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スペイン巡礼2018回想記(27)ビジャダンゴス〜アストルガ

 2018年6月1日。
 5月上旬に日本を出てスペイン巡礼路を歩きだし、とうとう6月になった。長くても2週間までの海外旅行が多い私には、初めての長さである。

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(ビジャダンゴス・デル・パラモでの朝食)

 スペイン巡礼生活を1か月近くした結果、歩くのがどんどん楽しくなった、前職場で受けたストレスの毒が抜けた、などのよい変化もたくさんあったが、リアルタイムで更新していたインスタを見ると、より切実な問題も発生していた。

 消化不良である。

 もともと胃腸が弱くストレスに弱い私は、前職在職中よく腹を下していた。漢方クリニックに通って多少コントロールできるようになったとはいえ、体質を変化させるというのはなかなかむずかしいらしい。
 私の通うクリニックの先生がいうのは、よくいわれる体質改善などというものではなくて、体質は変わらないが漢方で手助けする、調子が悪いときにはフォローする、というようなものとのこと。

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(朝食をとったホテル併設のバル)

 そんなわけで、漢方で整えていたとはいえ、私の腹が弱いのは変わらない。
 スペイン巡礼中、バルの基本の飲み物は「カフェ・コン・レーチェ」(コーヒーwith牛乳)だし、巡礼者メニューはステーキなど脂っこいものが多い。そんな生活が長く続けば、遅かれ早かれ消化不良になるだろうことは想像に難くない。

 ということで、このころ消化不良が続いていた。
 持参していた漢方エキス剤「五苓散」でコントロールしていたので、トイレのない区間でトイレを探しまわる事態は避けられていたものの、続けばそれなりに支障も出てくる。
 うろ覚えの記憶では、しばらく軽い痔に見舞われていた。長く歩くのも痔になりやすいそうなので、両方が原因だったと思われる。痛みはなかったが、歩くときに違和感があってうっとうしい。

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 そこで巡礼中は、消化不良になったら数日カフェ・コン・レーチェはやめてブラックティー(ストレートティー)を注文する、安定してきたらカフェ・コン・レーチェに戻す、また消化不良になったら紅茶、を繰り返していた。
 繰り返していないでコーヒーをやめておけば安定するのだが、残念ながら腹が弱いのにコーヒーがけっこう好きなのである。

 ちなみに巡礼路でおなじみ生搾りオレンジジュースも、便秘によいといわれるぐらいなので、もともと腹がゆるい人間には推して知るべし。しかしこれも好きなので、やはりごまかしごまかし飲みつづけていた。

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 さて、腹具合の話はこのへんにしておいて、この日は宿泊したビジャダンゴス・デル・パラモからアストルガまでの28.5kmの行程だった。
 30km近くとやや長い道のりなのと、アストルガにはまたしてもガウディ建築があり、到着後は猛烈に観光する必要があった。そこで体力を温存するため、久しぶりに荷物運搬サービスにザックを預けて歩きはじめた。

 晴れたり曇ったりの天気のなか、歩いていく。

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 通り道で印象的だったのが、オスピタル・デ・オルビゴという街だ。
 長い橋を通って街に入ると、橋の上から雰囲気のあるテントがいくつも立てられているのが見えた。それに、街のそこここが旗で装飾されている。

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 どうやら近々お祭りがありそうな気配。まあ特に興味もないのでいいけどね、と私は引き続き同じペースで歩いていった。

 が、街中でお祭りのポスターを見つけ、私は足を止めざるをえなかった。

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 Justas Medievales、すなわち英語でいうジュスト、つまり馬上槍試合!!!!! しかも日程は明日と明後日!!!!!
 大して語学ができるわけでもないのに、こういう単語だけ知っているのはオタクあるあるである。

 何を隠そう、ファンタジー小説書きの私は、かつてあのクイーンのWe will rock youが冒頭に流れる中世ヨーロッパ映画(製作はアメリカ)、その名も「Rock you!」を大学の英語の授業で見て影響を受け、馬上槍試合風ファンタジー小説を書いたことがある(なお未完)。
 それと、馬上槍試合といえばおがきちか先生の傑作長編ファンタジー漫画『Landreaall』。主人公DXが決定的に変身するすばらしいエピソードで、中心的モチーフとなったのは馬上槍試合だった。

 とどのつまり、馬上槍試合はロマンなのだ。それに尽きる。

 明日このオスピタル・デ・オルビゴに来ていれば、人生初のナマ馬上槍試合を拝めた!!!!!

 まったく予想していなかった事態に、しばらくポスターの前で悶々としていた。
 もう今日はここで泊まって、明日は馬上槍試合を見るか? しかし、すでにアストルガに宿を予約してしまった。いったんアストルガに行ってしまって、明日タクシーで戻ってくる? またタクシーで行き来する? そもそも歩きにきたのに?

 本当に悩みに悩んだのだが、馬上槍試合はあきらめて進むことにした。縁があればいつかきっとまた馬上槍試合を見られることもあるだろう……。

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 ところが、いつまでも馬上槍試合のことでウジウジ言ってはいられなかった。

 オスピタル・デ・オルビゴを出てすぐ、巡礼路は泥の海となったのである。
 写真は撮らなかった(上の写真は少しあとの道です)。あまりにもただのドロドログチャグチャだったからである。全然絵的にきれいじゃない。むしろ汚い。ドロドログチャグチャの道を、巡礼ハイシーズンなのでたくさんの巡礼者が通過し、ますますグッチャグチャになっている。そんな中に私も入っていった。

 しばらくは、そのうち終わるだろうと思って呑気だった。しかし、ふと気づくと、前方にも後方にも泥の海がひろがっている。抜けだそうにも、前とうしろどっちに進めば早いのかわからないぐらい、泥の道が続く。
 仕方ないので前進を選択。少しの乾いた場所を血眼になって探し、ないとなればあきらめて泥の中に靴を突っ込む。そうやって少しずつ前進していった。

 泥を抜けて次の街に入ったときは心底ほっとして、すぐバルに飛びこんで休憩。が、目的地のアストルガはまだ遠い。ボカディージャ(サンドイッチ)を口に入れて、あまりゆっくりせずに出発した。

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 多少泥っぽい道があったり、ときおり雨に降られたりしながら歩いていく。

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 終盤は特に雨が強く、ポンチョの下で気が遠くなりながらも、丘の上のアストルガのふもとにたどりついた。あんまりヨレヨレだったからか、私を見た通行人のじいさんが尋ねてもいないのに「あっちだよ」と教えてくれた。

 丘の上めざしてラストスパート。そして今夜の宿、オテル・スパ・ビア・デ・ラ・プラタへ。ちょっといいホテルだった。部屋の設備もよく、雨に降られて疲労困憊した日には最高だった。
 シャワーを浴びて、室内を洗濯物まみれにしてから、お待ちかねのアストルガ観光だ!

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 アストルガ大聖堂。ファサードが超かっこいい。

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 ガウディの司教館。

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 今回の旅のテーマのひとつ、ユダヤ史遺跡めぐり。今は公園になっており、「シナゴガ庭園」と呼ばれる。Google Mapでみつけて、「シナゴガ」が明らかにユダヤ教礼拝堂「シナゴーグ」だったので行ってみた。特に歴史案内の看板などはなかったと思うが、調べたところやはりユダヤ人街の跡地らしい。

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 それにしてもとんでもなく見晴らしのよい公園で、永遠にベンチで座っていたかった。

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 先ほどはほうほうの体で登ってきた丘だが、この日の疲労のことも、文字どおりの泥沼の中を進んできたことも、馬上槍試合を見損ねたことも、この丘からの眺めですべてが吹き飛んでしまった。

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(スペイン巡礼2018回想記(28)に続きます)

(リアルタイムで更新していたインスタ)



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