【第五十五話】セネクトメア 第四章「天望のソールリターン」

【前回までのあらすじ】

昏睡状態に陥った貴ちゃんの意識を取り戻すため、コネクトを使って現実世界に戻った俊輔は、見覚えのないマンションで目を覚ます。

そこでは姫子によく似た女性がいて、どうやら一緒に暮らしているらしい。
元の現実世界とは全く違う状況に困惑する中、少しずつ現状を把握していく。
果たしてこの世界は一体どんな世界なのだろうか...。

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スマホを持って部屋を出ると、玄関で姫子に似た女性がスタンバッている。
俺は急いで自分のものであろう靴を履く。
すると女性が玄関の扉を開き、外に出た。

空は快晴で、綺麗な白い雲が浮かんでいる。
外気は冷え込んでいるが、暖かい日差しのおかげで凍えるほどの寒さではない。

俺は女性が早足で歩く後を追う。
エレベーターの前に到着し、女性は「1」のボタンを押した。

女性「昨日も遅くまで何か作ってたみたいね。ちゃんと寝なきゃダメよ。」

俊輔「あ、あぁ、そうだね。」

何か作ってたのか俺。普段、料理以外で何か作ることなんてないんだけどな...。

ポーン

エレベーターの扉の上にある「30」の数字が光り、目の前の扉が開く。
どうやらここは三十階らしい。どうりで窓から見る眺めが良いわけだ。

俺たちはエレベーターに乗り込み、女性は「1」のボタンを押してから、扉を閉めるボタンを押した。
エレベーターが下に降りていく。

しかし眠いな。昨夜は何時間睡眠くらいなんだろ。俺は少し壁にもたれながら目を閉じた。
眠いだけでなく、何もかもが違う状況に迷い込んだので、色々考えすぎて疲れたのもある。
学校に着いたら、授業中に寝れるだけ寝よう。

女性「レプリカの制作期限、あと1ヶ月になったね。間に合いそう?」

俊輔「え?」

俺は目を開けて女性の方を向いた。レプリカって、何のレプリカだろう。

俊輔「まだ分からないけど、頑張って間に合わせるよ。」

女性「他にできる人はいないけど、無理しすぎないでね。」

俊輔「ありがとう。」

ポーン

エレベーターは一階に辿り着いた。
女性が少し早足で歩くので、俺はその後ろを追う。

駐車場にはいくつもの車があり、見たことあるようなものもあれば、見たことないものもある。
車なんてそんなものだ。

ピピッ

女性がある車に近づくと、車のライト付近が点滅した。恐らく鍵を開けたのだろう。この車が彼女の車か。

その車は見たことのない見た目をしていて、色は普通の白で、低めの車高。プリウスに近い感じ。俺は助手席側から車内に乗り込んだ。

中は見た目とは反対に、黒で統一されている。前方の中央にはナビのような画面がついていて、普通の車のように見える。俺はシートベルトを締めた。

女性もシートベルトを締め、何かのスイッチを押した。
何か違和感あるな。何だろ?

するとナビ画面が立ち上がり、映像が浮かび上がると同時に、機械的な音声が流れ出した。

ナビ「おはようございます。2029年12月28日水曜日。降水確率0%。気温は15度です。」

俊輔「2029年てw10年間違ってるよこのナビw」

女性「10年?」

女性が不思議そうな顔をしてこちらを見る。

俊輔「うん。今ナビが2029年って言ってたw」

女性「え?合ってるじゃん。」

俊輔「え?」

女性と目を合わせながら固まる。
合ってる?
てことは今は2029年!?

俺はパラレルシフトしたんじゃなかったのか?

もしかしてここは、十年後の未来!?


唖然とした俺なんてお構いなしに、車は走り出す。

運転席の女性はスマホをいじっていて、運転をしていない。
良く見ると、そもそも運転席にハンドル自体がない。
さっき感じた違和感はこれだった。十年後の未来では、完全な自動運転技術が公道を走っているのか。

ここが十年後の未来ということは、俺は今二十八歳ということになるから、きっと今向かっているのは学校ではなく職場だろう。一体何の仕事をしてるんだろう。あらかじめ色々聞いておこうかな。

俊輔「姫子。」

女性「ん?」

自然に返答したところを見ると、やはりこの女性は姫子らしい。

俊輔「俺と結婚して良かった?」

姫子「え!?何急に!」

姫子が目を大きく見開いて、驚いた顔をしている。そういう感じなのか?

俊輔「いや、どうかなーって思って。」

姫子「そりゃあ幸せだけど...。何か今日変だよ?」

否定しないってことは、やっぱり俺たちは結婚してたんだ。ほとんど会ったこともない相手と結婚してるなんて、不思議な気分。

俊輔「眠すぎてボーッとしすぎてるのかも。今から会社行くんだよね?」

姫子「もちろんそうだけど...。」


今気づいたけど、自動運転で移動できるなら、姫子がわざわざ俺を送っていく必要はない。
俺が仕事をしている間に車が必要なら、恐らく自動運転で無人でも車は自宅に戻れるはず。ということは...同じ会社で働いてるってことかな?

俊輔「何か今日は仕事する気にならないから、休んじゃおっかな。」

姫子「何高校生みたいなこと言ってるの。休みたくても休めないくらい、今は大事な時期でしょ。昨日まであんなに熱心に取り組んでたのに、やっぱり今日は変だよ。」

どうやら俺は仕事を頑張ってる大人になったらしい。仕事も忙しそうだから、それなりに充実してるのかな。

姫子「セネクトメア計画は、あなたがいないと始まらないんだから、しっかりしてよ。」

俊輔「...え?セネクトメア?」

姫子「そうだよ。世界を変える一大プロジェクトでしょ。何よ今更。」

セネクトメアは十分すぎるほど知ってるけど、セネクトメア計画って何だ?
世界を変える一大プロジェクト?それが俺の仕事?


すると車は大きな駐車場に入った。
入り口には高速道路の入り口のようなゲートがあり、一時停止してからゲートが開いた。
その先には何台もの車が停めてある。どうやらここが会社の駐車場らしい。

車を停めて、二人で車外に出る。駐車場の近くにある大きな建物が、俺が働く会社だろうか。建物には大きな文字で『Lorelei』と書かれている。何て読むんだろう。ロリエ?

姫子「じゃあ私は先にセキュリティ課に顔出してから企画室に向かうから、先に行っててね。」

俊輔「え...。あ。」

姫子はにこやかに笑いながら小さく手を振り、俺に背中を向けて早足でどこかに向かった。さすがに「俺はどこに行けばいいの?」とは聞けなかった。さてどうしよう。


続く。


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