第22話『見上げる、その先』

佐藤竜雄

学園戦記ムリョウ

第二二話『見上げる、その先』(第一稿)

脚本・佐藤竜雄


登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ)※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)

堀口正夫(ホリグチ・マサオ)
真弓 司(マユミ・ツカサ)
進藤秋美(シンドウ・アキミ)

真守百恵(サネモリ・モモエ)
津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守山 載(モリヤマ・サイ)

ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
妙見彼方(ミョウケン・カナタ)

生徒達


○天網市・屋敷町
夜。
人通りも無く、静かな真守家周辺。

○真守家・大広間
上座にはモモエ、下座には十全と載。
襖に掛けられているのはスクリーン状のモニター。昼間(二一話参照)の柔道大会の模様が流されている。
応援中、そして試合中のムリョウの映像。目を細めて眺めるモモエ。

モモエ「……」
十全「かくれ里に住みたる者は、我らの知らぬ天網流の技を使うそうだが……晴美と試合をさせてみたいものですな」
モモエ「ほほほ、どちらが勝つでしょう?」
十全「ふふ、面白そうですな」
モモエ「この少年は?」

静かに座る妙見彼方の映像。続いてその試合ぶり。繰り返して流される、妙見が足払いを掛ける瞬間。

載「宮ノ森中学校二年A組、妙見彼方。九月に転入。成績優秀文武両道。この柔道大会には助っ人として参加したそうです」
モモエ「なかなかの実力ですね」
載「最近は、銀河連邦に加入している星以外の宇宙人も、この街を跋扈しているとのことです。時期が時期ゆえ、妙見彼方なる少年に関しても、現在調査中なのですが……」

小首を傾げてモニターを見るモモエ。

モモエ「この少年も宇宙人ですね」
十全「うむ」
モモエ「その目的が何なのか、明かではないうちは迂闊なことはしないように。調査は徹底的に」
載「はい」

○同・廊下
月が明るい。廊下を歩くモモエ。
モモエ「あらあら」

縁側に腰掛け、空を眺めているセツナ。

セツナ「こんばんわ。終わりましたかァ?」
モモエ「部屋に入っていてくれればよかったのに」
セツナ「月がキレイで……」

セツナのかたわらに座るモモエ。

モモエ「……」
セツナ「今日のお土産は、お爺ちゃん特製の漬け物で〜す♪」

小さな包みを差し上げるセツナ。

モモエ「まぁ」

モモエ、軽く驚いた顔をしてみせるといたずらっぽく微笑む。あらためて夜空を見上げる二人。虫の声が遠くに。

セツナ「銀河連邦と反銀河連邦の争い……間違いなく地球は巻き込まれますよ」
モモエ「私が生きている間にこんな時が来るなんて……」

ポツリつぶやくモモエ。

セツナ「どう思います?」
モモエ「胸が、躍ります」
セツナ「これからが大変ですよ。この間みたいに人が沢山傷ついたり命を無くしたり……」
モモエ「だけど、未来があります」

力強く、しかし笑顔で答えるモモエ。

モモエ「子供たちの、未来が」

○オープニング

○天網市・全景
朝。晴れた青空。

○御統中・昇降口

(サブタイトル『見上げる、その先』)
廊下に張り出された壁新聞。記事の内容は先日の運動部の試合速報。人だかりの中にはジロウとアツシがいる。

アツシ「昨日の今日で早いねえ」
ジロウ「それよりも見ろよ、おい!」

記事のトップは柔道大会でのムリョウの勇姿。『助っ人統原大活躍!』『下山部長、正に感ムリョウと男泣き』などの見出しが躍る。

那由多「……」

通りかかった那由多、横目で新聞を見るもプイと立ち去る。

○同・二年C組
駆け込むように入ってくるジロウ。

ジロウ「おーい、見たかぁ、壁新聞!」
一同「?」

ハジメとトシオほか、クラスメートのほとんどがムリョウの席の周辺に集まっている。皆一様に手にしているのはミスチュウ新聞の号外。

ジロウ「ありゃ?! 何それ?」

後からおっとりと入ってくるアツシ、手には号外を二部持っている。

アツシ「購買部前で配ってたよ」

一部をジロウに手渡すアツシ。

ジロウ「えー、柔道部連敗脱出。統原無量君大活躍。文字通り部長感ムリョウ……って、どうだい、スゴイだろう?!」

自慢げなジロウに苦笑いの一同。

ハジメ「だから、そのスゴイ記事を今読んでたんだけど……」
トシオ「感動を分かち合いたいんだよ、あいつなりに」

ジロウとアツシ、やって来る。

ジロウ「そうそう、それだよ!分かち合う感動、共有って奴だ。いやぁー、日を置いて報道された記事を見るというのもオツなものだよ、なぁ君!」

ジロウ、隣の堀口をバンと叩く。

堀口「お、おう……」

突如ツカサが声を上げる。

ツカサ「あー、わかった!」
アキミ「何が?」
ツカサ「ジロウが浮かれてる理由!」

自分の持っている号外の一点を指差すツカサ。回り込んで注目する一同。

ハジメ「あ!」
ムリョウ「ジロウ君だ」

ムリョウが投げている姿の後ろにさりげなくジロウの姿が入りこんでいる。
ピントはボケ気味だがはっきりとわかるシルエット。

堀口「よくわかんねえぞ」
トシオ「いや、前歯でわかる」
アツシ「そうだね……」

あれやこれや言いながら写真を見ている一同。それをよそに一人語りモードに入るジロウ。

ジロウ「ムリョウがこれから有名になればなるほど、この写真も価値を生むってモンだよ。ああ、俺はあの時、立ち会っていたんだ。歴史的偉人の誕生の瞬間に。そしてその時、時代は動いた——」
一同「……」

あきれた表情でジロウを見る一同。ジロウ、斜に構えて照れた顔。

ジロウ「よせやい、恥ずかしいじゃねえか」

アキミ、ツカサにポツリ。

アキミ「よくわかったね」
ツカサ「ジロウってさ、自慢したいときは妙に回りくどいから、ホラ」
一同「おお〜ッ♡」
堀口「いよっ、お熱いこった」
ツカサ「!?」
一同「ヒューヒュー」「意外な顔合わせ〜」

皆にからかわれてツカサ、赤面。

ツカサ「バカッ!やめてよ!」
一同「(笑い)」

ムリョウ、号外の記事を読み直している。ハジメ、何事とのぞき込む。

ハジメ「どうしたの?」
ムリョウ「守山さん、スゴイね」
ハジメ「え」

号外の裏面には他の部の試合結果。
ナユタは陸上短距離とバスケとソフトボールの試合に出場している。シュートにホームランと大活躍。

ハジメ「ホントだ……」

○同・外
予鈴の鐘が鳴る。

○同・二年C組
英語の授業風景。
今回は『同時通訳』に挑戦——
黒板前で英語劇をしているアキミとツカサ。あたかもTVのその横でナレーションよろしく通訳(意訳)をするトシオ。

トシオ「そして我々の目にしたものは、正に玄翁で後頭部を殴打されたかのような衝撃を与えたのである。隊長、あれは一体?何だあれは?!何とそこには、巨大なオラウータンが手招きをしていた——」

芝居と和訳が全く合っていない。バカ受けの一同。ソネス先生もツカサの席に座って笑っている。

NR「10月なのに、残暑はいまだ冷めやらず。とはいえ、暑かろうが秋は秋だ。半袖
姿ばかりな御統中も、11月の文化祭に向けてまっしぐら——」

○同・渡り廊下
恒例の調理パン争奪戦。店先には『新メニュー登場!』と書かれた貼り紙。

○同・生徒会室
新メニューを試食中の八葉と瞬。

八葉「うーん、これはイケる」
瞬「これはハズレです」

渋い顔であわててお茶を飲み干す瞬。
かたわらのパソコンが受信開始、校内放送が始まる。

○同・放送室ブース
DJよろしく快調なトークのひかる。

ひかる「ハイ!それでは早速、昨日の運動部いろんな試合の結果発表!まずは柔道、宮ノ森との対抗戦!」

(放送画面)
ムリョウが技を掛けている写真がイン。

ひかる「結果は三体二でミスチュウの勝利! 注目の統原無量君は大将戦に出場、開始わずか五秒、電光石火の早業で快勝!なお、対抗戦での柔道部の勝利は実に三年ぶりでした〜、おめでとさん!」

続いて那由多の活躍写真と試合結果が次々に——

ひかる「そしてこの人の活躍も忘れてはいけません!生徒会副会長守山那由多さん!去年に引き続き今年もあれこれそれと助っ人に活躍!おとといのソフトボール、昨日の午前中のバスケに午後からは一〇〇メートルとリレーにと大活躍!問題は、県大会も掛け持ちなんですよね、たっいへーん!それではちょっとここで音楽タイム、いきま〜す♪」

○同・二年C組
放送を見ながら食事中のハジメ達。なぜか一人、天井を見上げて感慨に耽っているジロウ。

ハジメ「どうした、ジロウ?」
ジロウ「……見ただろう、お前ら俺の勇姿。何かこう、プロレスの試合でTVに映った時以上の充実感だよなぁ」

(回想)
『MISCHU NEWS』で使用される例の写真。ジロウの主観では大写しな自身の姿。

トシオ「お前、そんなに顔を世間に見せたいなら、ネットで公開しろよ」
ジロウ「バカだなあ、TVや新聞で『あっ、写ってる』ってところがいいんだよ。俺の顔は情報ではない、そう、時代の証人としてのシンボルなんだよなぁ——」

独り合点でうなずくジロウにあっけに取られるアツシ。

アツシ「何か難しいこと言ってるよ」
ハジメ「社会の授業の受け売りだろ。ま、何でもいいよ。僕は弁当が平穏無事に食べられる弁当があるからさ」

ハジメの食べている弁当は海苔弁にコンニャクの豚肉巻き、ポテトサラダに卵焼き、という布陣。卵焼きを口に放り込むと、しみじみとするハジメ。

ハジメ「あ〜〜〜、母さんありがとう……」

(回想)
『フタバちゃん弁当』の数々。
豪快で派手な色合い。

アツシ「お母さん、完全復帰なんだね」
ハジメ「まぁね。これを機会に料理の勉強をしようか、ってフタバと話してるんだけど……弁当はやっぱり母さんのがいいよ」
ジロウ「おっ、いいねえ!ささやかな幸せ、旨そうな弁当! ムリョウもよかったじゃねえか、今度は可愛い弁当でよぉ!」

ムリョウの弁当はセツナ特製。クマの顔を模したファンシーな装い。憮然とした表情で食べているムリョウ。

ムリョウ「何で……クマなんだろう?」
ジロウ「いいんだよクマで!姉さんの愛情弁当、残すんじゃねえぞ! あ〜あ、いいよなぁ、お前らは」

突如、開く扉。仏頂面で京一が立っている。緊張する教室内。

ムリョウ「やあ、京一さん!」
京一「今日は貴様に用があるのではない!」

ハジメを指差す京一。

ハジメ「え?」
京一「村田始!ちょっと顔貸せ!」

○同・屋上
やって来るハジメと京一。

京一「まぁ、座れ!」
ハジメ「はあ……」

コンクリートに腰を下ろす二人。
空には秋の雲。
見上げたままの京一。
仕方なくハジメも空を見上げる。気まずい時間が流れる。

ハジメ「……」

ポツリつぶやく京一。

京一「……お前は…」
ハジメ「は、はい!」

思わず向き直るハジメ。

京一「……い、いや、何はともあれ、食え!」

京一、袋からパンを取り出し、ハジメの鼻先に突き出す。

ハジメ「は、はぁ……」

受け取るハジメ。見るとパンには竹輪とコンニャクがはさまっている。

ハジメ「あの……これは?」
京一「知らん!おばちゃんが新発売とか言ってたんで適当に買った!」
ハジメ「はあ……」

おもむろにパンを食べる二人。
一噛み二噛み——

京一「まずいな」
ハジメ「おでんパン……ですね」
京一「おでんパンか。だめだな」
ハジメ「そうですね。竹輪はともかく、コンニャクにパンはちょっと……」

苦笑するハジメ。

京一「……どうしてだ?」
ハジメ「は?」
京一「お前は那由多と……どうして普通に話ができるんだ?」
ハジメ「?」

突然の話にキョトンとするハジメ。

京一「統原無量とも、お前は普通に話をして友達づきあいをしている……何故だ?」
ハジメ「何故って言われても……」

京一「あいつらは凄いチカラを持っている。事情を知らない他の奴らならともかく、何故だ?何故お前は、そうやって平然としていられるんだ?!」

(回想)
空蝉の儀式の那由多
シーカー2を倒すムリョウ
秋季大会での二人の活躍

ハジメ「確かにあの二人、スゴイですよね」
京一「スゴイなら何故だ?!」

悔しそうな顔の京一。

京一「俺には……できない……」

(回想)
廊下で晴美を無視する京一。呆然と立ち尽くす晴美。(二十一話参照)

ハジメ「……峯尾さん、ですか?」
京一「……」

黙ってうなずく京一。

京一「俺は、あいつに『任務を捨てろ』なんて言って、いつもあいつを困らせていた。でも……いざ、あいつが俺を信じて、俺と向き合ってくれるようになったら……ダメなんだ。俺は今、晴美の顔が真っ直ぐに見ることができない」
ハジメ「何も、先輩が卑屈になることないじゃないですか」
京一「あいつは、強いんだぞ!俺のように借り物のチカラを使うんじゃない。生身で宇宙人を倒したんだ。あいつは自分に真剣なんだ!それに比べて俺は……」
ハジメ「真剣じゃないですか」
京一「!」
ハジメ「そんなに真剣だから、峯尾さんは好きなんじゃないですか、先輩のこと?」
京一「……そうなのか?」
ハジメ「そうだと思いますよ。いいじゃないですか、好きなんだから」
京一「好きならいいのか、お前?!」

何故か赤面して食ってかかる京一。

ハジメ「いや、確かに一方的なのはよくないと思うんですけど、少なくともお互いが嫌いじゃないんだから……その辺は何となくでいいと思うんだけどなァ……ダメですか?」

しどろもどろのハジメ。その様子をしばし見つめる京一、ふっと穏やかな顔になり、微笑む。

京一「うらやましいよ、お前」
ハジメ「は?」京一「お前、すごいな」
ハジメ「はぁ……」
京一「食えよ、パン」
ハジメ「はい」

おでんパンを食べる二人。

ハジメ「やっぱり、まずいです」
京一「そうだな」

笑い合う二人。
そっと物陰から覗いている三バカ。

ジロウ「んー?」
トシオ「だから言ったろ、大丈夫だって」

○同・外
昼休み。遊んでいる生徒たち。
花壇の前に座り込んでいる那由多、真剣な表情。その視線の先には真守の御幣が刺さっている。

晴美「那由多ちゃん」

声を掛ける晴美。那由多の隣に座る。

晴美「どうしたの?」
那由多「御幣が……何も聞こえないの」
晴美「何も?」
那由多「何もない……わざとらしいくらい」
晴美「!」

晴美、振り向き身構える。
二人の背後に妙見彼方が立っている。

那由多「あなた……」
妙見「統原無量君に、会いに来ました」

静かに微笑む妙見。

○アイキャッチ

○天網海岸・西浜
人気のない西側の海岸。
砂浜に腰掛けているムリョウと妙見。
二人とも海を見つめている。そこから少し離れたところで様子を見ている那由多と晴美。

那由多「何話してるのかな」
晴美「何も話してないみたい」
那由多「……じれったいなぁ」

突然晴美、防波堤の方に歩き出す。

那由多「どこ行くの?」
晴美「ジュース買ってくる」
那由多「あ、あたしも」

○海岸線・自販機前
ジュースを買っている晴美と那由多。

晴美「学校、さぼっちゃったね」
那由多「しょうがないわ、緊急事態だもん」
晴美「統原君なら大丈夫じゃないの?」
那由多「だから心配なの!真守の知らないところで何をコソコソと……」

イライラした様子の那由多。それを見て晴美、クスクス笑う。そこへ素っ頓狂なジルトーシュの声。

ジルトーシュ「ああーっ、いけないんだー!」

通りがかりのジルトーシュとウエンヌル。ジルトーシュは釣り竿とバケツをぶら下げ、ウエンヌルは背中に画材を背負っている。

那由多・晴美「こんにちは」
ウエンヌル「こんにちは」

律儀に挨拶を返すウエンヌル。ジルトーシュは大げさにうろたえる仕草。

ジルトーシュ「今日は午後まで授業だろ?何サボってるんだい、君達?」
那由多「私達、立会人なんです」
ジルトーシュ「たちあいにん?」

○天網海岸・西浜
那由多「それっ!」

ムリョウにジュースを投げる那由多。

ムリョウ「サンキュー」
那由多「そっちの人も!」
妙見「どうも」
那由多「礼なら晴美ちゃんに言ってちょうだい!」
ムリョウ「峯尾さん、ありがとう!」

微笑んで軽く手を振る晴美。その隣にはジルトーシュとウエンヌル、ジュースを飲んでいる。

ジルトーシュ「ごめんね、僕達までご相伴に預かったりして」
晴美「いいえ、いいんです」
那由多「やれやれ、と」

晴美の隣に腰を下ろす那由多、晴美からジュースを受け取る。

那由多「あの子……誰だか知ってますか?」
ジルトーシュ「え、あの子?」
那由多「銀河連邦の外交官ならいろんな星の人とも知り合いじゃないんですか?」
ジルトーシュ「んー?」

ニヤリと笑うジルトーシュ。

ジルトーシュ「それはどういう事かなァ?」

○御統中学・二年C組
休み時間。
扉の前でハジメと八葉が話している。

八葉「そうか、ムリョウ君もいないのか」
ハジメ「五時間目が始まる前にいなくなってて……僕はその時、教室にいなかったんでわからなかったんですけど」
八葉「那由多も晴美も早退だそうだよ。三人でどこ行ったんだか……」

瞬がやって来る。

八葉「で、わかったか?」
瞬「天網海岸。西浜の方。二組の男女がダブルデート♡」
八葉「二組?」
ハジメ「あ」

(回想)
柔道大会での妙見の姿。
八葉「どうした、村田君?」
ハジメ「妙見……彼方?」
八葉「昨日の助っ人君か……フーム」

思案顔の八葉だが、すぐに結論。

八葉「(瞬を見て)僕らも早退だな」
瞬・ハジメ「え?」

○同・三年D組
扉を開けて八葉、大声。

八葉「京一!お前も早退だーッ!」

ギョッとする京一。

○真守家・次の間
モモエと十全、対面している。
モモエ、端末を見ている。

十全「妙見彼方についての調査結果です」
モモエ「早いですね」
十全「そう何でも、後手に廻ってばかりでは癪ですからな」

端末に表示される妙見のデータ。

モモエ「で、どうだったんです?」
十全「この情報データは全てウソだ。この日本には、妙見彼方という人間はいない」
モモエ「どこの星の人なんですか?」
十全「銀河連邦ではないようです」
モモエ「そうですか……」

静かに微笑むモモエ。

モモエ「どこの星にも、向こう見ずな人はいるようですね」

○天網海岸・西浜
二人並んでいるムリョウと妙見。

妙見「向こうに見えるのは何ですか?」
ムリョウ「伊豆大島だよ」
妙見「そのちょっと手前にあるのは……何なんでしょうかね、一体」
ムリョウ「昨日もいたね、あれ」

   *   *   *

太平洋海上に浮かんでいるロボット。
天網海岸のムリョウと妙見を監視している。(以下、ハンガー1と呼称)

   *   *   *

ムリョウ「あれ、君んところのロボット?」
妙見「うーん、違うと思いますよ」
ムリョウ「ふーん」

小石を拾うと海に投げるムリョウ。二、三回水面に弾むと海に消える。

妙見「君ですか?この間、僕の仲間の船を攻撃したのは?」
ムリョウ「君の仲間って、何処にいたの?」
妙見「海王星を少しはずれたカイパーベルト、小惑星帯を少しはずれた辺りですけど」

妙見も小石を投げる。

ムリョウ「ふーん。ちょっと違うな」
妙見「ちょっと?」

小石を拾うムリョウ。

ムリョウ「俺の落とした船は、冥王星付近にいたよ」
妙見「(苦笑)」

少し力を入れて投げるムリョウ。さっきの倍弾んで沈む石。

ムリョウ「君んとこ、サナトス星の兵器使ってる?」
妙見「サナトス……それって銀河連邦製の兵器じゃないですか?ウチでは使いませんよ。あんな趣味の悪い」

少し力を入れて投げる妙見。さっきの倍弾んで沈む石。

ムリョウ「じゃあ、いいか。それ、やっつけちゃったんだよね。あの子が——」
妙見「え?」

振り返るムリョウ、那由多を見る。続いて妙見も。二人に見られてドギマギする那由多。

那由多「な、何よ一体?!」

おもむろにムリョウと妙見の口真似を始めるジルトーシュ。

ジルトーシュ「『どうだい、あの子かわいいだろ?』『そうだね、僕はその隣のショートカットの子がいいなあ』『よーし、それじゃあこれからダブルデートだ!』とかなんとか話しちゃってるんだよ。うーん、青春だなぁ……」
那由多「な、な、何言ってるんですか!あんた達、そんなこと、絶対しないわよーっ!」

うろたえ絶叫する那由多をよそに会話を続けるムリョウ達。

妙見「僕はただ……銀河連邦がシングウのチカラをまた持ち出そうとしてるって聞いたもので。ぶらっと調べに来たんですよ」
ムリョウ「で、どうだったの?」
妙見「事情がちょっと複雑そうだなぁ、って感じですか」
ムリョウ「そうらしいね」

顔を見合わせる二人。うなずくと立ち上がる。二人振りかぶるとアンダースロー。投げた小石は幾度も弾み、やがて水面上を物凄い勢いで飛んでいく。

○太平洋上
あっという間にハンガー1、小石に撃ち抜かれる。沈んでいくハンガー1より信号。入れ替わりに海中より、巨大なやじろべえ状のロボットが出現。(以下、ハンガー2と呼称)

○天網海岸・西浜
沖合をながめるジルトーシュ。

ジルトーシュ「あらーっ」
那由多「何か見えるんですか?」
ジルトーシュ「君の出番だ」
那由多「え?」

鈴の音が聞こえる。

那由多「あ」

○天網市・各所
道端や軒下に刺さった御幣が揺れる。

○天網海岸・西浜
那由多「太平洋上?伊豆大島沖合?」

ハッとする那由多、振り返るとトタン板の切れ端や松の枝でカモフラージュしていた八葉達(ハジメもいる)。

那由多「何やってんのあんた達」
瞬「見守ってあげてたんだよォ」
八葉「そんなことより、行くぞ那由多!」
那由多「!」

駆けていく那由多、八葉、瞬。
京一、去り際に晴美を見る。

晴美「……」

心配げな晴美。京一は笑顔で応える。

京一「!」
晴美「……」

走り去る京一。
晴美も笑顔。
その様子を見て微笑むハジメ、ジルトーシュ達のところへ。

ジルトーシュ「何だい、君まで早退かい?いかんなぁ」
ハジメ「立会人の立ち会いですよ」
ウエンヌル「それでは、立会人の意味はないのでは?」
ハジメ「ははは、そうですね」

ムリョウと妙見は海の水平線をながめている。

妙見「銀河連邦と仲良くする気はないんですが、戦う気もありません。そっちもそうなんでしょう?」
ムリョウ「そうだろうね」
妙見「だけど中には、戦いたがっている人もいるみたいですね」
ムリョウ「……」

○太平洋海上
宙に浮かんだハンガー2、天網市に向かって動き出す。その目前に出現するシングウ。

シングウ「ウオオオオオ……」

ハンガー2、両腕を回転させるとフィールドを展開。パンチに行くシングウ、しかし弾き飛ばされる。ハンガー2、フィールドをそのままカッター状に変形させて発射。
シングウ、手を一振り。フィールドを発生させてカッターを弾く。

シングウ「ウオオオオオ……」

○天網海岸・西浜
ジルトーシュ「おおー、シングウもどんどん強くなっていくねえ」

ジルトーシュは双眼鏡でのぞく真似をして実況中。

ウエンヌル「ところで、何で那由多ちゃん達はどこかいってしまったんですか?私達が彼らの正体を知っているのは、彼らも知っているのでしょう?」
ジルトーシュ「恥ずかしいんじゃないの」

○同・防風林
防風林のなかで八葉達、光に包まれながら立っている。

○同・西浜
ハジメ「あっ、そうだ」
晴美「どうしたの?」

ポケットをまさぐるハジメ、携帯(一七話参照)を取り出す。

ハジメ「これがあったんだ」
晴美「?」

変形し、ウインドウを投影する携帯。

晴美「あッ」
ジルトーシュ「何だ、いいの持ってんじゃないの」
ハジメ「父にもらったんです」
ジルトーシュ「ふーん」

ウインドウに表示されたシングウのエネルギーレベルが上昇——

○太平洋上
全身が光に包まれるシングウ、両手を大きく広げると回転。そのまま体当たりに行く。

シングウ「ウオオオオオ……」

ハンター2、フィールドを強化して対抗するが、打ち破られる。体に大穴。

シングウ「ウオオオオオ……」

振り返りざまにハンガー2に向かって柏手を打つ。ひしゃげて潰れるハンガー2、縮小爆散。光の粒が舞う。

○天網海岸・西浜
ウインドウを囲んで大喜びのハジメ達。

一同「やった!」

チラッとさり気なくムリョウ達を見やるジルトーシュ。ムリョウと妙見は別れの挨拶。

ムリョウ「帰るのかい」
妙見「ええ。転入して早々、転校じゃちょっと学校のみんなには悪いけど——」
ムリョウ「今度はいつ来るんだい?」
妙見「さぁ、それは。しかしこれだけはあなた方に忠告しておきます。銀河連邦を信用しすぎてはいけない」
ムリョウ「かと言って君らを信用しても……どうなのかな?」
妙見「自分の心に忠実に。では」

フッと消える妙見。間際にジルトーシュに向かって笑いかける。

ジルトーシュ「フフ」
那由多「よーし、終わった終わったーッ」

戻ってくる那由多達。

ハジメ「すごいよ、守山さん!」
那由多「ふふん、日頃の鍛錬の賜物よ。で、あの子は?」
ムリョウ「帰ったよ、そらに」

陽も傾いて西の空が紅い。

○真守家・外
夕焼け。

○同・モモエの部屋
お茶を飲んでいるセツナ。対するモモエは電話中。

モモエ「はい、わかりました……どうもありがとうございました。失礼いたします」

受話器を置くモモエ。

モモエ「事態は急展開、ですね」
セツナ「やっぱりですか?」
モモエ「まぁ、この位わかりやすい方がよろしいと思いますよ。日本時間で朝の六時だそうです」
セツナ「そうかー、六時か。早く寝なくちゃ」
モモエ「今日も泊まっていきますか?」
セツナ「喜んで!さぁ晩ご飯は何がいいですかァ?」

腕まくりの真似をしておどけるセツナ。

○天網市街
夜空。

○村田家・ハジメの部屋
窓から夜空を見ているハジメ。

NR「銀河連邦、それに対抗する星々。見上げる空のそのまた向こうの世界は、以前にも増してどんどん広がっているような気がする。明日はもっと——続きは次回」

         (第二二話・完)

☆二〇〇字詰七七枚換算

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
佐藤竜雄

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)