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【春橋哲史】フクイチ事故は継続中⑤-見過ごされがちな水処理二次廃棄物

見過ごされがちな水処理二次廃棄物

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後「フクイチ」と略)では、1~4号建屋等からの高濃度汚染水の汲み上げと、汲み上げた水の処理(=放射性核種の濃度低減)が続けられています。

 水処理の過程で発生するのが「水処理二次廃棄物」です。

 建屋滞留水は放射性核種の濃度が最も高い、高濃度汚染水です。これを汲み上げたままの状態でタンクに貯留すると、タンクや配管が高濃度汚染物となり、人員の高線量被曝に繋がります。又、漏洩時のリスクも高くなります。

 水のリスクを下げる為にフクイチに設置された水処理プラントの代表例がALPS(アルプス/多核種除去設備)です。

 ALPSは「汚染水に含まれる放射性核種の内、62種類を検出限界値未満まで除去する性能を有する」とされています。あくまでも「除去」であって、「消滅」ではありません。

まとめ

 高濃度汚染水に含まれる放射性核種は、ALPSで使用されている吸着材や、廃液(スラリー/「まとめ※2」を参照)に移行します。

 ここではALPSを例にしましたが、水処理二次廃棄物はALPS以外の水処理設備でも発生しています(代表的なものは次頁の「まとめ」を参照)。

 水処理二次廃棄物は、潜在的なリスクが高く、廃棄物の中でも特に厄介なものです。

 「特に厄介なもの」とする理由を三点挙げます。

 一つは、放射性核種が凝縮・圧縮されている関係で単位当たりの濃度が極めて高く、インベントリ(放射能量)がとんでもなく大きいことです。「兆(ちょう)」「京(けい)」の単位が当たり前のように出てきます。

 因みに、フクイチ事故で環境中に放出された放射性物質は、推定・約20京ベクレルです(大気中・海中への放出量の合計/注1―1・2)。又、「ALPS処理水」についても、タンク内のトリチウムの総量は約860兆ベクレルとされています(2020年6月25日時点/注2)。

 これらの数値と比較することで、水処理二次廃棄物の放射能量の大きさをご理解頂けると思います。

 放射能量が大きいのですから、管理や安定化処理も慎重な対応が求められます。接近は必要最低限としなければならない一方で、見回り・点検は疎かにできません。漏洩すれば、人員の高線量被曝や、環境中への大量放出に繋がりかねません。

 理由の二つ目は、最終処分の目途が立てられないことです。安定化処理の計画や案は有りますが(「まとめ」を参照)、その先は未定です。

 理由の三つ目は、東電が情報公開に後ろ向きで、全体像が把握しづらいことです。

 一例がHIC(ヒック)です。スラリーを保管しているものと、使用済み吸着材を保管しているものの内訳を、東電はリアルタイムで公表していません(尚、過去の複数の資料に基づいて私が計算してみたところ、HICの約9割がスラリー保管分と推測されます)。

 インベントリも代表核種のみの推測値です。高線量・高濃度ですから、採取・計測に限界があるにしても、地元・国民・世界から見て「全体の放射能量や核種毎の内訳が把握できない状態」が続いています。

 更に問題を複雑にしているのが、フクイチ特有の難しさです。ALPSの二次廃棄物を例にします。

 東電は、HICのALPSスラリーを抜き出して脱水する方針です。スラリーは脱水すると「パンケーキ状」になるそうで、その「パンケーキ」は角形容器に封入されます。空になったHICはALPS処理水で内部を洗浄し、再利用するか、固体廃棄物となります。

 ここで重要なのは、脱水で生じた分離水とHICの洗浄水が、ALPSで処理すべき新たな汚染水となることです。

 頓智問答のようですが、笑い事ではありません。フクイチは水処理の蟻地獄のようです。

 東電はHIC3000基の脱水処理で約2万5000㌧の廃水が発生すると見積もっています(注3)。水の循環利用で減量を目指すそうですが、何れにしても、汚染水の増加要因となるでしょう。空きHICは固体廃棄物の増加要因となります。

 又、ALPS処理水の二次処理も、水処理二次廃棄物の増加要因になります。二次処理は試験すら行われておらず、廃棄物の発生総量は予測できません(注4)。

 このように、フクイチの廃棄物処理は「Aを処理すればBが増える」という具合で、玉突きのように影響を及ぼす難しさが有ります。    

 水処理二次廃棄物は、インベントリが大きい割に「知名度」が低く、リスクの大きさや対処の難しさが、広く共有されているとは言い難いです。見過ごすこと自体をリスクと捉えるべきでしょう。


注1―1
大気中への放出量(約19・3京ベクレル):ヨウ素131+セシウム134+同137+ストロンチウム90/キセノン133が最も多いが、半減期が5日と短い為、本稿では計算に含めず。

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-02-02-05.html

注1―2
海中への放出量(約1・1京ベクレル):ヨウ素131+セシウム137+同134
https://www.tepco.co.jp/cc/press/2012/1204619_1834.html

注2

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/takakushu_iken/pdf/0717_sankou1.pdf

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/takakushu_iken/pdf/0717_sankou1.pdf

注3

https://www.nsr.go.jp/data/000277900.pdf

注4:二次処理に関する私見
東電・経産省は二次処理について「処理水を環境中に放出する場合には実施する」旨を説明しています。私は「漏洩リスク低減等の観点から、環境中に放出する・しないの議論とは切り離して、必ず実施すべき」と考えています。


春橋哲史

 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。


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