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沖縄島唄の小さな巨人、登川誠仁とブラック・ミュージックの関係って?/祝・『Spiritual Unity』アナログ盤化特別編

登川誠仁のぼりかわせいじん(1932-2013)さんを知っていますか?  歌の島、オキナワの音楽のマチ、コザ(現沖縄市)を拠点に活躍した、戦後の沖縄島唄の最高峰といわれる御仁です。今回、20年の時を経て、アルバム『スピリチュアル・ユニティ(Spiritual Unity)』がアナログ盤化され、2021年11月27日に発売されます。ブラック・ミュージック好きなら、タイトルにピンっ!とくる人も多いはず。同アルバムのプロデューサーはいつもお話を伺っている藤田正さん。「せいぐゎー」先生とブラック・ミュージックの関係を聞きました。 ※『Spiritual Unity』画像提供=ディスクユニオン

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――登川誠仁さん、「せいぐゎー」の愛称で知られ、沖縄全県民に愛された歌三線うたさんしんの名手です。

藤田 誠小と書いて、せいぐゎー。ヤマトグチ(標準語)にしたら「せいちゃん」ぐらいの意味で、先生は多くの方にそう呼ばれていました。主人公の相手役を演じた映画『ナビィの恋』(1999年)のヒットで知名度は全国区に。以降は、どこへ出かけても人だかりができてましたねぇ。
※目下が目上に対して「〇ぐゎー」と呼び捨てするのは、本来はNGです。ご注意を!

――今回、『スピリチュアル・ユニティ(Spiritual Unity)』がアナログ盤化されるのは、どんなきっかけだったんですか?

藤田 共同プロデューサーであり、アルバムで共演したソウル・フラワー・ユニオン(SFU)のボーカル、中川敬君から夏頃に連絡をもらって、アナログ化をしたいと。もともとは16曲収録のアルバムですが、12曲に絞り込んで曲順も若干並べ替えています。

中川さんは、ほんとかどうかは知らないがスピーカーの前に正座して、あらためて集中して聴いてみたら、圧倒的な音像にびっくりしたんだって。レコーディングは北谷ちゃたんのスタジオで行ったんだけど、当時の数日間のセッションが鮮烈に蘇って、「沖縄はもとより、日本列島トラッド・ミュージックの革命的金字塔だ!」と絶対にアナログ盤化すると決めたそうだ。ちなみに録音スタジオは、照屋林賢さん(りんけんバンド/リーダー)がつくったばかりの最新器材がそろった「RINKEN Recording Studio」を使わせてもらいました。

――アルバムタイトルは、ジャズの名盤からとっているそうですね。

藤田 はい、アルバート・アイラーが1965年に発表した名作の題名をそのまま借用しています。なぜなら、三線の登川×ロック・バンドのソウル・フラワー・ユニオンという、一般的に「異質」な掛け合わせがテーマだったから。

黒人のサックス奏者、アルバート・アイラーは1960年代のフリー・ジャズの重要人物のひとりで、『Spiritual Unity』はなかでも最高傑作といわれている作品です。長いゴスペルの歴史が凝縮されている高潔な音楽です。精霊たちが一つとしてまとまる、という題名もぼくらのプロジェクトにぴったり。登川先生にこの主旨を説明したら「ワシには何のことかわからん!」と怒られたけどね(笑)。

ALBERT AYLER TRIO - Ghosts : First Variation

――登川さんには、それ以前にも『ハウリング・ウルフ』というアルバムもありましたね。

藤田 そう、それも、ぼくがプロデュースしています。ミシシッピ・デルタ・ブルーズの大物、ハウリン・ウルフのストロングな声質と、登川先生のそれとを掛けました。小さい頃からの先生の生き方を調べても、ロックの土台を築いた歴史的なブルーズマンとそっくりだと思わせるもんね。沖縄ポップの祖、照屋林助てるやりんすけさんと協働した同作は『スピリチュアル・ユニティ』と並んで、特に思い出深い作品です。

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『ハウリング・ウルフ』(1998年)ジャケットのアートワークは、1950年代から60年代にかけてのブルーノート・レーベルの作品をイメージした。

マディー・ウォーターズとならぶブルーズ界の大物、ハウリン・ウルフ
Howlin' Wolf - Down In The Bottom (Live)

代表作 Moanin’ In The Moonlight
タイトル通り、月に向かって咆哮するハウリン・ウルフ!

――藤田さんがブラック・ミュージック好きだから、登川さんの作品タイトルはゴリ押しで付けたと思ってましたよ。

藤田 ゴリ押しはしていないけど、SFUの共演とかにしても、ぼくの企画性は相当に出ている。林助先生の音楽作品と書籍をつくらせてもらいながら、続いて登川先生とも仕事を始めたんだけど、予想通りに、沖縄の一部の方からは強い批判が出ました。ぼくはウチナーンチュじゃないしね。

登川誠仁~登川流といえば戦後島唄の中軸です。そんな先生の音楽に、伊丹英子(SFU)のチンドンが重なるし、中川敬のボーカルはかぶさるしで、「許せん!」と怒ってる方は今もいるんじゃないんですか? でも島唄史上「異種格闘技」を率先した改革者こそ登川誠仁だった。じゃなければスタジオで「今度は、ワシが太鼓をダビングする!」って楽しそうにセッションしてくれないでしょ(笑)。

――へぇ、そうなんですか! 先生は「沖縄のジミ・ヘンドリクス」とも例えられていました。ちなみに、ウィキペディアでは「早弾きを得意とし、かつてはエレキギターも演奏しており、撥ではなくピックで三線を演奏するから」そう言われるとあります。三線×ピックでジミヘンなら、私だってジミヘンですよ(笑)。

藤田 あきさみよー(Oh my godのウチナーグチ)! まァ、一般的には水牛の角でつくったバチで三線を弾くと思われているからそんな記述になっているんだろう。琉球古典音楽では水牛のバチ(ツメ)だけど、ギター・ピックや意図して自分自身の爪で直接弾く人も島唄(伝統的大衆歌)では少なくない。登川先生は3系統のツメを使い分けていた人だった。ただ、エレキ・ギターを弾いていた……って「?」。民謡ショウの時代にエレキ四味線は弾いていたみたいだけど。先生の歴史は、ぼくと二人でつくった『オキナワをうたう 登川誠仁自伝』(新潮社)を読んでください。

登川先生の本領は、強くスイングする三線のビート感と緊張感を緩めることのないボーカルにあります。それを改造三線の六線ろくしんで弾くと、ダイナミックさ、パワフルさがより増す。「ジミヘン」は後年になって呼ばれたキャッチ・フレーズ。確かに若い頃から「早弾きのセイグヮー」として知られてもいたけど、ボーカリストとしては『スピリチュアル・ユニティ』の頃の、お年を召した時のレコーディングが本当に素晴らしい。
※六線は、12弦ギターの構造と同じく、弦はダブル・コースで計6本。アルバム・ジャケット写真で手にしているもの 

――アナログ盤『スピリチュアル・ユニティ』でも、ダイナミックな六線サウンドが聴けるんですよね?

藤田 沖縄よ、立ち上がれ!とうたう、戦後すぐにつくられた名曲「ヒヤミカチ節」以外は、すべて六線での演奏です。

アナログ盤は特にそうだけど、本作の軸は中川敬もボーカルとして加わった「緑の沖縄」(A面5曲目)。この歌は今も沖縄のラジオでコンスタントに流れています。結果的に、藤田・中川のプロデューサーの意図が広く伝わったということであり、嬉しいです。題名から想像するに「観光用の島唄」みたいだけど、正反対だから。沖縄はずっと緑の島であってほしいと願う祈りの歌なのね。中川敬も言ってたけど、沖縄戦を背景にしたすごい歌です。ぜひレコードに針を落として、じっくり味わっていただきたいです。

「緑の沖縄」登川誠仁 with Soul Flower Union 


リリース20周年記念 沖縄島唄名作の超限定アナログLP化!
SPIRITUAL UNITY / スピリチュアル・ユニティ
(リスペクトレコード/RESDU-001)
発売日:11/27(土)レコードの日
価格:4,070円(税込)

★登川誠仁さんの生き様について詳しくはコチラ↓

★オリジナル・アルバム(全16曲収録)はコチラ↓




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