションを
探しながら、狭い広場をうろうろしていた。歩道沿いのベンチが一番いいだろうなと思ったが、カップルがどっかと座っていて、なかなかどかない。仕方ないので、その後ろで、一応、カメラを構えてみた。だが、普通の記念写真にすらならない。大きな椰子の木に挟まれた灯台、その左右には、<絆の鐘>だの、石の記念碑だの、ベンチに座っている人間だので、まったく絵になりまへん!

まあいい、まあいい。ここで写真を撮ろうとしたのが間違いだ。と思い直して、今一度道路を渡り、道の向こう側から、カップルの座っているベンチを手前に入れて、何枚か、適当にシャッターを押した。どんな絵面にしろ、記念写真くらいは撮っておきたいと思ったからだ。意味のないことだとわかってはいるが、このままやり過ごせば、あとになって、何か忘れ物をしたような気がするに決まっている。

広場の横から、砂浜に下りた。灯台の全体が見えた。下の方が、なぜかステン?の柵でぐるっと囲まれている。灯台に直接触れられないようになっている。景観的にはよろしくない。あの時にはそれがやや不満だった。が、いま思えば、灯台を不埒な連中から防御しているわけで、灯台に落書きされるよりはましかもしれない。ところが、いまネットで調べると、この柵に南京錠をつける恋愛ジンクスが広まり、なんと、その重みで柵が倒壊したことがあるそうな。世の中、何が起きるかわかったもんじゃない。

この教訓を生かしたのだろうか、その後、南京錠をつけるモニュメントができたので、今現在は、柵に南京錠はついていない。もっとも、注意書きがあったような気がする。柵に南京錠をつけてもすぐに撤去する、と。これは、効果てきめんだろう。恋愛成就を願ってつけた鍵が、そのうち切り取られてしまうのなら、いくらなんでも、そこに鍵をつけることはしないだろう。ましてや、正規?に鍵をぶら下げておくモニュメントがあるのだから。

しっかし、おじさんの感想を述べさせてもらうのなら、南京錠で結びつけておく男女の仲や、家族や友人の絆とは、いったいどういったものなのだろう。本当は、結び付けておくことができない、と思っているからこそ、南京錠という手段に出るのではないか。だとするならば、海風に晒され、風化していく南京錠たちは、人間のはかない希望を形象化しているオブジェと見ることもできそうだ。

深く考えもしないで、ちょっとした洒落のつもりで、南京錠を柵に取り付け、その後、何年かして、錆びついた南京錠を目の当たりにしたとき、人間は、何を思うのか。ましてや、恋愛が成就されず、家族や友人の絆がほどけてしまったのなら、これはもう、まともに見ることすらできないだろう。そんな悲しみを直感する想像力を、灯台のそばに座って、波音に耳を傾けながら、取り戻してほしいと思うばかりだ。

ところで、唐突だが、灯台の正面とは、やはり、扉のある方なのだろうか。扉は、ほとんどの場合、陸地側にある。当たり前だ。人が出入りするわけで、陸地側にある方が合理的だ。だが、いつも思うことなのだが、灯台の機能面から考えると、海側が正面なのではないか。光を海に投げかけているのだからね。となれば、扉は、玄関口というよりは勝手口になるわけだ。

なんでこんなことを言い出したのか?というのも、野間埼灯台は扉のある方、つまり勝手口の方が、景観的には優れているからだ。つまり、正面であるはずの海側の胴体には窓もなく、のっぺりした感じなのに、背面であるはずの陸側の胴体には、ちゃんと窓がついていて、明らかに見栄えがいい。玄関口が勝手口よりも立派なのは常識だろう。したがって、こと、野間埼灯台に限って言えば、扉のある方、いわば勝手口が玄関口になっているようなのだ。

広場から砂浜に下りて、灯台を横から俯瞰する位置に立つと、そのことがよくわかった。つまり、側面ゆえに、灯台の窓はほとんど見えなくなってしまうわけで、胴体ののっぺり感が際立ってしまう。だが幸いなことに、この位置取りは、砂浜や海や空などのロケーションが素晴らしいのと、下の方が柵に囲まれているものの、灯台の全体像が俯瞰できるので、その立ち姿、というか、美しい構造が、のっぺり感を相殺してくれる。ま、それにしても、側面に、窓がひとつでもあれば、とないものねだりをしながら、撮り歩きを始めた。

波打ち際を五、六歩進んでは振り向き、灯台を主役にした構図を瞬時に見つけてシャッターを押した。砂浜に打ち寄せる波や、広場に聳え立つ椰子の木なども、画面に取り込もうとした。そのうち、岩場が露出してくる。波しぶきを受けている岩場には近寄らないで、渇いている岩場に登って、標準、望遠、二台のカメラでかわるがわる、少し遠目だが、真白な灯台を撮りまくった。もう、胴体ののっぺり感などは、ほとんど気にならなかった。ただし、観光客が、次から次へと来るので、画面に、人影が写り込んでしまう。これは致し方ない。十二月だというのに、さほど寒くもない、素晴らしい天気の日曜日なのだ。

灯台の垂直や、水平線の傾きなども、さして気にならなかった。というのも、野間埼灯台は、岬の先端でもなく、さりとて、海に突き出た岩場でもなく、そのずっと手前の、極端に言えば、砂浜に立っているような感じなのだ。したがって、自分の立っている波打ち際と、ほぼ平行関係にあるわけで、灯台の垂直はあらかじめ担保されている。それと、水平線は岩場に隠れてしまい、少ししか見えない。こちらも、多少の傾きは気にならない。

問題は、右端にある、少し高台になっている広場の椰子の木やモニュメント、ベンチ、その他もろもろだ。できれば、灯台写真は、海と空と灯台だけで完結したい。だがそうもいくまい。苦肉の策として、一番大きな椰子の木を、画面の右端に取り込むことで、構図全体のバランスを取った。ただし、広場の土留めコンクリが少し入ってしまう。なんとなく釈然としない。それに、海側にせり出してくる、背景の山が、なんか変なのだ。灯台の垂直や水平線とは<ねじれ>?の関係にあるようで、画面に取り入れるとあきらかに不自然だ。結局、背景の山と、広場の大部分は、画面から立ち退いてもらうことにした。

さらに、岩場と砂場が混在する砂浜を行けるところまで行った。これ以上行くと、灯台が見切れてしまうその場所に、少し小高い岩場があった。迷うことなく、よじり登った。みると、今歩いてきた海岸全体が見渡せる。灯台はさらに遠目になったが、ここは望遠カメラの出番だ。灯台を画面のほぼ真ん中に位置して、まさに、灯台そのものを撮った。だが、手前に観光客がいる。砂浜で子供が遊んでいて、親たちが座りこんでいる。それに、灯台の前を横切って、岩場の先端に行こうとする観光客があとを絶たない。

望遠400ミリの精度の高いレンズだ。表情までが、手に取るように見える。だがいまは、そんなことを面白がっている場合じゃない。人間が点景なら、風景写真的には、さほど気にならない。いや、致命傷にはならないだろう。しかし、表情までもがはっきり見えていたら、これはもう写真以前の問題だ。つまり、肖像権の問題で、ぼかすとか何らかの処理をしなければ、たとえアマチュアでも、発表することはできないだろう。と、ここでふと思った。SNSなどに写真をアップすることが、写真行為の必須条件になっている。

撮った写真を、自分一人で眺めるだけでは、もはや満足できない。そもそも、写真を撮ること自体に、撮った写真を人に見てもらいたい、見せたいという欲求が内在している。大袈裟に言えば、いわば、自分を世界に開示したいのだ。とはいえ、だから、どうだというのだ。頭の片隅で、人間がこれほど大きく映り込んでいては、補正で消すこともできないなと思った。それでも、真っ青な冬空を背景に、一分の揺らぎもなく垂直する、真白な灯台を撮り続けていた。モノになるか、ならないか、そんなことはこの際、どうでもいいような気がした。

To be continued

<灯台紀行 旅日誌>と<花写真の撮影記録>
<灯台>と<花>の撮影記録
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