米田酒造・李白酒造訪問記【正調ミステリーハンター in 島根(1/5)】

去る3/16(月)~3/17(火)、島根県(一部鳥取県)に正調粕取焼酎のフィールドワークに行ってきました。
(経緯をご存じない方は、先日のエントリをご覧ください。)

この記事から5回にわたって、その様子をご紹介します。
現地の雰囲気が伝わるように、文章よりも写真多めで行きたいと思います。

■出雲から松江へ

山陰地方の冬は、一日の中で目まぐるしく天候が変わります。
このため、当地には「弁当忘れても傘忘れるな」という言い回しがあるそうです。

調査初日の天気予報は「雨のち晴れ」、朝起きると「雪混じりの雨」ということで、いかにも山陰らしい天候の中でのスタートとなりました。
前泊地の出雲から、朱いディーゼルカーに揺られて松江へと向かいます。

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車窓は市街地、田園、そして宍道湖と移り変わります。
ああ、旅情。。。

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松江駅に着いた直後に、雨がやみました。

島根県の県庁所在地である松江は、江戸時代より城下町として発展し、風情ある町並みが残ることから「山陰の小京都」と呼ばれます。

松江駅は市街地の南寄りに位置し、かつての城下町の「外れ」に当たります。ここから、松江城の方角に歩き始めます。

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■米田酒造(正調粕取焼酎&粕取みりん「七寶」醸造元)

松江駅から10分少々北に歩くと、大橋川という大きな川を渡ります。
(この頃には青空も見えてきました。)

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大橋川は、東の宍道湖と西の中海、さらには日本海を結ぶ水運の大動脈であり、その北岸は江戸時代から商業地となっていました。
その一角に、最初の目的地である米田酒造があります。

明治28年に当地で創業した米田酒造は、主力商品の日本酒「豊の秋」のほか、粕取焼酎、味醂、料理酒、リキュールなど、多彩な商品を製造・販売しています。
県内でも有数の規模を誇る酒蔵ですが、松江市内の水と全量県内産の酒造好適米を使用し、松江とその周辺で多く消費されるなど、地域密着の「地酒」として親しまれています。

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「酒」の文字をあしらった把手を引いて、趣のある建物に入りましょう。

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広々とした玄関に、所狭しと商品が並ぶ様子は圧巻です。
また、所々に酒造道具やグッズなどもディスプレイされ、遊び心も感じられます。

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前日に電話で「粕取焼酎のことを知りたい」とお願いしていたので、製造の方に対応して頂きます。ありがとうございます。

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まずは、粕取焼酎「七寶」の25度と35度、それから、米焼酎味醂「七寳」を試飲しつつ、あれこれお話しを伺います。

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粕取焼酎「七寶」は、籾殻と酒粕の香りがダイレクトに伝わって来ます。一方、漬物っぽい発酵の香りは控え目で、全体として引き締まった印象を受けます。
アルコール度数25度と35度の商品を比べると、後者の方が甘味とオイリーさがより強く感じられ、自分としては好みです。

米焼酎味醂「七寳」は、一般のみりんとは一線を画する濃厚かつ複雑な甘味がたまりません。
米田酒造は粕取焼酎で仕込んだ味醂も造っており、実はそちらが本命だったのですが、この日は残念ながら試飲出来ませんでした。きっと、より一層豊潤な味わいなのでしょう。

もちろん試飲だけではなく、粕取焼酎2種と粕取味醂を購入しました。

その後、受付の方から「社長の話を聞かれますか?」という有難い申し出を頂いたので、少し離れた場所の事務所に伺います。

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※社長さんの後ろ姿↑

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社長さんは穏やかな雰囲気の方で、突然の訪問にも関わらず粕取焼酎のことを丁寧に、そして力強く語ってくれました。

製造の方、そして社長さんから伺った内容は、次の通りです。

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<製造暦>
日本酒の製造シーズンが終わる春に、酒粕を足で踏み込んで空気を抜き熟成させる。その際、普通酒から大吟醸まで全てのスペックの酒粕をミックスする。
・酒粕(踏み粕)は、夏の間に漬物(奈良漬)用として販売し、フスマ(出雲弁で籾殻のこと)を入手できる10月になると、残った粕を蒸留する。この時期になると建物の周囲に独特の香りが漂い、近所の方から「今年も始まりましたね」と声を掛けられる。
・出来上がった粕取り焼酎はしばらく熟成させ、翌夏以降に出荷するとともに、自社製「粕取りみりん」の製造に用いる。
・秋の粕取り焼酎の製造、冬の日本酒の製造、春から初夏のみりん・地伝酒(出雲特有の料理酒)の製造、夏のリキュールの製造を組み合わせることによって、通年の製造体制を敷いている。

<蒸留の方法>
・蒸留に使用する常圧蒸留器はアルミ製で、角型蒸篭と冷却器が横に並び、パイプで接続されている。
・熟成した酒粕(踏み粕)とフスマ(出雲弁で籾殻のこと)をスコップでかき混ぜて蒸篭にセットし、蒸留が終わったら蒸留粕を取り出す
・製造量はその年の酒粕の発生量によって異なるが、一日に何回も蒸留を行い、それが10月の数週間続く。全て人力の重労働である。
・蒸留は洗米場で実施し、蒸留の時期以外は器械を分解して片付ける(なので、この日は残念ながら器械を見ることができなかった)。

<焼酎粕の農地還元>
焼酎の蒸留粕は、有機栽培を行っている奥出雲町の農家まで運搬し、トマトや蕎麦などの畑に還元されている。

<粕取り焼酎の需要>
・粕取り焼酎は、家庭の奈良漬(酒粕を延ばす)、蒲鉾(名物「あご野焼き」)の製造、自社製みりんの製造に使用される。
・地域によっては、砂糖を加えたり、みりんと混ぜた「柳蔭」として飲まれるが、現在は飲用の需要はだいぶ減っている。

<今後の見通し>
・まだ奈良漬や蒲鉾の需要があり、自社の「粕取りみりん」も根強い人気があるので、粕取焼酎の製造を続けて行きたい
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いきなり「島根正調」の核心に触れるお話しを伺えて、大いに興奮、そして感激いたしました。
そして、何と!何と!「10月なら蒸留を見学できます」とのお言葉を頂きました!!!
これはもう、蒸留見学ツアーで再訪するしかない。。。

とにもかくにも、日本酒シーズンの終盤でまだまだお忙しいにも関わらず、皆様に丁重にご対応頂いたこと、ここに御礼申し上げます。

なお、粕取焼酎の蒸留の様子は、米田酒造のウェブサイトでも紹介されています。

■李白酒造

時系列は前後しますが、米田酒造での試飲の後、社長さんの時間が空くまでの間に李白酒造に伺いました。
こちらは、もう正調粕取焼酎を造っていないと聞いていたのですが、事実をこの目で(耳で?)確認したかったのです。

江戸時代、米田酒造の周囲が「町人地」であったのに対し、李白酒造の周囲は「武家地」であったため、どことなく落ち着いた雰囲気が漂います。

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ご対応頂いたのは、おそらく女将さんだと思われます。
粕取焼酎の製造は4~5年前にやめてしまったそうで、その理由は奈良漬などの需要の減少とのことでした。
他にお聞かせいただいた内容は、米田酒造とほぼ同じ(但し、李白酒造は味醂製造は行っていない)でした。

現在は米焼酎を2種類製造(うち1種類は樽熟成)しています。

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こちらも丁寧にご対応頂いたこと、御礼申し上げます。

なお、もしかするとデッドストックが残っているかも、、、と思って周囲の酒屋を回ったのですが、残念ながら見つけることができませんでした。

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松江にて大充実の酒蔵訪問を終え、米田酒造でご紹介頂いた蕎麦屋さんでお腹を満たし、午後は出雲市平田へと向かいます。

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(ごぼう天蕎麦がむちゃくちゃ美味かった。)

第2回へと続きます。

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