杜如晦

3.3.2 唐代の制度と文化① 制度 世界史の教科書を最初から最後まで

唐(とう;タン)は、短命な隋(ずい;スイ)から多くの制度を引き継いだ。


しかしそれだけでなく、律・令・格・式(りつりょうきゃくしき;ルーリングーシー)というルールに基づく政治システムへと発展させた点が重要だ。律は現代風にいえば刑法、令は国の行政法だ。格式は追加とまとめのことである。

皇帝にとって、実務的な文書のとりあつかいのプロである役人は、なくてはならない存在。
同じく役人にとっても、自らが支配層にとどまり続けるために、皇帝はなくてはならない存在だ。

皇帝がもっとも恐れるのは、役人たちが一致団結して不満を抱き抵抗すること。親類縁者、兄弟や子供、"腹心"の裏切りも不安要素だ。

そこで皇帝は、自分の言うことを忠実に聞いてくれる一部の”家来”を特別扱いし、いくつかの重要な役職を与えた。
普段から政治について相談したり、機密文書の取り扱いにに関与できる”側近”には、特に信頼のおける人間が当てられた。


ただし職務が優秀だからと言って、皇帝に忠実であるとは限らない。
リーダーにとって”本音”で話せる相手は限られる。ときには率直に、皇帝に対して的確なアドバイスが言える人だって重要だ。

それだけでなく、各部署にあてたトップが、その下に働く役人たちをしっかりと取りまとめることができるかどうかということも重要なポイントとなる。

科挙がはじまったからといって、すぐさま従来の家柄重視の任用がなくなったわけではない。科挙がしっかりと整備されていくのは後の時代のことであって、蔭位(おんい;インウェイ)の制という、子のランクを父祖のランクに連動させるような”コネ採用”がまだまだ残されていたんだ。中央の政治においては、家柄が高い貴族は依然として発言権が高く、皇帝にとってもその支配を脅かすほどの力を持つ者さえいたほどだよ。

だからこそ、誰を各部署のトップにするかというのは、"大物"貴族をコントロールするためには死活問題だったのだ。

親類一族がいる”普通の”人間を恐れるあまり、”側近”として、みずからの性器を切り落としてしまった宦官(かんがん;ファングァン)を積極的に採用する皇帝も跡を絶たなかった。男性を”側近”に採用することで、宮中のスキャンダルや一族による政治への介入などの問題が起きることを嫌ったわけだ。

このへんの状況については、『貞観政要』(じょうがんせいよう;ヂェングァンヂァンヤオ)が、太宗の時代の優れた家来たちについて詳しく記したものとして有名だ。「組織」や「マネジメント」に通じる話として、ドラッカーが流行るよりずっと前から日本でも昔からよく読まれてきた話だよ。


とはいえ唐の皇帝は、各部署のトップに”お友達”を当てられるほどのパワーをもっていたわけじゃない。
そもそも誰を役人として採用するかという人事権を完全に握ることはできていなかったのだ。




皇帝の”秘書”的な存在となった中書省(ちゅうしょしょう;ヂォンシューシァン)という部署の役人たちは、皇帝の主張を実現させるため、命令を文書化して案をつくり、貴族たちの反論に対する答弁まで用意するプロ集団だった。
ときには各地の役人たちから「こういう政策をとってほしい」という意見が上がってくることもある。内容を見定め取捨選択し、採用するかどうか決めるのも中書省の仕事だ。

それに対し、中書省の案を審議する門下省(もんかしょう;メンシアシァン)という部署には、南北朝時代以降、ランクの高い名門貴族(門閥貴族)が就任し、皇帝やその側近の意見と対立することもあった。

門下省を通ってしまえば、あとは尚書省(しょうしょしょう;シャンシューシァン)が実行にうつすだけだ。具体的には、以下の六部(りくぶ;リウブー)があったよ。

①吏部(りぶ)  官僚の人事。
②戸部(こぶ)  財政と地方行政。
③礼部(れいぶ) 礼制(教育・儒教)と外交。
④兵部(へいぶ) 軍事。
 農民たちから兵隊をとり、都の警備や辺境防備をさせた。
⑤刑部(けいぶ) 司法と警察。
⑥工部(こうぶ) 公共工事。


ただ、こうした強大な権力には、必ず利権の問題がからんでくるのは今も昔も変わらない話。

中央の貴族たちは自分の郷里に利益を誘導たがるものだし、自分に都合の悪い政策は通そうとはしない。
不正を働く者を弾劾する御史台(ぎょしだい;イーシータイ)という監察機関もあったけど、皇帝の思いのままというわけにはいかなかった。

唐は「自作農に国の土地を与え、彼らを直接支配する」という理念をかかげていたにもかかわらず、高級ポストについている官僚には大土地所有が認められていた。彼らの私有地のことを荘園(しょうえん;ヂゥアンユェン)という。
働き手は、小作人や奴隷として貴族の言いなりとなった農民たちだ。

こうして見てみると、唐の皇帝にとって貴族の存在がいかに厄介なものだったかがわかるよね。

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