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曲芸

整形を繰り返す度に、自分を好きになる代わりに自分の作品を嫌いになる気がした。

美しくなる自分を見る。そこまで大胆な変化は望んでいない。少しでいい、私を好きになりたい。この体でいるのは今世だけだから。ネイルに通う。指先も、指も、腕も、瞳もアイラインも唇も髪も、ウエストも。美しくなればなるほど私は私を好きになる。本当の自分を見てほしい、と嘆く人がいるらしいが私にとってはそんなことは瑣末なことで、それよりも自分が自分を好きになることの方が大切だった。少しづつを繰り返せば大きな変化になるように、私は変わった。

自分にお金をかけるのに反比例するように、筆を握る回数が減った。それは、油絵具の匂いは臭いしとれないからというのもあるだろうが、なにより何も思い浮かばなくなったから。
醜かった私はその劣等感を筆に乗せた。自分の醜悪さ、それに伴う性格の歪曲、この世に起こる全てに被害者面をしてそれはそれは描き殴った。それが評価されたかはどうでもいい。それは私の等身大だった。私自身だった。私の心を体からひきちぎり、アイアン・メイデンでぎゅうと絞った血で描き散らしたような私だった。私はそれを愛していた。

泣くことが減った。
何も悲しくないから。
怒ることも減った。
今が一番幸せだから。
嬉しい。
何が、と問われると困ってしまう。私は昔から私が好きだった。

誰かに大切にしてほしいと思う。実際、私を恭しく扱ってくれる人は居た。でも、そんなんじゃまだまだ足りないと思った。もっと私を大切にしてほしい。もっと、もっと。そんな他人にできる優しさはいらない。私を唯一にしてほしい。でもそんなこと誰にも言えなかった。少年漫画よろしく、私を一番大切にしていないのは私だったから。

過去の自分がこちらを睨む。自身の血にまみれボロボロになった筆を持った私が、こちらを見ている。
いやね、そんな目しなくてもいいのに。
私、どうすれば幸せになれたんだろう。
痛みが懐かしい。もっと私を痛めつけてほしい。そうすれば私は自分を愛せるから。愛するって幸せなことでしょう? 私は少し泣いた。



おわり

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