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【福島県・新型コロナ特集】迷走する南相馬市の「マスク配布」

市外に大量寄付し市民は後回し!?

 全国で「マスク不足」が叫ばれる中、南相馬市で備蓄マスクの配布をめぐり不満の声が上がっている。

 マスクの品薄状態が一向に解消されない。要因は中国からの輸入に依存してきた中、新型コロナウイルスの影響で中国工場が稼働停止に追い込まれたことが一つ。もう一つは、中国工場の稼働が再開すると世界中でマスク調達合戦が始まり、入手困難に拍車がかかっていることが挙げられる。

 店頭のマスクコーナーは相変わらず空っぽだ。入荷情報が入ると、早朝から人が押し寄せ、長蛇の列ができる。殺伐とした空気の中、列に並ぶ人同士で口論やイザコザに発展することも珍しくない。そのため店側は最近、開店と同時のマスク販売を取りやめている。

 このようにマスク入手は至難の業と化す中、南相馬市に住む中年男性からこんな不満が寄せられた。

 「市には相当数のマスクが備蓄されているそうだが、だったら市民にタダで配ればいいじゃないか! 市民は皆、マスクが欲しくても買えないんだから!」

 中年男性が不満を抱いたきっかけは、南相馬市が東京都杉並区にマスクを寄付したことをネット上で知ったからだった。

 杉並区の2月10日付の公式サイトに、こんな広報が載っている。

 《本日17時、杉並区の交流自治体であり、災害時相互援助協定を締結している福島県南相馬市から使い捨てマスク5万4600枚の寄贈を受けました。寄贈されたマスクは新型コロナウイルスの感染予防・拡大防止に活用していきます》

 内訳は大人用3万3800枚、子ども用2万0800枚で、南相馬市職員がマスクを積んだレンタカーを運転して、杉並区役所に直接届けたという。

 南相馬市役所の関係者が次のように明かす。南相馬市役所の関係者が次のように明かす。

 「杉並区役所は『市内にマスクを扱っている業者がいたら紹介してほしい』と打診した。それに対し、市は備蓄があるとしてマスクの寄付を決めたそうです」

 確かに、前述のサイトにも《区でも必要なマスクを確保するため、南相馬市などに取扱業者がいないか相談していたところ、今回の寄贈の申し出をいただきました》とある。

 南相馬市と杉並区は2005(平成17)年に災害時相互援助協定を締結し、同市が震災と原発事故で深刻な被害を負った際には、同区から多大な支援を受けた恩義がある。

 東京都内で新型コロナウイルスの感染者数が増え続ける中、マスク寄付が今までの恩義に少しでも報いることになるなら、大変素晴らしい行為であり、批判するつもりはない。ただ、南相馬市民からすると「まずは市民にマスクを配るのが先で、寄付はその後ではないか」と思うのは当然だろう。

不安覚える判断能力

 前出・中年男性が解せないと感じたのは、寄付が一度ではなかったからだ。

 「杉並区には3月31日にも3万9000枚のマスクを寄付しており、前回寄付分と合わせて計9万3600枚です。このほか相馬市にも、2月21日に3万1200枚のマスクを寄付している」(中年男性)

 市外に寄付したマスクは、実に12万4800枚にも上る。

 「100歩譲って杉並区への寄付は目をつぶっても、なぜ相馬市に寄付しなければならないのか。門馬和夫市長は初当選した2018年の市長選で、立谷秀清・相馬市長から強力な支援を受けた。以来、門馬市長は立谷氏にすっかり頭が上がらず、相馬市からの要請は何があっても絶対に断らない。おかげで南相馬市役所内からは『ここは相馬市役所の支所か』と愚痴が聞かれるほど」(同)

 分かり易いたとえをしよう。家に大量のマスクがあるのに、親が自分の子どもには渡さず、他人の子どもに配ったら、その子どもはどう思うか。「親は自分の子より、よその子の方が大事なんだ」と拗ねてしまうのではないか。

 困っている人を助けるのは素晴らしいことだ。しかし「南相馬市長」として門馬氏が第一義的にやるべきは「南相馬市民」を支援することではないのか。

 「呆れるのは、杉並区に2回目の寄付をした翌日(4月1日)に南相馬市で初となる新型コロナウイルス感染者が確認されたことです。いくら何でも間が悪すぎです」(同)

 一連のマスク問題については、小川尚一市議が同市議会3月定例会の一般質問で取り上げた。

 「私が現在の備蓄数とこの間配布した枚数を質問すると、市は『48万枚あったが、このうち杉並区に5万5000枚(一般質問の時点では二度目の寄付は行われていなかった)、相馬市に3万枚、医療・福祉施設に8万枚、学校関係に6万枚、妊婦に2万枚配るなどして残りは数万枚しかない』と答えた。さらに『現時点で市民に配る分はない』とも言っていました」

 ところがその後、市が備蓄数を数え間違っていたことが分かり、80万枚に訂正されたという。担当部署に尋ねると

 「お恥ずかしい話だが、備蓄倉庫の奥にマスクの入った段ボールが置かれていて、気付かなかった」

 とのこと。

 「減る」のではなく「増えた」のは幸いだったが、半面、正確な備蓄数を把握しないまま、杉並区や相馬市に〝大盤振る舞い〟していた無謀さには驚かされる。

 「杉並区はマスクの『実物』が欲しいとは言っていない。『取り扱っている業者を紹介してほしい』と言ったのです。震災・原発事故の際、同区には多大な支援を受けたので、マスクの寄付自体に反対するものではないが、支援してくれた自治体はほかにもある。杉並区にだけ寄付し、他の自治体には寄付しない理由を問われたら、門馬市長は何と答えるのか」(小川市議)

 一方、相馬市への寄付は、

 「相馬地方の2次医療圏にマスクを寄付したいと考えたが、新地町と飯舘村は間に合っているとして、相馬市単独に寄付したそうです」(同)

 前出・南相馬市役所の関係者が裏事情を明かす。

 「市は3月上旬に医療・介護施設や幼・保育園、放課後児童クラブなどに一斉にマスクを配っているが、そのきっかけは、小川市議の一般質問(2月26日)だったようです。定例会開会前に提出された小川市議の質問通告書にマスクに関する内容があったため、配っていないことを追及される前に配ることだけは一般質問前に正式決定し、実際の配布は3月上旬に行った、と」

 もし小川市議が一般質問で取り上げなかったら、医療・介護施設や子どもたちへのマスク配布は、もっと遅れていた可能性もある。

 門馬市長は4月17日、「新たに不織布マスク20万枚、布マスク10万枚を調達できるめどがついた」として、市民1人当たり4枚ずつ(19・7万枚)配布することを発表、17、18日に郵送したが「遅すぎ」と呆れるのは前出・南相馬市役所の関係者だ。

 「門馬市長は4月3日に市内3人目の新型コロナウイルス感染者が確認されると、その人が暮らす行政区に1人当たり20枚のマスクをこっそり配った。それが後に発覚し、他の行政区から『えこひいきだ』と憤りの声が上がったため、慌てて全市民に配ることを決めたのです」(同)

 広野町の遠藤智町長は3月7日に県内初の感染者が確認されると、同9日に町民1人当たり20枚、計9万6000枚のマスクを配布することを決めた。「広野町長」として「広野町民」を守る――という点においては、これが当然の姿だ。

 たとえ4枚ずつでも全市民に配布したことは評価できるが、広野町より1カ月以上遅れたことは「南相馬市長」として「南相馬市民」を守るという意識が低いと批判されてもやむを得まい。

 ちなみに南相馬市は3月上旬、医療従事者用の防護服2000着も神戸市に寄付している。兵庫県は感染者が増え続けており、防護服が不足していた。そこで、昨年10月の台風19号で同市から支援を受けた恩返しに、南相馬市が寄付を申し入れたという。これ自体も批判するつもりはないが、同市に備蓄されている防護服は「残り2000着程度」と聞かされると、どのような見通しに基づいて寄付枚数を決めたのか、非常時における門馬市長の判断能力に不安を覚えてしまう。


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