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【寄稿】豊かさの尺度は変わっている?


文・写真提供:鳥取県政アドバイザリースタッフ 福井功
(肩書は当時、掲載:旬刊政経レポート2017年3月25日号)

「ロハス」という言葉を広め、スローフードやスローライフ、エコロジーなどの、暮らしのヒントを提案している雑誌「ソトコト」。その編集長である指出一正さんが、この度、「ぼくらは地方で幸せを見つける ソトコト流ローカル再生論」 (ポプラ新書)という本をお出しになり、評判になっています。

P11福井功

(右から、指出一正さん、前に経済産業省から鳥取県庁に出向なさっていた酒井崇行さん、そして筆者)

「ローカルヒーロー」

 指出さんとは、彼が編集部員時代に、私の上海時代の仕事に関し、6ページに亘って特集していただいたことがあり、それ以来のお付き合い。
 この度の、「ぼくらは地方で幸せを見つける」には、指出さんが出会った、全国各地で活動をしている「ローカルヒーロー」と呼べる若者たちの活動が数多く報告されています。

 鳥取県でも「IJUターン」を呼びかけているようですが、この本に登場する若者たちは、もしかすると、今までに高度経済成長やバブルを経験し、その後、少子高齢化という時代に直面し、「地域をなんとかしなければ」と思っていらっしゃる世代とは違った、彼等なりの豊かな社会の「尺度」をお持ちなのかもしれません。
 今の時代は、誰かがつくった既存のシステムに乗るのではなく、また、経済成長からだけで地域の未来を考えるのでもない。何よりも自分たちが楽しみ、自分たちの手で作ることに幸せを感じる、といった若者が増えているようです。
 地域に既にあるものを活用し、例えばDIY、自給自足といった暮らしの中で、お金儲けよりも地域の人たちとの緩やかなコミュニティに価値観を見いだしていこうとする若者が、地方に移り住んでいったりしているようです。指出さんはそれを「ローカルヒーロー」と呼んでいらっしゃるわけです。

地域に「関りしろ」はあるか?

 また、彼等は彼等なりのセンス、やり方で、その地域を盛り上げよう、自分なりの「おもしろい暮らし」を作っていこうとしているようで、いわゆる起業ではなく、コミュニティで何かをやっていくことに価値を見出す若者が多い。そして、彼等が地域に求めるものは、自分たちが関わることのできる、地域の「伸びしろ」の様な「関わりしろ」があるかどうか。
「地域社会というものは、昔からこうやるもんだ」というような価値観で固まっていては、彼等は根付かないのでしょう。
 ただし、経済活動、納税、地域のインフラ整備…という循環は、今も変わらず基本なのだと思います。新しい「ローカルヒーロー」たちは、その今までのインフラの上に乗っかって、自分たちの幸せを求めているだけなのでは?という危惧も覚えます。また、彼等の子供たちが、就学年齢に達した時、否応無く、今までの社会システムの中で生きていかなければならない時がやってくるのも現実でしょう。
 現実の社会システムも意識しながら「まちづくり」に関わってきた私などは気になるところです。
 その話を、指出さんとしてみましたが、指出さんもそれは感じていらして「そのすき間を埋めてくれる存在が、必要になってくるんだと思います」とおっしゃっていました。
 これからは、昔の様な経済成長は見込めない、とも言われる時代。私たちはどのような価値観に注目し、どのように暮らしを築いていくのか。地域の「大人たち」は、こんな流れも理解しておかなくてはならないのだと思うのです。


※2020年4月22日、再掲載にあたり小見出しを追加しました。


福井功氏
鳥取県倉吉市出身。有限会社キャメルスタジオ(千葉県)取締役社長。
6次産業化ボランタリープランナー、経産省地域活性化事業登録専門家、食農連携コーディネーター(FACO)、全日本薬膳食医情報協会理事長、「まちづくりプロデューサー」としてのコメンテイター、鳥取県政アドバイザリースタッフなどを歴任。

編集部より
 福井功さんとは平成21年頃、県中部の農商工連携関連の取材で知り合いました。以降、取材先などでよくお会いするようになり、平成23年からはほぼ毎年、弊誌新年号の年頭所感にご寄稿いただくようになりました。飾り気はないが優しい文体で、でも結構言いたいことをズバリ言う。私も毎年、福井さんの寄稿が届くのを楽しみにしていました。
 そんな福井さんから突然連絡があり、「鳥取の人に伝えたいことがたくさんあるんだ。時々でいいから寄稿を載せてくれないか」と。もちろん快諾しました。上記文章はその第1回目。平成31年の年頭所感をいただいた際、そういえば寄稿の2回目がまだ来てないな、と思ったのを覚えています。同年3月にご逝去。合掌。(今嶋)


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