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サプライズってこういうことか

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
この年末年始は、長く続けてきたお店をたたむということで、例年とは少し違っていました。最大級に忙しかったのはもちろんですが、なんとなく目の奥の方に清々しい気持ちがただよっていました。

そんな中、久しぶりに伊豆の両親の家に行くと、そこには見知らぬ車が停まっていました。小さな白いバンで、カラフルな配線みたいなものとか、ゴツゴツした工具みたいなものがたくさん積まれているのが外からでも分かります。「職人さん?」首を傾げながらも一度、「おばあちゃーん、来たよー」と家に入っていった娘が、荷物を抱えたまま、また外に出てきました。

「知らないおじさんがいる!」

誰だろう?庭仕事の職人さん?でもこんな夜に??

よくその車を見ると、「〇〇商会」という文字。その〇〇は、私の旧姓でした。「おとうさん、引退したはずなのに、また何か新しい商売でも始めたのかな???」社名の下には、長年親しんだ父の会社のそれとそっくりなロゴがありました。

こんなお正月に社員さん連れて来ちゃダメでしょう?と頭の中で様々な考えが巡り巡って、まだ状況が飲み込めないまま、私もトランクから大きな荷物を出して、「おかーさーん、久しぶり〜ただいま〜」と入っていくと、、、

え?え??えーー!!! 

こんなにびっくりすることは人生で初めてというくらい。そこには約15年間、会っていなかった兄がいたのです。何度もバッタリ再開の夢は見たことがあります。それはこの場所ではなかった。何もかも夢とは違っていました。

私には二人の兄がいます。一つ上の兄と二つ上の兄。三人年子なんです。三つ子ちゃんよりは珍しくないのかな。

若い頃に家を出た兄たちとは、いろいろあって(省きます)、もう長い間会っていませんでした。そして今回再会した兄(一つ上の方)は、私が娘を産んだときに突然病院に現れたきり(その時もサプライズだった)でした。
生まれたばかりの娘を抱っこしてくれて、可愛らしい鞠を二つ。お祝いにくれました。一つは無くしてしまったけれど、一つは今でも大切に持っています。

兄があのとき抱っこしてくれた娘はもう今年、高校生になります。この歳月って・・・・。生地屋さんのビジネスを始めた数年後に娘が生まれ、人生で一番忙しかった頃。たくさんの出来事がこの15年の間に過ぎ去って、そのお店を終えることにしたこのタイミングでまた兄に会うなんて。

この時期をひとくくりの思い出にして、次へ進んでいいよ、と神様が後押ししてくれたような気がしました。

兄は寡黙な人で、誰よりも辛抱強く、働き者です。息子は「お母さんにお兄ちゃんがいるの?!」と、初めて会った「おじさん」に興味津々で走り回ったり話し続けたり、歌ったり踊ったり大騒ぎ(いつものことだけど)。「ふっふっふ・・・」とそれを見て珍しそうに笑う不動の兄。

お年玉だよ、とティッシュで包んだお金を息子に渡してくれたその手を忘れられません。分厚くて傷だらけ、ゴツゴツしたその大きな手は、父の手に似すぎて区別がつかないほどでした。私の過ごした15年と兄が過ごした15年。お互いを何も知らぬまま、手紙は一方通行。電話も繋がらず、全く交わることはなかったけれど、私たちも無事に歳をとったね。

ぬくぬくと育ち誰からも優しくしてもらった私とは、比べものにならないほどの苦労をしてきただろうことは、その手を見ればなんとなく想像できます。でもきっと想像以上だったに違いない。今も、そしてこれからも、「安定」や「楽」とはいつも反対の方を選んで生きてきた兄は、翌日には「じゃあな」と言ったきり、出かけていた子どもたちには会わずに出て行きました。

過去に何回もブログのどこかに書いたのですが、私が海外旅行ばかりしていた若い頃、「お前は馬鹿か。日本にはこんなに良いところがたくさんあるのに」と一喝されたことがあります。
若い頃から雪駄を履き、たくさんの職業を渡り歩き、ゴツい手と鋭い眼差し、擦り切れた作業着が似合う兄ですが、息子を寝かしつけながら、いつまでも起きている兄をこっそり覗くと、静かに本を読んでいました。カバンには他にもカバーされた買ったばかりの本が2冊、ゴムでまとめられていました。

人生で一番びっくりした出来事でしたが、兄は風のようにまた消えて、私も日常に戻りました。最後に私が「お兄ちゃん、LINEはやってないの?」と聞くと、さすがに「お前は馬鹿か」という言葉は言わなかったけれど、「まあな」というひとことであっけなく私の「現代の楽さ便利さを最大限に享受しているライフスタイル」を見破られたようで、よく分からない恥ずかしさが込み上げてきました。兄とはなかなか目を合わせられない、いつまでも自分が未熟な小学生のような気分になります。
それでも、読書好きだという共通点を確認できた今回の再会は、心の平均温度をほんのり上げてくれたようです。

フラッと突然来てくれた兄の姿を見て、両親はどんな気持ちだっただろう?私は自分の人生を生きることで精一杯だったけれど、こんな身近なのに何も知らない、家族の暮らし。

娘も息子も、私たちの手を離れていくのはそう遠い未来ではないな、と実感しました。手の届かないところで、たくさんの人生経験をする子どもたちの姿を初めてしっかりと想像してみました。家族で過ごせる時間は本当に短い。やっぱり今を大切にしたい。

両親が「最後の家」として新しく作った海の見える平屋。その玄関に兄の雪駄がある風景を忘れないように、最後にパチリと写真を撮りました。

さて、今からでも間に合うかな。兄のような忍耐強さと勤勉さを見習って、新しい道を切り開いていこうと思います。いつか自信を持って目を合わせられるように。

今年もよろしくお願いいたします。

サポート頂けたら嬉しいです!自分の世界をどんどん広げ、シェアしていきたいです。コツコツ階段を登り続け、人生を楽しみ尽くします。