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スペイン巡礼2018回想記(23)ボアディージャ〜カリオン

 2018年5月28日。
 この日はボアディージャ・デルカミーノ(以下ボアディージャ)からフロミスタを経てカリオン・デ・ロス・コンデス(以下カリオン)までの25.8kmの行程、の予定だった。

 しかし前日、生理中にもかかわらず気のむくままにウロつきまわった結果、全然疲れが抜けていなかった。

 今回、登山経験もスポーツ経験もない私にとって、巡礼がハードなものになるだろうことはわかっており、基本的に石橋を叩く(しかも時に橋を壊す)性格である私は、かかりつけの整体の先生にいろいろとアドバイスをもらって準備していた。

 そのうちのひとつが、アミノ酸サプリだ。
 MUSASHIというブランドで、用途によって種類がある。先生が私に勧めたのは「リカバリー(疲労回復)」のサプリ「NI」と、「持久力サポート」の「ENDURANCE」のふたつだ。

 NIは巡礼中ほぼ毎日飲んで、20km歩いても翌日元気にまた歩けるよう回復を図った。行程の長い日は、出発時にENDURANCEを飲んで体力が長持ちするようにしたうえで、到着後にまたNIを飲んだ。
 この2種類のアミノ酸サプリのおかげで、さほど体力のない私が、まあまあ元気に巡礼中歩きつづけることができたので、感謝もこめてここに書いておく。(※別にMUSASHIさんからお金もらってない)

 が、生理2日目にENDURANCEの持久力で気のむくままウロつきまわった私は、生理3日目にそのツケを支払うことになった。NIと睡眠で回復しきれなかった私のボアディージャの朝は、えらく体が重かった。

 そこでこの日は、フロミスタまで5.8kmほど歩いて有名なサン・マルティン教会を見物したら、そこからタクシーでカリオンに向かうことに決めた。今回の旅は慣れないトレッキングということで、ムリはしない。
 それに、アルベルゲ難民になったときすでにタクシーを使っていたので、二度目はためらいがなかった。

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 ということで、気楽なノリでフロミスタにむかって歩きはじめた。5.8kmであれば、多少体が重くたって楽勝楽勝。

 ボアディージャからフロミスタまでの道のりは、ずっと運河に沿って進んでいく。今までの巡礼路にはあまりなかった風景なので、天気は悪かったが、ちょっとおもしろい。

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 フロミスタの少し手前にある水門も、巡礼路の名物である。造形が楽しい。

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 フロミスタには、朝の9時半には着いた。
 サン・マルティン教会は、私の好きな時代の教会よりやや古い、中世らしさのある建物だ。

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 わりと派手なものが好きな私は、ステンドグラスのあるゴシック様式のほうが楽しいのだが、ロマネスク様式となると少し原始的な気配がある。

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 サン・マルティン教会を見終えて、休憩のためバルに入る。ここでタクシーを呼んでもらうつもりだった。

 ここで思わぬ再会があった。
 昨夜のホテル併設アルベルゲに泊まっていた巡礼者で、夕食のとき席が近かった人たちだ。再会した彼ら(単独のアメリカ女性と、同じく単独で南米出身の黒人男性だったと記憶している)は、今朝出発するときなぜか私を探していたのだという。

 同じ単独行動同士ということで、私をグループに入れてくれようとしているようなのだが、私は彼らとはあまり居心地がよくなかった。親切な方々ではあるのだろう。
 英語をなんとなく聞いていると、黒人男性のほうが、私が人見知りしてアメリカ女性のほうとばかり話すのを、「僕が黒人だから」とかなんとか言っている。いやいや、見知らぬ男性より見知らぬ女性のほうが(同性だから)気楽なだけで、黒人とか関係ないからな。と思ったが、面倒なのでツッコまなかった。アメリカ女性のほうが、そんなことないわよ、とかなんとか言っている。

 私があまり会話に参加しないので、ヒヤリングもできていないと思っているのだろうか。
 まあ悪気はないのだと思うのだが、このへんの塩梅で私がちょっと居心地悪いのがおわかりいただけただろうか。このまま付き合っていると、グループに組みこまれそうだったので、今日は疲れているのでこれからカリオンまでタクシーを使う予定なんです、と言った。

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 黒人男性はサンドイッチ(上写真)をおごってくれ、なんだか申しわけない気もしたが、当初の予定どおりに行くことにした。
 ハグでハートウォーミングにお別れできたと思う。日本にはハグ文化はないわけで、私はあまり気が進まなかったのだが、ここで嫌がるとまた誤解をされそうだったので、ハグには付き合った。ふわふわだった(謎)。

 隠キャの私には苦手なノリの儀式が終わったのち、バルの店主にタクシーを呼んでほしいと頼む。
 店主が「あそこにタクシーが見えているから声をかけろ」というので、バルを出ていった。が、それらしい車には人がいない。しばらくうろうろしたあと、再び店主に助けを求める。

 店主に連れていかれたのは、普通の家だった。門には犬がいて、私を出迎えてくれた。
 見ると、玄関に「TAXI」と書いてある。えっ何、こういうシステム?

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 店主がインターホンを押すと、タクシーの運転手というより普通の若い女性が現れた。
 おそるおそるカリオンに行きたいと伝えると、わかった♪ と言って、玄関の鍵を閉めて出てきてくれ、私たちは家の外にあった車に乗りこんだ。そして、タクシーはハイスピードで動きだした。

 なんとなく苦手な空気を離れて、タクシーを飛ばしてもらったこのときの解放感は、えもいわれぬものだった。
 うん、居心地が悪いところにいるぐらいなら、ひとりのほうがいいんだな。よくわかった。

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 本来、フロミスタからカリオンまでは、日を遮るものがない野をえんえん歩く。
 今年は異常気象で寒かったし、この日は天気も悪かったので、歩いてもそんなにしんどくはなかっただろうが、タクシーが行く車道沿いにある巡礼路を点々と歩いていく巡礼者を見ながら、私はなんともいえない爽快感に包まれていた。
 あとになってみると、一応元気に歩き通すことができたのだから、全部歩けばよかったな、と思わなくもなかったが、このドライブは妙に楽しかった。

 20kmの距離も、車にかかれば一瞬だ。やがて道のむこうに街が見えてきて、カリオンの街に入った。
 この日はサン・ソイロ修道院をリノベーションした、少しお高めのホテルである。オテル・レアル・モナステリオ・サン・ソイロ。

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 もちろん、ここに泊まる目的は、大好きな回廊を宿泊して堪能することだ。
 そして、私はスペイン巡礼中に見たすべての回廊で、ここの回廊がいちばん好きだった。

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 回廊はかつての雰囲気をしっかりとどめていて、あまり「修復されすぎていない」。私はこの点をかなり重視する。なかなかむずかしいとは思うが、修復しすぎて今の工法を使っていたりすると、雰囲気が損ねられてしまう(細かい処理のことはわかりませんので、純粋に素人が見た感じで、ということです)。

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 石畳が若干ぼこぼこしていて歩きにくい、これは正直最高だ。個人的にはぜひとも残してほしいところだ。だが、人が頻繁に出入りする施設となると、ハイヒールが引っかかるなどして危ないせいか、石畳はちゃんと水平なところが多いと思う。
 父が前にフランスに行ったとき、石畳のぼこぼこが腰痛に響くといっていた。やはり、ホテルのホスピタリティの面からいえば石畳はきれいに平らにしておくのが安全は安全だろう。でも、ホテルの一角にありながら、サン・ソイロの石畳は廃墟感を残していて、それが好きだった。

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 私が部屋でしばらく休憩してから回廊に行ったとき、たまたま人がいなかった。
 無人の回廊に、オーディオのグレゴリオ聖歌が流れていて、それこそ別の時代に連れていかれたような気持ちに浸ることができた。私はひとり、全身全霊で、五感でもってこの回廊の空気を味わった。
 ここで過ごしたひとときは、私にとっては得がたい時間だった。

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 サン・ソイロは宿としても設備が整っており、わけても併設のバルの居心地がよかった。
 軽くサングリアを一杯、というだけのつもりだったのに、バルの雰囲気のよさについホイホイ注文してしまって、おつまみもたんまり食べた。

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 ホテルの前に小さな花が無数に咲いている芝生の空間があって、それもすごくよかった。
 空間も、建築も、設備も、演出もよく、もちろんスタッフさんも親切で、とにかく大好きなホテルだ。

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 私は巡礼仲間ができる機会を棒に振り、ひとり幸せな夜を過ごした。

(スペイン巡礼2018回想記(24)に続きます)

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