【テキスト】スキマゲンジ第35回「若菜下」その1

前回のあらすじ。
明石の女御が男の子を出産。女三の宮が気になって仕方がなかった柏木は、その姿を見てしまい、より思い焦がれています。

スキマゲンジ第35回「若菜下」その1
流れのままに。

女三の宮に対する恋心は、尊敬してやまなかった源氏の君に対してよこしまな気持ちを起こさせてしまったのでしょうか。源氏の君を見ては「こんなことを思ってはいけない。人に非難されるようなことはすまいと常々思っているのに」と心を乱しています。

「あの猫だけでもそばにいてくれたら」と狂おしいほどの思いに駆られるのですが、猫を盗み出すことすら難しいのです。

柏木は、妹の弘徽殿の女御のところに行って気を紛らわせようとしたり、女三の宮の兄である皇太子のところに行って面影を訪ねようとしたりしています。皇太子のところにもたくさん猫がいました。「六条のお邸にも珍しい唐猫がいましたよ」と皇太子に告げると、皇太子はその猫を宮中に連れてこさせます。柏木は上手く言いくるめて、その猫を自分の邸に連れて帰るのでした。

邸の女房たちが「今まで動物など可愛がったこともないのに」と不思議がるのを尻目に、懐に入れて可愛がっています。皇太子から返すように催促があっても、参上もせず独り占めしているのでした。

さて、冷泉帝は即位して18年が経ちました(とはいえ、まだ27歳です)。跡継ぎになる子もいないし、もうのんびり暮らしたい、ということで突然譲位してしまいました。皇太子も充分大人なので、これといった政情の変化はありませんでしたが、太政大臣は辞職してしまいました。夕霧は25歳。大納言に、髭黒大将は右大臣になりました。明石の女御が産んだ若宮は6歳で皇太子になりました。

女三の宮は20歳になっています。大切にされ、敬われてもいましたが、紫の上には到底及びません。源氏の君が46歳、紫の上が38歳、一緒に暮らす年月が長くなるにつれ、より二人の仲は良くなっていて、不足な点は全くなく、心の隔たりもなくなっていますが、紫の上が「この世はこんなものだと思う歳にもなりましたので、出家して心静かに暮らしたいと思います。どうかお許しくださいませんか」など真面目に言うことが時々あります。源氏の君は、「私が出家したいとずっと思っていたのに、あなたのことを考えるとそれもできずに来たのですよ。そういうことは私が出家してから考えてください」と反対するのでした。

秋、源氏の君は、明石の君と明石の女御、明石の尼君、そして紫の上とともに、住吉詣でをします。女房たちの車だけでも13台、それに大勢の上達部たちや楽人たち、その従者たちと、素晴らしい行列となって住吉の神社まで練り歩くのでした。世間の人たちは、運のいい人の例えとして「明石の尼君」と口にするようになっています。

朱雀院は一心に仏道のお勤めをしていて、政治には口出しをしません。ただ女三の宮のことだけは常に気にかけています。源氏の君も、そんな朱雀院や兄である帝の気持ちを推し量って、今は二日に一度は女三の宮のところに通っています。

紫の上は、源氏の君の愛を疑うことはありませんが、これからもっと年を取っていくと自分のところにいてくれることがもっと減っていくだろうから、そうなる前に出家したいと思い続けています。源氏の君が来ない夜は明石の中宮が産んだ姫をかわいがって過ごすのでした。

夏の御殿の花散里は、紫の上がたくさんの孫の世話をしているのがうらやましくて、夕霧の子どもを頼み込んで世話をしています。

髭黒右大臣は、以前より頻繁に六条の邸に来るようになり、玉鬘もすっかり落ち着いて何かの折には同行してきます。紫の上とも仲良くつきあっています。

女三の宮だけは、相変わらず子どもっぽいままなので、源氏の君は小さい娘を扱うように気にかけ、育てているのでした。

朱雀院が「死ぬ前にもう一度、女三の宮に会いたい」と言うので、源氏の君も訪問を計画します。女三の宮はもともと琴を習っていたので、朱雀院のところを訪問するときに披露しようと熱心に教えています。

次回スキマゲンジは、第35回「若菜下」その2。
愛のかたち。お楽しみに。



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