見出し画像

【春橋哲史】フクイチ事故は継続中①

「処理水」はタンク貯留を継続すべき

 2011年3月にシビアアクシデント(過酷事故)を起こした、東京電力・福島第一原子力発電所(以後「フクイチ」と略)では、現在も、様々なリスク低減策が実施されています。その中でも、所謂「ALPS処理水」の扱いは、貯留タンクの容量が限界に近付き(注)、喫緊の課題となっています。
 この水の処分方法については、経済産業省が設置した小委員会が「政府への提言」として「海洋・又は大気放出」を推奨する報告書を2020年2月10日に公表しています(委員会の正式名称は「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」。以後「ALPS小委」と略。※1)
 私は「ALPS処理水は、環境中へ放出してはならない」と思っています。紙幅の関係もあり、以下、その理由を三つに絞って書きます。
 先ず「核災害で発生した放射性廃棄物」であることです。
 原子力施設の通常運転で発生する廃棄物と、管理に失敗して災害が起きた施設で発生する廃棄物を「科学的な組成は同じ」という理由で環境中へ放出すれば、「核災害起こし放題」というモラルハザードの前例になりかねません。
 二点目が「世界から見られている」ことです。
 分かっているだけでも、ロシア、韓国、中国、チリが「海洋放出」に反対、又は懸念を表明しています(※2・3)。
 国際的な反対や懸念の声を押し切れば、日本の信用が国際的・歴史的に取り返しのつかないほど、傷つく可能性が有ります。
 三点目が「核災害で市場構造が変化している」ことです。
 フクイチ事故後、福島県の2018年の観光客数は相双地区で約45%、いわき地区で約25%減少し、福島県の農林漁業の産出額は2012~17年平均で約17%減少しています(何れも2010年との比較。グラフ1・2参照。※4・5)。
 これは「風評」ではなく、「市場構造の変化」「ブランド価値の毀損」と呼ぶべきものです。「公害(≒核災害)とは、このような変化(被害)が生じるものなのです。

グラフ1 観光客入込数

グラフ2 農林漁業 産出額

 水俣での前例が有ります。水俣病から60年以上が経っているにもかかわらず、水俣の魚は地元での流通にとどまっています(念の為にお断りしておきますが、私は特定の地域や生産者の方々を貶める意図は有りません。尚、水俣の例に関しては、第4回・ALPS小委で北海学園大学の濱田武士教授が言及しています。※6)。

「A L P S 処理水」を環境中に放出すれば、その地域の一次産品のブランド価値は毀損されるでしょうし、毀損を防止する確実な方法は無いでしょう(約3年半をかけて検討したALPS小委でも、そのような方法は提案されていません)。
 政府・東電は、地域住民・自治体と十分に話し合い、国費投入・フクイチの敷地の拡張もいとわずにタンク用地を確保し、処理水を長期貯留する方法を探るべきです。
 最後に、私の立場と行動を明確にする為、私は「ALPS小委を全17回とも傍聴した」「ALPS小委が2018年8月に開催した公聴会の際には『環境中への放出反対・タンク貯留継続』の意見を送付し、東京の公聴会を傍聴した」ことを付記しておきます。
 

 注=東電は「処理水ポータルサイト」で「2022年夏頃にはタンクが満杯になる」見通しを説明。
 尚、同サイトのタンク運用の見通しは「①汚染水の急増等に備えたリスク対応分は含まず、②容量一杯まで使用」等の前提・想定を置いて試算されたもの。

※1 

※2

※3

※4
 「30年観光客入込状況調査」

※5
 「福島復興のあゆみ・27版」

※6
 「議事録12ページ」


春橋哲史

 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。



 
 

よろしければサポートお願いします!!