ロロ 窓辺 第2話 『ホームシアター』をみました

【私の感想】
『いまさら』という感覚は変化する

【公演概要】
ロロ窓辺
第2話『ホームシアター』
脚本・演出:三浦直之
出演:島田桃子 森本華
公演期間:5月22日(金)―24日(日)
公演詳細:https://note.com/llo88oll/n/nc571ba39e3d6

2020/05/24/18:00開演観劇

画面の向うから「おーい」と呼びかけられて始まる不思議な物語。たった20分、しかし、当たり前にある空間や時間の流れが少し変わった20分間だった。

「おーい」と呼び掛けるのは『紺』。どうやら半年前に死んでしまったらしい、いわば幽霊のようなもの。映像に映っている世界が紺のすべてであり、その外側は『無』なのだと言う。
対する『夕』は夫がいて、友達もそれなりにいるような雰囲気の人間だ。夕はもちろん映像の外側にも世界が広がっていて、夫から物を受け取ったり、窓の向うの景色を見たりしている。
この二人の境遇の違いが鮮やかで面白かった。

二人は高校の同級生だが、接点は1度、夕が自販機でたまたま近くにいた紺に20円借りた時だけだ。なぜ紺が夕に話し掛けてきたかというと、20円のかたに自分が借りぱくしてしまった消しゴムを持ち主へ買って返してほしい、という申し出だった。
芝居の中で「いまさら」という言葉が印象的に使われる。「いまさら返さなくても良いんじゃない」と言う夕に「いまさらだから、返したいんだよ」と答える紺。
私は社会人になってから、過去を振り返る時間が減ったと感じている。昨日がうまく行ったとかできなかったとか、そんなことは考えていられない日々。1日が勝手に次から次へとやってくる感じで、過ぎたことは過ぎたこと、それよりも未来が大事だと思っていた。数カ月前の私なら夕と同じく「いまさら返さなくても良いんじゃない」と思っていただろう。しかし、外出自粛要請が出て、明日の予定も立たなくなって、私は未来をどう考えたら良いのか分からなくなった。そんなとき、やっぱり今まで出会った人や起こった出来事に思いをはせるようになって、急に他愛もないことで友達と連絡を取ったりした。
死がどんな感覚なのかは分からない。けれど、そこに過去しかないのが死の世界ととらえるなら、紺の「いまさらだから、返したい」というセリフは今の私にもずしりと来るものがある。

芝居を観ながら、自分の高校の同級生をふと思い出したり、窓の外から聞こえてくる人の笑い声に「私は生きてる…」と思ったり。そして、『カロリーメイト』をきっかけに変化していく二人の関係性に、いろいろな気持ちを味わった芝居だった。千秋楽を観たのが悔しいと思うほど、もう1度観たくて仕方ない。

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