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研究や教育、医療だけでなく、企業のマーケティング事業、マッチングアプリによる性格マッチング、生徒一人一人に合致する教育を提供する学習塾...現場で活用されている心理尺度を正しく使うために。『心理尺度構成の方法』まえがき公開

心理学、教育・臨床現場、マーケティングなどで活用される心理尺度の構成に関する基礎から実践まで、検討すべきポイントを丁寧に解説

心理学の研究のみならず、教育や臨床現場、マーケティングなどで活用される心理尺度の構成方法について、その基礎から実践において検討すべきポイントを丁寧に解説する。
心理尺度は、決まりきった手続きを一通り行えば作成できるものではなく、留意すべき点は多いが、論文や書籍でそうした部分が具体的にまとめられることは少ない。
本書では、そうした細かな点にまで配慮した解説がなされる。心理尺度に関わるすべての人にとって、必携・必読の書である。

▷書籍詳細


まえがき


 心理尺度を使用する場面は,社会のなかでますます増加している。研究場面や教育場面だけでなく,医療場面におけるさまざまな測定,心理面を活用した企業のマーケティング事業,マッチングアプリによる性格マッチング,生徒一人一人に合致する教育を提供する学習塾など,現実場面での心理尺度の応用はとどまるところを知らない。インターネットを検索すれば,誰もが心理尺度によく似た質問項目を用いた心理判定サイトを試すことができる。就職を希望する学生たちも就職適性検査という名がついた質問項目に回答し,結果は何らかの形で利用されている。果たして,これらの心理尺度はどのように作成されているのだろうか。また,どのように作成されるべきなのだろうか。

 本書は,心理学のみならず多くの研究領域で,また現場で使用される心理尺度がどのように作成されるのか,またどのように作成されるべきであるのか,そして背景にどのような根拠があるのかを概説するものである。いわゆる心理尺度を測定するためのハウツー本ではない。なぜなら,実際に心理尺度は決まり切った手続きを一通り行えば作成できるものではないからである。本書を通して心理尺度について学ぶことで,そもそも心理尺度を作成するべきであるのか(他の測定方法はないのか),作成するとすればどのような心理尺度をデザインするべきか,そしてどのようなプロセスで尺度を作成していくべきか,さらには実際の使用時において留意するべきことは何であるのか,といったことをより深く理解することが期待される。適切な心理尺度作成にはクリエイティブな作業を必要とする。「これをすれば尺度が作成できる」と決まった考え方をするのではなく,より適切な測定を目指して工夫しつつ心理尺度の作成を試みていただきたい。

 心理尺度構成においては,検討すべきポイントは多数存在しており,さまざまな分岐点において何を選択するかが求められる。各章において示されたポイントについて把握することで,それらの判断の有効な材料とすることができるだろう。

(中略)

 なお,より探索的な心理尺度の作成方法もこれまでには行われている。例えば何らかのテーマに基づいてインタビューや自由記述を行うなかで質問項目を収集し,調査を行い,因子分析で構造を検討していく形式の研究である。ある概念や現象について網羅的に情報を収集し,探索的に構造を検討していく際にはこのような研究方法が適切である。

 このような研究もかつては多く行われていた印象があるが,近年の尺度構成研究の多くは,事前に概念を設定し,その概念を測定するために心理尺度を構成するというパターンが多い印象を受ける。研究の過程である現象をうまく整理していく際には,探索的な検討もうまく活用するとよいだ
ろう。

 本書が主に焦点を当てるのは,事前に測定しようとする現象や概念が明確になっており,そのターゲットとなる概念を過不足なく測定することを目指す尺度構成である。最初に述べたように,毎年数多くの心理尺度が心理学だけでなく多くの研究領域で作成され,実際に応用されている。そのような現状において,少しでも本書の内容が尺度構成のあり方に一石を投じることができればうれしく思う。

 最後に,本書の企画から編集まで,根気強く付き合っていただいた誠信書房編集部の小林弘昌氏に感謝します。心理学のみならず,心理尺度に関わる多くの人々が本書を手に取ること,そして本書の内容が何かの参考となることを期待しています。

2024 年5 月
                           編者 小塩 真司

■編者紹介

小塩 真司(おしお あつし)
2000 年 名古屋大学大学院教育学研究科博士課程後期課程修了
現 在 早稲田大学文学学術院教授,博士(教育心理学)
著書等 『質問紙調査の手順』(共編,ナカニシヤ出版,2007)
    『はじめて学ぶパーソナリティ心理学』(著,ミネルヴァ書房,2010)
    『性格を科学する心理学のはなし』(著,新曜社,2011)
    『パーソナリティ心理学』(著,サイエンス社,2014)
    『ストーリーでわかる心理統計』(著,ちとせプレス,2016)
    『性格とは何か(中公新書)』(著,中央公論新社,2020)
    『非認知能力』(編,北大路書房,2021)
    『SPSS とAmos による心理・調査データ解析(第4 版)』(著,東京図書,2023)
    『Big Five パーソナリティ・ハンドブック』(共編,福村出版,2023)
    『イラスト学問図鑑 こども心理学』(監修,講談社,2024)  他多数

■著者紹介

※執筆順,所属等は初版発行時のもの

小塩 真司(おしお あつし)
編者紹介参照

松木 祐馬(まつき ゆうま)
中部大学人文学部心理学科助教,博士(文学)

橋本 泰央(はしもと やすひろ)
帝京短期大学ライフケア学科准教授,博士(文学)

吉野 伸哉(よしの しんや)
公益財団法人医療科学研究所研究員,博士(文学)

下司 忠大(しもつかさ ただひろ)
立正大学心理学部対人・社会心理学科講師,博士(文学)

三枝 高大(みえだ たかひろ)
福島県立医科大学保健科学部診療放射線科学科助教,博士(文学)

荘島 宏二郎(しょうじま こうじろう)
大学入試センター研究開発部試験技術研究部門教授,博士(工学)

田崎 勝也(たさき かつや)
青山学院大学国際政治経済学部国際コミュニケーション学科教授,Ph.D.
(Educational Psychology)

阿部 晋吾(あべ しんご)
関西大学社会学部社会学科教授,博士(社会学)

仲嶺 真(なかみね しん)
公益社団法人国際経済労働研究所研究員/荒川出版会会長,博士(心理学)

川崎 直樹(かわさき なおき)
日本女子大学人間社会学部心理学科教授,博士(心理学)

外山 美樹(とやま みき)
筑波大学人間系教授,博士(心理学)

中井 大介(なかい だいすけ)
埼玉大学教育学部准教授 ,博士(教育学)

太幡 直也(たばた なおや)
愛知学院大学総合政策学部総合政策学科准教授,博士(心理学)

平野 真理(ひらの まり)
お茶の水女子大学基幹研究院准教授,博士(心理学),公認心理師,臨床心理士

萩原 千晶(はぎわら ちあき)
早稲田大学文学学術院助教,博士(文学)

●書籍目次

まえがき 
1章 心理尺度とは何か 
2章 心理尺度の形式 
3章 心理尺度構成の手順 
4章 心理尺度を用いた調査の実際 
5章 心理尺度における信頼性 
6章 心理尺度の妥当性 
7章 信頼性と妥当性の相互関係 
8章 心理尺度構成のための統計手法 
9章 心理尺度の構造と得点化の方法 
10章 反応バイアスの検出と補正 
11章 短縮版心理尺度の開発と意義 
12章 心理尺度構成を報告する際に考えるべきこと 
13章 臨床現場に役立つ心理尺度の特徴
14章 心理尺度の功罪 
15章 心理尺度開発の実例:オリジナル尺度
 15.1 楽観・悲観性尺度 
 15.2 生徒の教師に対する信頼感尺度 
 15.3 噓をつくことに対する認識尺度 
 15.4 二次元レジリエンス要因尺度 
16章 心理尺度開発の実例:翻訳版尺度
 16.1 病理的自己愛目録日本語版(PNI-J) 
 16.2 日本語版改訂非緩和共同性尺度 
 16.3 日本語版Big Five Inventory-2(BFI-2-J) 
 16.4 IPIP-IPC-J 

▷本書の詳細はこちら

『心理尺度構成の方法 基礎から実践まで』

出版年月日 2024/08/01
書店発売日 2024/08/05
ISBN 9784414300284
判型 A5
ページ数 286ページ
定価  3,850円(税込)

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