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12.2.2 植民地統治下のインド社会 世界史の教科書を最初から最後まで

イギリス東インド会社の最大の目的は、より多くの富を効率よく徴収することにあった。


最大の収入源は地税だ。
その徴収の方法は、政府と農民のあいだを仲介する有力者に徴税をまかせ、その仲介者に私的な土地所有権を与えるというもの。
これをザミンダーリー制という。

仲介者を排除して、国の土地所有のもとで農民(ライヤット)に土地を保有する権利をあたえて徴税するライヤットワーリー制もあった。



これらの徴税制度の実施にともなう新しい土地制度の導入は、インド社会に深刻な影響を与えることとなる。



そもそもヒンドゥー教徒の考え方では、人間は生まれながらにして4つの身分(ヴァルナ;種姓(しゅせい))か、その下に位置する「不可触線民」のうち、いずれに分類される職業グループ(ジャーティ)に属するものとされていた。




差別的な制度だなあと思うかもしれないけれど、職業グループが安定的に維持されるシステムと考えることもできる。
必要じゃない仕事なんて、存在しないからね。

とはいえ、この制度の最下層(ヴァルナにすら属さないカテゴリー)に位置づけられた不可触選民たちは、代々大変な仕事に従事せざるを得なかった。



それぞれの職業グループ(ジャーティ)には「仲間意識」があって、食事から結婚にいたるまで同じジャーティ同士で営まれることが普通だった。

当時のインドの村は、もちろん農業に従事する人が中心だったわけだけれども、ほかにも洗濯人や

大工などの地域社会が必要とするさまざまな仕事をする人々が暮らしていた。

農業を営まないジャーティに属する人であっても、それぞれ地域社会では “意義のある存在”。
生産物の中から一定の割合を現物でもらえる権利をもち、そのおかげで生活していた。

ヴァルナやジャーティに基づく制度は、のちに「カースト制」と呼ばれるようになり評判が悪いけど、当時の村での生活では、助け合いのために必要不可欠な面を持っていたと言えるんだ。




しかしながら、イギリスによって新たに各地で導入された制度は、そのシステムを真っ向から否定。
土地所有者として認定されるのは、ひとつの土地についてたった一人だけだったのだ。

これではほかの人々が従来もっていた権益は無視されてしまう。


また税額も従来より重かっただけでなく、長期間にわたって現金で設定されたことも問題だ。


19世紀前半をつうじて農産物価格が低落したため、農民は税の現金支払いのためにより多くの生産物を販売しなければならず、生活は困窮。


インドが世界に誇っていた綿布生産も産業革命以降、イギリス製の機械製綿布や綿糸が流入してインド製品を圧迫。


1810年代末には輸出入が逆転。

その結果、19世紀前半のインドは、綿花

などの原材料をイギリスに輸出し、イギリスから工業製品を大量に輸入する立場へと転落していった。




インドは、それらの貿易赤字を中国へのアヘン・綿花の輸出や、東南アジアやアフリカへの綿製品の輸出、イギリスへの一時産品輸出などによっておぎなうという多角的な貿易構造の形成で対応した。




※アヘン収入は、19世紀半ばまでインド政府の歳入の15%を占め、20世紀初めの第一次世界大戦期にいたっても重要な輸出商品であり続けた。


このような貿易構造と経済体制の変化の背景には、イギリス産業革命によってパワーアップした産業資本(「ものづくり」とその販売によって増殖していく資本)がある。
じゃんじゃん原材料を輸入し、じゃんじゃんいっぱい作らせて、じゃんじゃん売る。
そのためには、相手国の事情なんてお構いなしに、”自由に“ 取引ができたら最高だ。
イギリスの自由貿易体制の一翼を担う存在として、”インド洋の経済センター“として確固たる地位を築いていたインド白羽の矢が立ったわけだ。

”自由な貿易“を推進することこそがイギリスの富を増やす鍵だ!

自由貿易を唱える経済学者の理論もあって、東インド会社の特権への批判が強まり、1813年の特許状改定でインドとの貿易独占が廃止された。


さらに1833年の特許状改定の内容はこうだ。

第3条 1834年4月22日以降、ジョージ3世治世第53年〔1813年〕の法律によって、上記の会社に継続されたところの、中国皇帝の領土との交易および茶の貿易の独占的権利は消滅する。
第4条 上記の会社は、1834年4月22日以後、できるだけすみやかに商業活動を停止し……。

このように、残されていた茶の取引と中国貿易の独占権が廃止されただけではなく、商業活動そのものの停止が定められた(翌1834年に実施)


これにより、1834年以降の東インド会社は、インドでビジネスをする組織ではなく、インドを支配する組織に変化することになる。

このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊