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【ライブラリ】notes

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#エッセイ

#41 『本屋』と『本業』

2024年3月某日 息つく暇もない年度末、体調などを崩さないように乗り切りたいものである。忙しない状況だと、趣味である読書の時間が減ってしまい、本の手触りが恋しくなる。 … さて、全国的に書店が減少していることは周知の事実であるが、その背景にある要因としては「出版不況」が挙げられることが多い。すなわち、「紙の本が売れないから、その小売店も厳しい」という単純な話である。一方、本が読まれていないかと言われるとそうではない。実際、ビジネス賢者のみなさんは揃って読書習慣の重要性

叱られる

 やはり、知ったかぶりはするものではない。  こちらはテキトーに口にしたつもりでも、相手がその内容を確固たる知識として吸収する可能性がある。そしてそういう知識は、また別の人に話されることによって広まっていく。出発点にはあった「テキトー」という要素を抜きにして。 *  先日、かつて家庭教師で担当していた学生さんと会う機会があったのだが、会って早々「これ見て、先生」と叱られてしまう。  叱られの原因は、それこそ「知ったかぶり」である。  見せられたのは、加賀野井秀一の『感情的

【ニッポンの世界史】第16回:授業時間が足りない?—就職者にとっての世界史

A科目とB科目に分かれるまでの世界史の変遷  1960年度指導要領で就職者向けのA科目と進学者向けのB科目に分かれた世界史。A科目は週3時間、B科目は週4時間が標準とされました。  前回の1956年度学習指導要領では、社会科に「社会、日本史、世界史、人文地理」が設置され、このうち高等学校の社会科は日本史、世界史、人文地理から2科目は必ず履修することになっていました。  しかし1960年度指導要領では、社会科として「倫理・社会、政治・経済、日本史、世界史A、世界史B、地理

なぜ「新幹線」は世界に誇ることができるのか?|高橋昌一郎【第10回】

「世界で最も安全な高速鉄道」もしパーティが開かれたら、何時に訪問するかという「エスニック・ジョーク」がある。パーティの開始時刻前、すでに到着して待っているのが日本人である。開始時刻ちょうどにドアをノックするのがイギリス人、20分遅れるのがフランス人、30分遅れるのがイタリア人である。さらに、40分後にスペイン人、1時間後にイラン人、2時間後にポリネシア人が到着する。ちょうどその頃、ようやく自宅から出かける準備を始めているのがメキシコ人だという笑い話である。 実際に、国際会議

【はじめに】ニッポンの世界史:日本人にとって世界史とはなにか?

2010年代の世界史ブーム—疫病・戦争・生成AI  まもなく22世紀を迎える2100年の人々が21世紀初頭の世界をふりかえったとしよう。そこではどのような出来事がとりあげられるだろう?  「まもなく終わる21世紀」の幕開けにふさわしい出来事として選ばれるのは、いったい何になるのだろうか?  疫病の流行、大国による戦争、それとも生成AIに代表されるイノベーションか。あるいは気候変動、難民危機、持続可能な開発目標、新興国の台頭、あるいは権威主義やポピュリズムの拡大か—。  こう

The Beatles 全曲解説 Vol. 214 ~Now And Then

シングル『Now And Then / Love Me Do』A面。 4人全員の共作で、リードボーカルはジョンが務めます。 21世紀初にして最後の新曲!激動の60年を生き抜いた、すべての愛と魂へ贈るレクイエム "Now And Then"最初の発表から約5ヶ月、多くのファンが首を長くして待ち焦がれていたことでしょう。 日本時間11月2日午後11時、ビートルズの21世紀最初にして最後の新曲 "Now And Then" が発表となりました。 初めて聴いた直後、私は個人のイン

「違うよ涙腺、そうじゃない」 犬派の私を揺るがす奈良市役所LINE、その後を聞いてくれ

最後まで報告したいなと思ったので、noteに残します。嬉しいことが次々に起きたので、そのいきおいで書いています。 まずはこの、一見なんでもない写真を見てください。 実はヤバいものが写り込んでる、とかじゃなくて。私にとっては、だいぶと涙腺を潤してくる写真でして。 話は、数日前に遡ります。 9月25日。こんな投稿をした。 埋め込みだと、文章が途中で切れると思うので転載(誤字は修正済)。 画像も貼る。 左上から、画像1、2。下いって3、4。 たくさんの反応があり、それ

プロとプロの仕事と気持ち テレビという舞台(リング)で

「ジョブチューン」という番組をつい観てしまう。 気付けば、仕事のBGMがわりのはずが、結構ガチで観てしまう。 何度か炎上案件にもなったのでご存じの方も多いかもしれない。 例えば大手のコンビニやファミレス外食チェーンの人気メニューを、その道の職人というか海外でも活躍する日本を代表する(らしい)シェフやパティシエたちが「ジャッジ」をする。 試食し、合格か不合格かの札をあげて、理由や能書きをのたまう。 のたまう一流シェフだのパティシエだのはなんかパンチの効いた感じの人が多

音楽と知識とカーストと

自分は音楽が好きで、小さい頃から息をするように鍵盤と触れ合ってきた。 それなのに、どの界隈に対しても知識が足りず、話に入れず、共感できなかった。 流行りの音楽、マニアックな世界、サブカル、ハイカルチャー、、、それぞれの場所に、それぞれの聴き方・楽しみ方があって、それぞれの「良い音楽」という「正義」を盲信している。僕はそのどれにも染まりきれない。 どれが「正しい音楽」で、どんなものが「良い音楽」なのか。そんな問いに、1つの正解なんてものはあるはずがない。けれど、自分が「音

【第3回】この恍惚を味わいたかったのかもしれない|地下鉄にも雨は降る|友田とん

 前回は4月に荻窪駅から丸の内線の各駅の漏水対策を観察して回った。半日あれば、さすがに都心まで行けるだろうと高を括っていたが、細かく記録を取りながら回っていくと、あっという間に数時間が経っており、新宿まで見て回るのが精一杯だった。  少し日数が空いてしまったが、6月頭にその続きのフィールドワークに出掛けた。丸の内線を新宿三丁目から都心に向かって見ていく。新宿三丁目駅の「あらばしり」(第2回参照)も健在だ。そして、丸の内線のホームに着くと、柱の脇の天井から虎テープを巻いたペット

17年前に2秒見えた海を探す

17年前、海が2秒見えた。 あの海の記憶大学進学のため上京したのは、2006年の3月。山々に囲まれ育った18歳の僕は、さらなる刺激を求めて、東京行きの新幹線に乗り込んだ。予想もできない未来が待っている都会で、新しい人生が始まるのだ ー そう意気込んで列車の座席についたはずが、気づいたら涙を流していた。 過疎化の激しい田舎から出るということは、もう一生ここで暮らすことがない、ということを意味していた。その事実が、意外なほどに僕を悲しませたのだった。新大阪発・東京行きの「こだ

温もり

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忘れられた思想家|畑中章宏さんが選ぶ「絶版本」

 だれしもが若かりし日の読者体験のなかにおいて、読む、読まないにかかわらず持っておかないといけない本がある。つまり、その本を買って、本棚に並べておくことが、自分が関心を持つ領域に参加している証だとみなされるからだ。そうした本のなかには、そんな当時の“雰囲気”が忘れ去られてしまい、何年か経つとまさに「絶版本」の栄誉(?)を受けるものがある。  1962年生まれの私は、高校生から大学生の頃、つまり1970年代の終わりから80年代にかけて、広い意味での「思想」にかぶれて、さまざまな

旅とブンガク|太宰治に呼ばれて東京・三鷹と青森・津軽へ

これを「呼ばれた」と言わずしてなんというのだろう。 2022年、それぞれ別の目的で行ったところがたまたま、太宰治ゆかりの場所だった。太宰治が晩年長く暮らした町・三鷹と、太宰治が生まれた土地・津軽。 太宰治に影響されたイタすぎる中高生時代文学好きあるあるだと思うのだが、10代の頃は太宰の作品にけっこう影響を受けていた。国語の授業中に教科書じゃなくて、こっそり太宰の小説を読むのがかっこいいと思っていたイタすぎる中高生時代。読書感想文ではじめて県で表彰されたのも太宰治の『斜陽』