村上龍さんの短編小説

2020/10/11 20:09 に 旧アカウントにて投稿した記事を転載

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といっても読んだのは「空港にて」と、今日の朝に読み終えた「55歳からのハローライフ」のみ。

あと、僕はけっこう作家さんに偏りがあるけれど、今まで読んだ短編集の中ではダントツで「空港にて」が良かった。もうこれは4~5回は読んだと思う。傑作。

村上龍さんの長編は「限りなく透明に近いブルー」「コインロッカー・ベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」「希望の国のエクソダス」ぐらいしか読んでいないのでこれまたなんとも言えないけれど、「愛と幻想」と「希望の国の」がおもしろかったと少し印象に残っている。しかし、「限りなく」と「コインロッカー」はちょっとついていけない感じがしたと記憶している。
そして今年出版された「MISSING 失われているもの」も読んだけれど、これはすぐにメルカリで売ってしまった。
あと、若き日の村上春樹さんとの対談「ウォーク・ドント・ラン」を読んだぐらい。

この村上龍という人は、おそらくいろいろと癖のある人で(このレベルの作家で癖のない人がいるだろうか)経済小説を書かれる際もその下調べなどが本当に凄まじいようで(確か、ここまで調べたんだ!褒めてほしい、みたいなことを愛と幻想の~のあとがきに書かれていた記憶が)その流れからカンブリア宮殿の出演や、今日よみ終えた55歳からのハローライフみたいな着想、もしくは新聞掲載の中編小説、みたいな流れになるんだろうけれど、どうもこの方はマッチョでゴリゴリの筆致の中に、ふと母性的な描き方を急に入れてくるところがあり、そのたびに僕は感激してしまうのだ。

今回よんだのは「55歳からのハローライフ」(特にマッチョでゴリゴリではないのでご安心を)。収録されている「空を飛ぶ夢をもう一度」は号泣。最後の「トラベルヘルパー」の締め具合は、短編集「空港にて」でいうところの「空港にて」(つまり表題作が最後に収録)と、呼応している感じがした。あぁこういう書き方すきなんやなぁ、と。

しかし僕はもう村上龍の小説は、これ以上は読まないと思う(笑)いやこの2作はすばらしかった。
そもそもブックオフで上記に記した長編小説を売りに行って、得たオカネで「55歳のハローライフ」を、買うつもりもなかったのに買ってしまったのだ。

それはよかった。この作品はまた読み返すと思う。

だがしかし、村上春樹を読み返すのと村上龍を読み返すのは何かが決定的に違っている。それはやはりディテールの違いなのだろうと思う。
読み返したいと思うか思わないかは、やはりディテールなのではないか、というのが僕の強く思うところ。

とはいえ、僕がこの村上龍の2冊の短編小説から学んだことというのもまた、果てしなく大きいはずだ。

「小説から学ぶ」なんていうと、おかたく聞こえてしまうかもしれないけれど、僕自身、そろそろ謙虚に学んでいかなくてはならないというか(笑)ほんとにとりかえしのつかないことの手前で踏みとどまるということもそろそろ覚えたほうがいい年頃だと感じるのだ。(^^;)

というわけで今回は特に乱暴な文章になってしまったし、これ以上、村上龍さんの小説は新たには読まないだろうけれど、この変なおじさん(失礼)にはとても感謝している。

いや、それに限らず良質の書物というものは、人生に、教育に教養にそして知性に、実に有効であるということを今日は声を大にして言いたい。

大仰な話になってしまったけれど、優れた小説というのは今後、ますますおもしろくなってくるだろう。

ちょっと話が止まらない感じになってきたけれど「再読」というのも実におすすめしたい。文章は変わっていないけれど、生身のこちら側は日に日に変化している。

そういえば「55歳からのハローライフ」の最後の「トラベルヘルパー」に出てくる低賃金のトラック運転手の主人公も、古本屋で買っては、ずっと読書を続けていた。それが彼自身の知性をどこまで育んだかは知るよしもないけれど、とにかく読書というものは、それほどオカネをかけずに、場所もとらずに、手軽に行えるという点でも非常に魅力的だ。

こんなふうに読書という行い自体も実に自由だ。自由でなくてはならない。

だいぶ勢いで書いてしまったし、話がでかくなった気もするけれど、あえてそのままにしておく。

そして最後に、今回紹介した村上龍さんの短編集2作のあらすじを、それぞれの裏表紙から転載しておきます。

いずれも読みやすいので、秋の夜長の読書にぜひどうぞ。(まずは「空港にて」から)

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「55歳からのハローライフ」(幻冬舎文庫)
晴れて夫と離婚したものの、経済的困難から結婚相談所で男たちに出会う中米志津子。早期退職に応じてキャンピングカーで妻と旅する計画を拒絶される富裕太郎……。みんな溜め息をつきながら生きている。ささやかだけれども、もう一度人生をやり直したい人々の背中に寄り添う「再出発」の物語。感動を巻き起こしたベストセラーの文庫化!

「空港にて」(文春文庫)
コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム、披露宴会場、クリスマス、駅前、空港―。日本のどこにでもある場所を舞台に、時間を凝縮させた手法を使って、他人と共有できない個別の希望を描いた短編小説集。村上龍が三十年に及ぶ作家生活で「最高の短編を書いた」という「空港にて」の他、日本文学史に刻まれるべき全八編。

(書影は順に https://www.gentosha.co.jphttps://books.bunshun.jp から拝借)

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【関連note】
読書2020
https://note.com/seishinkoji/n/n89641214d8ad

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