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「#世界はジャズを求めてる」2022.4月4週(4/28)『スペイン領アメリカのラテンジャズ』eLPop伊藤嘉章・岡本郁生 #鎌倉FM

『世界はジャズを求めてる』第4週は「ラテンとジャズの危険な関係」。eLPopの伊藤嘉章(mofongo)と岡本郁生(el Caminante)がお送りします。ジャズ評論家の油井正一さん「ジャズはカリブ音楽の一種」と喝破されたように成り立ちから一つのラテンとジャズは、垣根を意識することなくお互いに溶け合ってきています。そんな関係のカッコいい曲をお届できればと。番組をお聴きになってラテンに興味がでた方、ラテンがお好きな方はラテン音楽Web マガジン「エル・ポップ(eLPop)」など覗いて頂けたら幸いです。(URL=http://elpop.jp
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ここの所、毎月封切りの音楽映画と関連した特集をお送りしている4週目ですが、今月は4/22から封切りの映画「リンダ・ロンシュタット:ザ・サウンド・オブ・マイ・ボイス」にからめ、'83年の彼女のジャズ・アルバム『What's New』を導入部として、彼女のルーツの一つ「アメリカの中のメキシコ」、「もともとメキシコ領だったアメリカ」、つまりテキサスやカリフォルニア、いわゆるテハーノ(メキシコ系のテキサス人)、チカーノ(メキシコ系の西海岸の人たち)などメキシコの香るラテン・ジャズの手がかりをお送りしたいと思います。

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まず一曲目はリンダ・ロンシュタットによるジャズから。
リンダ・ロンシュタットは1946年米国アリゾナ生まれ。ロサンゼルスに出て、60年代後半ストーン・ポニーズのメンバーとして活動後、ソロ・シンガーとして69年にデビュー。この時のバックバンドからイーグルスが誕生します。70 年代初頭に人気が爆発、75年の「悪いあなた」が全米1位を獲得した以降大ヒットを連発し米国を代表する女性シンガーとなります。79年春に初来日、80年代以降はジャズ、カントリー、ラテンと新たなるジャンルに挑戦し活躍しましたが、2011年病気で引退。ソロ・スタジオアルバムが28枚、ビルボード1位のアルバムは3枚、グラミー賞獲得数は10、TOP 40入りヒットは21曲、トータルの売上枚数は1億枚を超える素晴らしい歌手です。

映画「リンダ・ロンシュタット:ザ・サウンド・オブ・マイ・ボイス」はデビュー時代から絶頂期のライヴなどの映像と共にドリー・パートン、エミルー・ハリス、ボニー・レイット、ジャクソン・ ブラウン等友人・共演者らが出演し彼女の軌跡を描いて2021年第63回グラミー賞で最優秀音楽映画賞を受賞しました。製作は前作「グレン・キャンベル 音楽の奇跡/アルツハイマーと僕」でもグラミー賞3部門を獲得したジェームズ・キーチ、監督はロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン。

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さて、リンダは1981年にいわゆるアメリカン・スタンダードの曲集を録音するも、出来に納得できずお蔵入り、再度スタンダードに挑み『What's New』(1983)、『Lush Life』(1984)、『For Sentimental Reasons』(1986)の3部作を次々にリリース。アメリカのみでも合計800万枚が売れる大ヒットとなります。1986年には、長編アニメ映画の主題歌を、1987年にはエミルー・ハリス、ドリー・パートンとの夢の競演アルバム『Trio』を発表。また同じ1987年のアルバム『Canciones De Mi Padre』は、表題通りにメキシコ系である父から学んだメキシコの伝統曲をマリアッチ楽団の大御所、マリアッチ・バルガス・デ・テカリトランの伴奏で歌った冒険作。これがまたメキシコ系ファンに熱狂的に受け入れられ200万枚以上を売り、グラミー賞を獲得。1992年にはボレロを歌った『Frenesi』など、スペイン語アルバムを発表と、自らのラテン・ルーツでの表現を掘り下げたりもしました。

1.Linda Ronstadt / Someone to Watch over me from"What's New" (1983) 

Linda Ronstadt (vo), Nelson Riddle orch., Don Grolnick (p), Ray Brown& Jim Hughart(b), John Guerin (ds), Dennis Budimir (g)

レイ・ブラウン(b)やドン・グロルニック(p)をはじめとしてジャズ・ミュージシャンがしっかりバックを固めていますが、注目はネルソン・リドルのストリングス・アレンジ。

ネルソン・リドル(1921 – 1985)は。ニュージャージー州生まれ、ピアノを8歳で、トロンボーンを14歳で初め、その後独学でアレンジを学び、チャーリー・スピバク、トミー・ドーシー楽団、陸軍バンドを経て、ボブ・クロスビー楽団で編曲を担当。その後NBCのスタッフを経てフリーランスの編曲者として活動。フランク・シナトラ、ナット・キング・コール、ジュディ・ガーランド、エラ・フィッジェラルド、ペキー・リー、ローズマリー・クルーニー等にスコアを提供しています。1950年のビッグ・ヒット、ナット・キング・コールの「モナ・リザ」はリドルの手によるもの。元はアメリカ映画「Captain Carey, U.S.A.」のサウンド・トラック。1950年のビルボート・チャートでは、8週連続1位の大ヒットとなっています。

リンダの『What’s New』(1983)ビルボード5週連続第3位(1位はマイケルのスリラー、2位はライオネル・リッチーのキャント・スロウ・ダウン)という大ヒット。

2.Los Laureles / Linda Ronstadt (1987) 

あ、ジャズと間違えて1987年のアルバム『Canciones de Mi Padre』から”Los Laureles“をかけてしまいました。いやー、いいですね。ランチェラ!この曲はローラ・ベルトランとしてよく知られているマリア・ルシラ・ベルトラン・ルイス、メキシコ映画の黄金時代のメキシコの歌手で女優でテレビ司会者のヒットとして有名ですがです。ベルトランは、ランチェラとウアパンゴですごい人気で評価の高い人ですね。リンダも彼女の歌に影響を与えた人だと言っています。

メキシコ/ラテンの曲でありますが、ストリングスが美しい。ストリングスのスウィートな使い方はある意味ネルソン・リドルと感覚が相通じるかもしれません。それはナット・キング・コールがラテンで絶大な人気を誇っていることとも関係があるかも。


さてここで、1940年代後半から40年代の西海岸の音を聴いてみます。ビッグバンド時代、スイング時代でNYではマンボも出ていたタイミングだったり、バップのスモールコンボが出てきた時代ですが、ここLAでは「パチューコ」!まずはお聴きください。

3. Pachuco Boogie / Don Tosti (1948) 


Don Tosti (El Paso 生まれ Edmundo Tostado Martinez)(b), Eddie Cano (p), Raul Diaz (ds)

パチューコは1930年代後半にロサンゼルスで出現した英米社会への同化を拒否するメキシコ系の人たちのある種のアイデンティティの発露、カウンターカルチャーですが、ズートスーツのファッション、ジャズ、スウィングミュージック、カロと呼ばれる独特の方言などのスタイルのかっこいい不良です。1943にはLAで「ズートスーツの暴動」と言われる事件も起きました。

演奏の方ですがドン・トスティはテキサス州エルパソ生まれ。クラシックからジャズ、リズムアンドブルースまで、数々のスタイルにまたがる個性で人気を博しました。ピアノのエディ・カノはLA生まれのメキシコ系のピアニスト。ミゲリート・バルデスのバンドで活躍するなどアフロ・キューバン・スタイルを基本としながら、西海岸らしい個性が魅力。このパチューコ・ブギはLAのEl Sombreroなどクラブから人気に火が付きました。


3. No Esperar Mas de Mí /Balde Gonzalez (1950s) 

バルデ・ゴンサレスは、1928年テキサス州生まれ。歌手、作曲家、サックスなど楽器奏者。生まれつき目が見なかったが、オースティンでバイオリンやピアノなどいくつかの楽器を演奏するようになりプロに。アメリカナイズされたレパートリーが得意。テハーノ・ミュージック・ホール・オブ・フェイム。この曲は50年代のテキサスのジャズ系オルケスタのサウンド。

4.Tequila /The Champs (1958)


Chuck Rio (sax), Dave Burgess (a.k.a. "Dave Dupree)(g), Dale Norris (g), Buddy Bruce (g), Bob Morris (b)
ここで、1957年のLAから出てきたインストルメンタルのサウンドを聴いて頂きましょう。ザ・チャンプは1957年結成、このラテンのサーフ・インストゥルメンタル曲「テキーラ」を大ヒットさせました。チャレンジレコードの幹部がデイヴ・バージェスのシングル、「トレイントゥノーウェア」のB面録音用に結成グループで、捨て曲のつもりがA面よりも有名になりわずか3週間で1位に、59年にはグラミー賞でベストR&Bパフォーマンスを受賞。という曲です。メキシコ系アメリカ人(チカーノ)がどんどん台頭してくるそのエポックメイキングな曲とも言えます。

5. The Jazz Crusaders /Dulzura from "Chile con Soul" (1965) 


Joe Sample (p), Wilton Felder (ts), Wayne Henderson (tb), Al McKibbon (b), Nesbert "Stix" Hooper (ds) Hubert Laws (fl), Carlos Vidal (congas), Hungaria Garcia (timb), Clare Fisher (org)


さて、テキサスの60年代のジャズと言えばジャズ・クルセイダーズ。あのクルセイダーズの前身。もともとはテキサスのハイスクールで同級生だったウェイン・ヘンダーソン (tb)、ウィルトン・フェルダー (ts)、ジョー・サンプル (p)、スティックス・フーパー (ds)の4人が結成したグループで、何度かグループ名を変更した後、1961年にジャズ・クルセイダーズとしてアルバム『フリーダム・サウンド』でメジャー・デビュー。

その後、1971年にグループ名を「ザ・クルセイダーズ」とし、アルバム『パス・ザ・プレイト』を発表。1972年に『クルセイダーズ1』、続いて『セカンド・クルセイド』『アンサング・ヒーローズ』を発表し1970年代半ば以降のフュージョンの時代になって、知名度がアップした。『スクラッチ』や『サザン・コンフォート』などがヒット。ラリー・カールトン(g)が加入。アルバムを発表するが、1979年にはランディ・クロフォードをゲストに迎えた「ストリート・ライフ」、1980年にはビル・ウィザースをボーカルに迎えた「ソウル・シャドウズ」といった楽曲がヒット。

この曲はラテン色が強く、一方でテキサスらしいホンカー(アーネット・コブやイリノイ・ジャケー(ルイジアナですが))の系統のサックスもありと、NYやLAと一味違うラテン感覚が聴けます。


6. Guajira / Santana from "Santana III"  (1971)

そしてサンタナです。1966年、サンフランシスコで結成(サンタナ・ブルース・バンド)その後サンタナと改名し、1969年にコロムビア・レコードからデビュー。同時期にウッドストック・フェスティバルに出演。セカンド・アルバム『天の守護神』(1970)がビルボードのアルバム・チャートで1位を獲得。「ブラック・マジック・ウーマン」大ヒット、そしてティト・プエンテの「僕のリズムを聞いとくれ/Oye Como Va」、「イヴィル・ウェイズ」などがヒット。この1971年のアルバム『サンタナIII』ではニール・ショーンが加入してツイン・ギター編成となり、ジャズ・ロック色を強めアルバム『キャラバンサライ』(1972年)に繋がって行く。

この『サンタナIII』メンバーはカルロス・サンタナ (g,vo)グレッグ・ローリー(p), ニール・ショーン(g)デイヴ・ブラウン(b), マイケル・シュリーヴ(ds), ホセ・チェピート・アリアス (perc),マイケル・カラベロ(perc)
1974年の『ロータスの伝説』の時代のメンバーは、カルロス・サンタナ(g),レオン・トーマス(perc),トム・コスター(p), リチャード・カーモード(p), ダグ・ローチ(b), マイケル・シュリーヴ(ds), ホセ・チェピート・アリアス(perc) ,アルマンド・ペラーサ(perc)


7. Pete & Shiela Escovedo / bittersweet from "Solo Two" (1977)

ピーター・マイケル・エスコヴェドは1935年カリフォルニア生まれのパーカッション奏者。
カルロス・サンタナがピートとコーク・エスコヴェドを自分のグループに採用する前に、ピートは2人の兄弟とエスコヴェド・ブロス・ラテン・ジャズ・セクステットを結成。後に 14~24人のラテンビッグバンド、アステカを結成。 娘はシンガーでパーカッション奏者のシーラE。1970年代半ばにジョージ・デューク・バンドのパーカッショニスト兼シンガーとしてキャリアをスタート。1983年にソロ活動を開始しパーカッションの女王と呼ばれています。プリンスとの数年に亘る共演も有名。2人は2021年にラテングラミー生涯功労賞を贈られています。


8 Fransisco Aguabella/Ramon's Desire (1977) from “Hitting Hard” 


フランシスコ・アグアベージャは1925年キューバ、マタンサス生まれ、1953年にアメリカに移住。ディジー・ガレスピー、ティト・プエンテ、モンゴ・サンタマリア、フランク・シナトラ、ペギー・リー、エディ・パルミエリ、カチャオ、ラロ・シフリン、カル・チャダー、ナンシー・ウイルソン、ポンチョ・サンチェス、ベボ・バルデス、カルロス・サンタナなどと共演。1970年代には、ホルヘ・サンタナのラテンロックバンド「マロ」のメンバーとして活躍しましたが、その幅広い音楽センスで多くの素晴らしい作品があります。


9.Poncho Sanchez - Morning from "Poncho"(1979)

ポンチョ・サンチェスは1951年テキサス生まれ。カリフォルニア育ち。ティト・プエンテらによるアフロ・キューバンやキューバップに影響を受ける。1975年、カル・ジェイダのバンドに加入、1982年にジェイダーが亡くなるまで重要な役割を果たしました。
コンコード・ピカンテ・レーベルでのクレア・フィッシャーによる作曲やアレンジは重要。19枚のアルバムを制作しグラミー賞も受賞。
本作はラテンジャズの名曲。


Poncho Sanchez (congas), Clare Fischer(p), Alex Acuna(timb), Victor Pantoja(bongos), Humberto Cane(b), Gary Foster (as)

最後は新譜です。
FragileやFazJaz.jpなどジャズとロックを横断する日本を代表する超絶テクニックなギタリスト矢堀孝一さんがプリズムなどで活躍する超絶テクニカル系ベーシスト岡田治郎さんと先週リリースしたデュオアルバム『弦問答/GEN MONDO』から。矢堀さんと言えばトムアンダーソンや木越のエレキの音のイメージなれど新作はほぼアコースティック。タイトルの通り岡田さんとのデュオが基本で、ジャズ色、アコギの響き&フレーズ、高速ユニゾンなど新鮮でスリリングな聞き所満載!岡部 洋一さん(perc)も絶妙のカラーでサポートしています。そして曲は「チュニジアの夜」7拍子でやってるんですが、なんともスムーズでかつ面白い。岡部さんのさりげないパーカッションも魅力です


11. A Night In Tunisia / 矢堀孝一&岡田治郎 from『弦問答/GEN MONDO』

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4月は以上です。ありがとうございました!気に入った方はぜひ「スキ」(ハートマークのクリック)をお願いします!
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「世界はジャズを求めてる」は鎌倉FMで毎週木曜午後8時から1時間(再放送は毎週日曜昼の12時から)、週替りのパーソナリティが、さまざまなジャズとその周辺の音楽をご紹介するプログラムです。
進行役は、第1週が村井康司、第2週が池上信次、第3週が柳樂光隆、第4週がeLPop(伊藤嘉章・岡本郁生)、そして第5週がある月はスペシャル・プログラムです。
鎌倉FMの周波数は82.8MHz。
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