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【尾松亮】廃炉の流儀 連載2

地域住民が「もの申す」仕組みを

 

「独立安全審査の必要性について検討したのか? NASAではスペ
ースシャトル事故の教訓から独立第三者機関による安全性審査を導入している」

 現在廃炉中のピルグリム原発(マサチューセッツ州)の地元プリマス郡住民を代表して、シーン・ムーリン氏は原子力規制委員会(NRC)にそう訴えた。これは2020年2月24日に開催された「ピルグリム原発廃炉市民助言パネル」定例会合での発言である。

 この日の会合では、ピルグリム原発の廃炉に際して用いられる「使用済み燃料保管用乾式キャスクシステム」(注・燃料プールから抜き出した冷却済みの使用済み燃料を安全に中長期に保管する設備)の安全性が議題となった。パネル共同座長を務めるムーリン氏や、マサチューセッツ州議会を代表して委員を務めるダン・ウルフ議員が、独立機関による多重の安全審査を求めた。

 計画では、稼働を終えたピルグリム原発の使用済み燃料は敷地内の乾式保管施設に長期保管されることになっている。NRCは使用予定の乾式保管施設の安全性にお墨付きを与えている。しかし1月に開催された「廃炉市民助言パネル」前回会合では、独立有識者として招かれた原子力専門のベテランエンジニアが、使用予定の乾式保管施設の経年劣化や耐震面での危険性を指摘した。廃炉事業者Holtec社の施設管理能力にも疑問が示された。これを受けて、2月の定例会合では5人のNRC職員が出席し、廃炉をめぐる安全審査のあり方について厳しい追及を受けた。

 中央政府の規制機関担当者と地元住民が、廃炉について対等に意見を戦わせるこの「廃炉市民助言パネル」とは一体なんなのだろうか。

 ピルグリム原発は2019年5月に完全停止した。それに先立って2018年8月に、マサチューセッツ州議会はこの「廃炉市民助言パネル」を設立している。同パネルは月1回の定例会合を通じて、廃炉が周辺地域に与える影響について住民に周知するとともに、地域社会からの懸念事項を事業者や規制当局に伝える活動を続けてきた。廃炉に関連する問題について同州知事に助言する機関として、知事に年次報告を提出する権限も持っている。

 「廃炉市民助言パネル」は21人の常任メンバーで構成され、プリマス郡やその他周辺地域の住民代表、マサチューセッツ州職員、ピルグリム原発従業員などが含まれる。住民代表メンバーは知事や州議会議長、野党代表、プリマス郡議会などによって任命され、政治的にも、経済的利害関心においても立場の異なるメンバーが集まっている。任期は4年で、継続的に同じメンバーで廃炉プロセスをチェックすることが可能となっている。定例会合では市民からのパブリックコメントの機会も設けている。

 米国の廃炉原発立地地域では、このように予算と権限を持った「廃炉市民助言パネル」を通じて、周辺地域から継続的に「廃炉にもの申す」仕組みが構築されてきた。日本でも行政や事業者主催の「廃炉計画」説明会ではなく、「地元目線の廃炉規制」を保証する仕組みを創る必要がある。米国の同パネルは、そのひとつのヒントとなるだろう。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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